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 笑い話として受け流そうとしたローゼの脳裏に、唐突によみがえるものがあった。まっすぐ見つめてくるアッシュの青い瞳に、強い既視感が宿る。

”僕と、け、結婚してください”

 あの子の髪の色はもう少し明るかった。
 でも、瞳の色も、少し不安げな思いつめたまなざしも、このアッシュにそっくりだ。

 あぁ、こんなに近くにいたなんて。

 思わず、ローゼは手をのばしてアッシュの頬に触れた。
 懐かしさが胸にあふれる。
 あのちびっこは、ローゼが思っていたよりずっと素敵になっていたのだ。

「良い男になったね」

 その言葉に、アッシュの瞳が確かにうるむ。

 次の瞬間、信じられないほどきつく抱きしめられ、冗談抜きでローゼは骨が折れるかと思った。軽く関節がきしむ。背中が痛いのは、立てた指でつかまれているからか。苦しさに、息がつまる。

「ローゼさん!」

 悲痛とも思える叫びとともにアッシュがローゼを押し倒す。何度も唇の感触を確かめるように、触れるだけのキスをする。毛布をはぎ取り、あらわになった胸の膨らみをきつく掴む。骨ばった大きな手のひらの中で、柔らかな丸みが何度も形を変える。
 今までの紳士ぶりとはうってかわった、アッシュの唐突な衝動に、ローゼは戸惑った。
 
「そんな、いきなり、落ち着いて……んむっ」

 押しとどめようと肩に乗せた手をつかまれて、握りこまれ、また唇をふさがれる。今度は深いキスだった。まるで噛みつくように、何度も唇に、顎に、アッシュの硬い歯があたる。
 反射的につぶっていた目をおそるおそる開ける。間近で見つめてくる青い瞳は、まるで熱に浮かされているようで、視線がからんだ瞬間、ローゼの奥底の熱もぞくりと刺激された気がした。

「あの時から、ずっとあなただけを想っていました」

 キスの合間にささやかれた言葉に、ローゼはまたも耳をうたがった。十年も前のことなのに、一体、どれだけ一途なのか。

 同時に、そんな彼の想いに気づかないローゼを、ずっと無垢に待ち続けた彼の気持ちを想うと、胸の奥が締めつけられる。
 
「あなたの全てが好きです。
 あなたの笑顔も好きですし、
 ちょっとムッとしてる顔も可愛らしいです。
 男勝りなところもかっこいいし、
 ダンジョンの楽しみ方も素敵です。
 モンスターに果敢に立ち向かう勇ましさにもほれぼれしますし、
 クエストのこなし方も丁寧で尊敬しています。
 ずっと、あなたにこんなふうに触れたかった」

 この十年間、一体どれだけローゼを見つめてきたのか。
 きっと、後にも先にも、これほどローゼを想ってくれる男は現れないだろう。
 
 触れてくる唇を、指で押しとどめる。
 頬を両手で挟みこみ、不安げに見つめてくる青い瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

「待っててくれてありがとう。約束通り、結婚しよっか」

 軽く見開かれたアッシュの瞳が、わずかにゆがんでうるむ。何か言いたげに唇をふるわせて、ようやく声を絞りだす。
 
「嬉しいです…………、頑張って良かった」

 ひとつ深いキスをかわしてから、もどかしげにアッシュが上着を脱ぐ。細身ながらしっかりと筋肉がついていて、ランタンの灯りでもその若々しい弾力がよくみてとれた。
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