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56. 優しい手

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 56. 優しい手



 それからしばらくして雷も鳴り始める。電気を消しているがこの暗闇でも分かる。咲夜さんは布団に丸まっていて、身体を小刻みに震わせている。本当に怖いんだな……。

「咲夜さん大丈夫か?」

「うっ……うん……」

 その時、窓の外が一瞬明るくなり、その瞬間、咲夜さんの身体が大きく震えた。そして大きな雷鳴が聞こえる。すると咲夜さんはオレが寝ているベッドに潜り込んでくる。

「は?咲夜さん!?」

「お願い!もう無理一緒に寝て!大丈夫何もしないから!」

 ……何もしないって、それ咲夜さんが言うのか?そう思いながらも仕方なく、オレは壁際に寄り、咲夜さんと一緒に横になる。しかし、いくら何でもこれはまずいのでは……。

「あのー……咲夜さん……さすがにこれは……」

「だって一人じゃ眠れないわ!それに颯太君なら変なことしないでしょ?」

 確かに変なことするつもりはないけど……。正直理性を保つ自信がない。好きな人がすぐそばにいるのだ。こんな状況耐えられるわけがなかった。しかもこの状況だ、いつもよりいい匂いがするし、柔らかいものが当たっている気がする。

「お願いだからこのままにしてよぉ……」

 そんなことを言われると断れるはずもなく、そのままの状態でいるしかなかった。

 結局その後雷が鳴る度に咲夜さんは抱きついてくる。何度理性が飛びそうになったことだろうか……。耐えきれるかオレ?

「ねぇ颯太君」

「ん?」

「颯太君って……好きな人いるの?」

「えぇっ!?」

 唐突に聞かれる質問。心臓がドクンッと跳ね上がる。オレは咲夜さんが好きなんだと言えるはずもなく。

「いないかなぁ……」

 嘘をつくことにした。ここで好きだと言ってしまえば、咲夜さんとの関係は確実に壊れてしまうだろう。

「そう……そうなのね……」

 少し嬉しそうな声音で呟く。咲夜さんは一体何を考えているのだろうか。聞いてみたい気もするが怖くて聞けなかった。

「ねぇ……手繋いでもいいかしら?」

「え?……ああ」

 突然の要求に驚きつつも手を繋いだ。その瞬間、咲夜さんの手に力が入る。オレはその手を優しく握り返した。

「ありがとう……おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 それからしばらく無言の時間が続く。時計を見ると日付が変わる直前だった。そしてお互いいつの間にか眠りについていた。

 ちなみに余談だけど、この後、数日間オレは咲夜さんの匂いがするベッドでしばらく快眠するのだった。
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