上 下
7 / 11

7※

しおりを挟む
 どれだけこの状態がつづいているだろう。ロウソクの火はとうに燃えつきている。前後不覚の暗闇のなか、やわらかく熱い粘体に、ローゼはぐったりと犯されつづけていた。

 みちみちと体の奥ふかくでスライムがふるえ、熱い胞子まじりの粘液が吐きだされる。胎内からずるりと抜けると、すぐさま次の刺激があたえられるのだった。
 挿れられる刺激も抜かれる刺激も、妙にあまくて本当に勘弁してほしかった。スライムのくせに一回ひきぬく必要なんてあるのか。ないんじゃないか。そんなどうでもいい思考を、快楽がぬりつぶしていく。

 何時間犯されつづけただろう。口に出される粘液のせいか、空腹や喉の渇きはない。ただ、睡眠も休憩もあたえられないせいで、ときどき耐えきれずに意識がとぶ。ローゼが気を失うたびにスライムの動きがはげしくなり、強制的な快楽とともに意識がひきもどされるのだった。
 そんななか、ローゼはスライムの与える刺激がものたりないことに気づいた。

 もっと、強い刺激がほしい。
 もっと、かたくて太いのがほしい。
 こんな、やわらかなものじゃなくて。
 たとえば。
 
 しびれた頭に浮かぶ考えを、必死でふりはらう。もともとローゼは、性欲が強い方ではない。淫らな欲望を自分が抱くことが、信じられなかった。

(だれでもいいから、本当にたすけて)
 
 心の底からのねがいすらも、快楽にぬりつぶされていく。

 それは、何度目かの意識をとばしたあとのことだった。
 白濁する思考のなか、唇に今までとはちがう感触があった。スライムのつややかな弾力ではない、ざらりとしたぬめり。そして頭の芯にひびく強烈な苦さ。急速に、意識が浮上する。
 
 耳元の声は、男性のものだった。

「……か、…………大丈夫ですか」

 いつのまにか、灯りが戻っていた。
 断続的に与えられる快楽はなく。
 身体をおおっていたスライムの感触もない。

 かすむ視界のなか、誰かがのぞきこんでいる。口にのこる苦さに、思わずむせた。

「水を飲んでください。楽になりますから」
 
 口元にあたるのは水筒だろうか。水を口に含むものの、うまく飲みこめない。口元まで麻痺しているのだろう。飲みたいのに、唇から水がこぼれるばかりだった。

「すみません、失礼します」

 水筒の飲み口の代わりに、柔らかなものが唇に押しあてられる。ゆっくりと水を流し込まれて、やっと飲みこむことができた。
 三回目で、ようやく口うつしで水を飲まされていることに気づく。

 あらためて、ローゼは自分を抱きかかえている男を見た。灰青色の少しくせのある髪に、透明感のある青い瞳。ととのった顔立ちは、冒険者ギルドでしばしば見かけた気がする。たしか、アッシュと呼ばれていたはずだ。
 みるたびに女性に囲まれたり、ねむそうだったりして、女遊びがさかんな男、というのが彼に対するローゼの印象だった。
 とくにあの受付嬢と仲がよく、それがローゼは気にいらなかった。だから、彼を見かけてもなるべく視界に入れないようにしていたのだが。

 見おろしてくるやさしげな青い瞳に、不覚にも一瞬見惚れた。真正面からみると、確かに女性に騒がれるのがよくわかる風貌だ。
 
「麻痺を治す薬も飲ませますね。なるべく全部飲んでください」

 柔らかに低くひびく声も、耳にここちよい。
 次のキスは、水ではなかった。甘く癖のある味が口の中に広がる。それとともに、ぬるりとしたざらつきが舌にからむ。

 はからずも先ほどのスライムの感触を思い出し、身体の奥が熱くなる。いつのまにか、ローゼからも舌をからめていることに気づき、慌てて口をはなした。

「ん……ちゃんと、飲めましたね。もう一口飲みましょう」
 
 濡れた唇をぬぐうアッシュのしぐさの色っぽさに、ローゼはめまいがした。男性なのに、ローゼよりも色気を感じるとかどういうことなのか。
 
(こんなきれいな子と、唇をかさねるなんて)

 役得という言葉が一瞬浮かんだのを、ローゼはふりはらう。介抱してくれているのに、よこしまな気持ちを抱くなんて、彼にもうしわけない。
 
 ふたたび、解毒薬の味が口内に広がる。首の後ろを大きな手でささえられながら、口の中に侵入してくる舌を受けいれる。さすがに今回は、ローゼから舌をからめることはしなかった。おとなしく解毒剤を飲みこむにとどめる。

 解毒剤の味がすっかりなくなっても、アッシュはローゼを離してくれなかった。まるで誘うように舌を舐め、唇をみ、わずかに角度を変える。
 薄く持ちあがるまぶたの向こうの青い瞳に浮かぶのは淫蕩か、恍惚か。恋人同士みたいなキスをされている錯覚に、ふいにローゼは我にかえった。
 
「もう、自分で、飲め、る」
「あ……すみません」

 速攻性の薬だったようで、飲みおわるころには少しずつローゼの身体はうごくようになっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

本日をもって、魔術師団長の射精係を退職するになりました。ここでの経験や学んだことを大切にしながら、今後も頑張っていきたいと考えております。

シェルビビ
恋愛
 膨大な魔力の引き換えに、自慰をしてはいけない制約がある宮廷魔術師。他人の手で射精をして貰わないといけないが、彼らの精液を受け入れられる人間は限られていた。  平民であるユニスは、偶然の出来事で射精師として才能が目覚めてしまう。ある日、襲われそうになった同僚を助けるために、制限魔法を解除して右手を酷使した結果、気絶してしまい前世を思い出してしまう。ユニスが触れた性器は、尋常じゃない快楽とおびただしい量の射精をする事が出来る。  前世の記憶を思い出した事で、冷静さを取り戻し、射精させる事が出来なくなった。徐々に射精に対する情熱を失っていくユニス。  突然仕事を辞める事を責める魔術師団長のイースは、普通の恋愛をしたいと話すユニスを説得するために行動をする。 「ユニス、本気で射精師辞めるのか? 心の髄まで射精が好きだっただろう。俺を射精させるまで辞めさせない」  射精させる情熱を思い出し愛を知った時、ユニスが選ぶ運命は――。

悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~

一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、 十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。 ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。 幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、 目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。 彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。 訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、 やがて彼に対して……? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...