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冴えない社畜リーマンな俺が、秒で獣人魔王に堕とされたわけ
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「ふざけるなっ!さっさと会社に返せっ」
硬質な金属音とともに、俺の両脇に控えていた騎士風の男二人が、つばを飛ばして怒鳴る俺を槍でおさえつける。
謁見の間とおぼしき玉座の前で、後ろに手を縛られ、大理石の冷たい床に押さえつけられ、俺は盛大に怒りを爆発させていた。
ぐるりと居並ぶ屈強な男たちは、剣を腰に携え、俺をにらみつけている。
彼らが変わっている点といえば、だいたいみんな、どこか獣くさい。あるものは犬のような耳を生やし、またあるものは顔つきが猫そのもの。かといえば、鳥のように嘴や羽根をはやしたものもいる。
俺の両脇にいる槍を持ったやつなんて、二人とも馬っぽい。右のやつは二本足の馬で顔も馬マスクかよって感じだが、左のやつは馬耳生やしてるだけで顔は人間の男そのものだ。
つまり、獣度は様々なのだが、彼らは獣人なのだった。
ただ、一人。
俺を冷酷な目で見下ろす玉座に座った男以外は。
さきほどから『魔王』と呼ばれているその男だけは、上から下まで完全に人間であった。美しい銀の長髪に、漆黒の切れ長の瞳。口元を酷薄そうに歪めて、床に這いつくばる俺を眺めている。
「ふむ。それが貴様の答えか。この私の元で働くのを拒むと……?」
魔王の言葉とともに、真横の槍の穂先がギラリと剣呑に光る。
今この場で、回答次第では下手すれば殺されるかもしれない。そんな状況で、二徹中のデスマーチまっさかりで異世界転移とやらをさせられた俺は、怒りと焦りに沸き立つ脳みそを抱えながら吠えた。
「明日が、納期なんだよおおおっ!!」
魔王とやらは、くくっと含み笑いしながら、俺に冷酷に告げた。
「良い目だ。一晩で、お前を懐柔してやろう」
いや、明日納期って言ってるだろっ!!
◇◇◇
馬面獣人たちに引っ立てられるように、俺は城の奥深くに連れて行かれた。
ちなみに、仕事中に意識が遠のき気づいたらこの城の城門前に倒れていて、そのまま怪しい奴めと捕らえられてからの、さきほどのアレだった。
今は夜なのだろう、廊下は薄暗くところどころロウソクの灯りがあるだけで、床も壁も黒っぽい石造りでどうにも華やかさがない。
畜生っと毒づきながら、廊下の窓から外が見えないか目を凝らす。
残念ながらロウソクの灯りを完全に反射した窓には、目の下にクマをつくり、髭が小汚く伸び、髪もぼさぼさでくたびれたスーツをやや乱れた感じに着ている中年の男が、馬面二匹に挟まれて映っているだけだった。
廊下のつきあたりの、重々しげな黒い扉を馬たちがギギッとあける。
馬たちは、俺をその部屋内におしこむと、扉をこれみよがしに閉めて、そそくさと立ち去った。
そこは広々とした居室だった。
中には豪奢なベッドや、猫脚のテーブル、チェストなどが置かれている。廊下とは打って変わって白い壁紙に赤と金を基調とした内装は、ゲームなどにでてくる中世の城の一室といった雰囲気だ。
ひとつ違和感があるとすれば、部屋の真ん中に子供が遊ぶようなビニールプールが置かれていたことくらいか。
青いビニールプールだ。
何の変哲もないが、ここにあるのは違和感しかない。
すんごい、中を見てみたいんだけど。
「罠か……?」
無駄に警戒心の強い俺は、ひとまず、今入ってきた扉が開かないか確認してみる。
この城から出れば会社に戻れるかもしれない。
残念ながら扉はがっちりと鍵がかかっており、びくともしない。
渋々、ビニールプールに近づいて中を見てみる。
おそるおそる覗き込めば、浅い水につかった真っ白なふわふわがそこにはいた。
「キュ?」
「あっ!?はうあ!?ああああっ、かわいいっ!!!ごまちゃんっ!!!」
ゴマフアザラシの赤ちゃんだった。淡く銀がかった毛並みは触ればどこまでも指が沈みそうだ。
プールの中から、俺をつぶらな目で見上げてくる。
「キュキュ?」
鳴き声すらも愛らしい。
その可愛らしさは、仕事に忙殺されてメキシコの荒野のごとく荒れすさんだ俺の心を、ナイアガラの瀑布もどうかという勢いで潤した。
「はわわわわ、さわりた、さわりたあああ」
どうぞ、みたいにアザラシがヒレを俺に差し出す。
耐えられず俺はアザラシをだきあげ、近くのバスタオルでふきふきして、だっこする。
思ったより軽くて、想像よりも柔らかくて、適度な重みとつぶらな潤んだ瞳で間近に見上げられて俺は全力でもふもふすりすりした。
「キュッキュッ!」
アザラシがなにやらヒレで指し示す先をみれば、青いバケツ。その中には、アザラシのお口に合いそうな生魚がはいっていた。
「おさかな?おさかなほしいの?もぐもぐしちゃう?たべさせてあげるね?」
俺の手から、ぱくっとお魚をくわえて嬉しそうに食べるアザラシ。
「かわいい~、もっといっぱい食べて~」
ひたすら幸せそうに魚を食べるアザラシは、深海の海底のごとく殺伐とした俺の心を一瞬で竜宮城の鯛や平目が舞踊る宴会場のごとき華やかさに変えた。
ひとしきり魚を食べ終えて満足しているアザラシの口やヒレをふきふきしてあげる。ちっちゃく、ケプッとしてるのもまた愛らしい。
「キュッ!」
今度はごまちゃんは、ヒレでぴっとベッドを指し示した。キングサイズのベッドは天蓋もついており、見ただけで寝心地が良さそうなのがわかる。
「ねむくなっちゃったの?いっしょにねる?」
「キュー!」
そんなに嬉しそうに鳴かれて、ノーといえる人間がいるだろうか、いやない。
アザラシがベッドで寝るかどうかとか、そんなことはどうでもよかった。
ベッドはスプリングの軋みなど一切感じさせず、ただひたすらに肌触りよく、ごろりと横になれば適度な弾力で沈み、まるで宙に浮いてふわふわと漂っているようだ。
そして、横にはかわいいふわふわアザラシ。俺の体に寄り添うように、くっついてくる。あったかい。
「ああ、しあわせ、さいこう、ずっとこうしてたい」
仕事のことも、納期のことも、アザラシの可愛さの前では、もはやどうでもよかった。
アザラシは、つぶらな目をぱちぱちすると、そのままうとうとと目を細める。俺によっかかって穏やかな寝息を立てるアザラシは、休日出勤中の曇天垂れ込むシルバーウィークの空のような俺の心を、高校時代の夏休み部活で行った学校でばったり気になる子と出会ったときの晴れ渡る入道雲のふわふ⸺気づいたら寝てた。
◇◇◇
鳥のさえずりに目を覚ます。
この睡眠欲が満たされる感じは久しぶりだ。大きく伸びをしようと腕を伸ばしたら、なにかにあたった。
「目覚めはどうだ、異世界からの来訪者よ」
その声に慌てて見れば、俺の横には白銀の長髪を優雅にベッドの上に流した魔王とやらがいた。
裸でシーツだけ腰から下にかけて俺の横に寝てる。
「おわああ!?ごごご、ごまちゃんは!?」
きょろきょろしても、あのあったかいふわふわはどこにもいない。
「あんなに情熱的に、この私の世話をしてくれたのに、つれないものだな」
そんなことを言いつつ魔王が俺の腕を掴んで、ぐいっと引き寄せてくる。
「えああ!?いや俺そういう趣味はほんとないんだけど!!」
びびりまくる俺の前で、ぽむっと音がしたかと思えば、昨日一緒に寝たアザラシが現れた。そして魔王は消えた。
「あああ、ごまちゃん、おはよおおお、朝からかわいいねえええ」
とりあえず目の前の可愛さに深く考えず、ぎゅむっと朝の抱擁をする。俺の頬に、アザラシがヒレをぴっとあてた。
『異世界からの来訪者よ。おまえの仕事は、この私の世話係だ。毎日もふもふなでなでするのがおまえの主な仕事だ。どうだ、私の元で働かないか』
それはまさしく、アザラシから発せられた念話だった。
「働きます!!」
つぶらな瞳で見つめられ、よく寝て頭もスッキリした俺は、仕事や納期がバカらしくなって、秒でうなずいた。
ちなみにこの世界は獣人の世界というか、獣が人に変化できる世界らしい。能力が高いほど、より人に近い姿に化けることができる。魔王クラスだとアザラシから完全人間体への変化が可能なのだそうな。そして、もふられることが彼らの魔力の源になるとかなんとか。
今思えば、アザラシの毛の色と魔王の髪の色、一緒だったわ。
わかるかっ!
◇◇◇
こうして俺は、その後、風呂入って美味しいもの食べさせてもらって、魔王軍の制服着て、またあの玉間にいるのだった。
目の前には銀髪の魔王が、足を組んで玉座に座っている。その前で俺は、額を床に擦りつけんばかりにひざまずいていた。
「魔王さまのためにぜひ働かせてください!」
「いいだろう、三食昼寝付き、実働三時間/日、長期休暇あり、有給取り放題、フレックスタイム勤務も可だ」
「一生ついていきます!」
昨日とは打って変わって完全服従の姿勢を取る俺を前に、周りの獣人たちの「魔王様、すっげえ」「昨日あんなに頑なだったのに」みたいなヒソヒソ声がとびかっていたが、俺は気づかなかった。
このあと俺は、三六協定あるよみたいな事を言って勇者を懐柔したり、アザラシ小脇に抱えて異世界中を旅行しまくったりと、楽しくあれこれやるのだが、それはまた別のお話。
(つづきません)
硬質な金属音とともに、俺の両脇に控えていた騎士風の男二人が、つばを飛ばして怒鳴る俺を槍でおさえつける。
謁見の間とおぼしき玉座の前で、後ろに手を縛られ、大理石の冷たい床に押さえつけられ、俺は盛大に怒りを爆発させていた。
ぐるりと居並ぶ屈強な男たちは、剣を腰に携え、俺をにらみつけている。
彼らが変わっている点といえば、だいたいみんな、どこか獣くさい。あるものは犬のような耳を生やし、またあるものは顔つきが猫そのもの。かといえば、鳥のように嘴や羽根をはやしたものもいる。
俺の両脇にいる槍を持ったやつなんて、二人とも馬っぽい。右のやつは二本足の馬で顔も馬マスクかよって感じだが、左のやつは馬耳生やしてるだけで顔は人間の男そのものだ。
つまり、獣度は様々なのだが、彼らは獣人なのだった。
ただ、一人。
俺を冷酷な目で見下ろす玉座に座った男以外は。
さきほどから『魔王』と呼ばれているその男だけは、上から下まで完全に人間であった。美しい銀の長髪に、漆黒の切れ長の瞳。口元を酷薄そうに歪めて、床に這いつくばる俺を眺めている。
「ふむ。それが貴様の答えか。この私の元で働くのを拒むと……?」
魔王の言葉とともに、真横の槍の穂先がギラリと剣呑に光る。
今この場で、回答次第では下手すれば殺されるかもしれない。そんな状況で、二徹中のデスマーチまっさかりで異世界転移とやらをさせられた俺は、怒りと焦りに沸き立つ脳みそを抱えながら吠えた。
「明日が、納期なんだよおおおっ!!」
魔王とやらは、くくっと含み笑いしながら、俺に冷酷に告げた。
「良い目だ。一晩で、お前を懐柔してやろう」
いや、明日納期って言ってるだろっ!!
◇◇◇
馬面獣人たちに引っ立てられるように、俺は城の奥深くに連れて行かれた。
ちなみに、仕事中に意識が遠のき気づいたらこの城の城門前に倒れていて、そのまま怪しい奴めと捕らえられてからの、さきほどのアレだった。
今は夜なのだろう、廊下は薄暗くところどころロウソクの灯りがあるだけで、床も壁も黒っぽい石造りでどうにも華やかさがない。
畜生っと毒づきながら、廊下の窓から外が見えないか目を凝らす。
残念ながらロウソクの灯りを完全に反射した窓には、目の下にクマをつくり、髭が小汚く伸び、髪もぼさぼさでくたびれたスーツをやや乱れた感じに着ている中年の男が、馬面二匹に挟まれて映っているだけだった。
廊下のつきあたりの、重々しげな黒い扉を馬たちがギギッとあける。
馬たちは、俺をその部屋内におしこむと、扉をこれみよがしに閉めて、そそくさと立ち去った。
そこは広々とした居室だった。
中には豪奢なベッドや、猫脚のテーブル、チェストなどが置かれている。廊下とは打って変わって白い壁紙に赤と金を基調とした内装は、ゲームなどにでてくる中世の城の一室といった雰囲気だ。
ひとつ違和感があるとすれば、部屋の真ん中に子供が遊ぶようなビニールプールが置かれていたことくらいか。
青いビニールプールだ。
何の変哲もないが、ここにあるのは違和感しかない。
すんごい、中を見てみたいんだけど。
「罠か……?」
無駄に警戒心の強い俺は、ひとまず、今入ってきた扉が開かないか確認してみる。
この城から出れば会社に戻れるかもしれない。
残念ながら扉はがっちりと鍵がかかっており、びくともしない。
渋々、ビニールプールに近づいて中を見てみる。
おそるおそる覗き込めば、浅い水につかった真っ白なふわふわがそこにはいた。
「キュ?」
「あっ!?はうあ!?ああああっ、かわいいっ!!!ごまちゃんっ!!!」
ゴマフアザラシの赤ちゃんだった。淡く銀がかった毛並みは触ればどこまでも指が沈みそうだ。
プールの中から、俺をつぶらな目で見上げてくる。
「キュキュ?」
鳴き声すらも愛らしい。
その可愛らしさは、仕事に忙殺されてメキシコの荒野のごとく荒れすさんだ俺の心を、ナイアガラの瀑布もどうかという勢いで潤した。
「はわわわわ、さわりた、さわりたあああ」
どうぞ、みたいにアザラシがヒレを俺に差し出す。
耐えられず俺はアザラシをだきあげ、近くのバスタオルでふきふきして、だっこする。
思ったより軽くて、想像よりも柔らかくて、適度な重みとつぶらな潤んだ瞳で間近に見上げられて俺は全力でもふもふすりすりした。
「キュッキュッ!」
アザラシがなにやらヒレで指し示す先をみれば、青いバケツ。その中には、アザラシのお口に合いそうな生魚がはいっていた。
「おさかな?おさかなほしいの?もぐもぐしちゃう?たべさせてあげるね?」
俺の手から、ぱくっとお魚をくわえて嬉しそうに食べるアザラシ。
「かわいい~、もっといっぱい食べて~」
ひたすら幸せそうに魚を食べるアザラシは、深海の海底のごとく殺伐とした俺の心を一瞬で竜宮城の鯛や平目が舞踊る宴会場のごとき華やかさに変えた。
ひとしきり魚を食べ終えて満足しているアザラシの口やヒレをふきふきしてあげる。ちっちゃく、ケプッとしてるのもまた愛らしい。
「キュッ!」
今度はごまちゃんは、ヒレでぴっとベッドを指し示した。キングサイズのベッドは天蓋もついており、見ただけで寝心地が良さそうなのがわかる。
「ねむくなっちゃったの?いっしょにねる?」
「キュー!」
そんなに嬉しそうに鳴かれて、ノーといえる人間がいるだろうか、いやない。
アザラシがベッドで寝るかどうかとか、そんなことはどうでもよかった。
ベッドはスプリングの軋みなど一切感じさせず、ただひたすらに肌触りよく、ごろりと横になれば適度な弾力で沈み、まるで宙に浮いてふわふわと漂っているようだ。
そして、横にはかわいいふわふわアザラシ。俺の体に寄り添うように、くっついてくる。あったかい。
「ああ、しあわせ、さいこう、ずっとこうしてたい」
仕事のことも、納期のことも、アザラシの可愛さの前では、もはやどうでもよかった。
アザラシは、つぶらな目をぱちぱちすると、そのままうとうとと目を細める。俺によっかかって穏やかな寝息を立てるアザラシは、休日出勤中の曇天垂れ込むシルバーウィークの空のような俺の心を、高校時代の夏休み部活で行った学校でばったり気になる子と出会ったときの晴れ渡る入道雲のふわふ⸺気づいたら寝てた。
◇◇◇
鳥のさえずりに目を覚ます。
この睡眠欲が満たされる感じは久しぶりだ。大きく伸びをしようと腕を伸ばしたら、なにかにあたった。
「目覚めはどうだ、異世界からの来訪者よ」
その声に慌てて見れば、俺の横には白銀の長髪を優雅にベッドの上に流した魔王とやらがいた。
裸でシーツだけ腰から下にかけて俺の横に寝てる。
「おわああ!?ごごご、ごまちゃんは!?」
きょろきょろしても、あのあったかいふわふわはどこにもいない。
「あんなに情熱的に、この私の世話をしてくれたのに、つれないものだな」
そんなことを言いつつ魔王が俺の腕を掴んで、ぐいっと引き寄せてくる。
「えああ!?いや俺そういう趣味はほんとないんだけど!!」
びびりまくる俺の前で、ぽむっと音がしたかと思えば、昨日一緒に寝たアザラシが現れた。そして魔王は消えた。
「あああ、ごまちゃん、おはよおおお、朝からかわいいねえええ」
とりあえず目の前の可愛さに深く考えず、ぎゅむっと朝の抱擁をする。俺の頬に、アザラシがヒレをぴっとあてた。
『異世界からの来訪者よ。おまえの仕事は、この私の世話係だ。毎日もふもふなでなでするのがおまえの主な仕事だ。どうだ、私の元で働かないか』
それはまさしく、アザラシから発せられた念話だった。
「働きます!!」
つぶらな瞳で見つめられ、よく寝て頭もスッキリした俺は、仕事や納期がバカらしくなって、秒でうなずいた。
ちなみにこの世界は獣人の世界というか、獣が人に変化できる世界らしい。能力が高いほど、より人に近い姿に化けることができる。魔王クラスだとアザラシから完全人間体への変化が可能なのだそうな。そして、もふられることが彼らの魔力の源になるとかなんとか。
今思えば、アザラシの毛の色と魔王の髪の色、一緒だったわ。
わかるかっ!
◇◇◇
こうして俺は、その後、風呂入って美味しいもの食べさせてもらって、魔王軍の制服着て、またあの玉間にいるのだった。
目の前には銀髪の魔王が、足を組んで玉座に座っている。その前で俺は、額を床に擦りつけんばかりにひざまずいていた。
「魔王さまのためにぜひ働かせてください!」
「いいだろう、三食昼寝付き、実働三時間/日、長期休暇あり、有給取り放題、フレックスタイム勤務も可だ」
「一生ついていきます!」
昨日とは打って変わって完全服従の姿勢を取る俺を前に、周りの獣人たちの「魔王様、すっげえ」「昨日あんなに頑なだったのに」みたいなヒソヒソ声がとびかっていたが、俺は気づかなかった。
このあと俺は、三六協定あるよみたいな事を言って勇者を懐柔したり、アザラシ小脇に抱えて異世界中を旅行しまくったりと、楽しくあれこれやるのだが、それはまた別のお話。
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