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393. 姫は『予感』がするようです

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393. 姫は『予感』がするようです



 ライバー面接ということで、高坂さんをオレと桃姉さんは見守ることにする。そして星乃社長に連れられ社長室に入る。

「どうぞ?楽にして?」

 高坂さんがソファーに座り、星乃社長が高坂さんの正面に座る。そして星乃社長は面接を開始する。

 しかし……本当にこのまま面接をしていくのだろうか?オレは星乃社長の考えが読めずにただその様子を見ているだけしかできなかった。そのまま面接は続いていき星乃社長は最後に質問をする。まるで最初から決まっていたような……そんな質問だった。

「あなたは『新しい風』になれるのかしら?」

「なります!もし……今回ダメでも私は何度も挑戦します。どうしてもFmすたーらいぶを色々な人に知ってもらいたいので!」

 その質問に高坂さんは間髪入れずに答える。星乃社長は満足そうに微笑むと、静かに口を開く。

「チーフマネージャー。今年の5期生は何人採用されてるのかしら?」

「はい。本採用は3名。もう1人を採用するか、このまま3人でデビューさせるか、まだ決まっていません」

「高坂さん。正直に言うわ、あなたの情熱は素晴らしいと思う。今の面接の受け答えなら問題ない。でもね、今回の5期生はどこか特化している人を採用しているわ。『歌唱』『ゲームプレイスキル』『配信スキル』……あなたにはそれがないし、配信スキルも経験もない。そしてこのFmすたーらいぶもそこそこ名前の知れたVtuber事務所になった。昔とは環境が違う。その状態で配信素人のあなたを1人採用させるのは、今のFmすたーらいぶにはリスクが大きすぎるわ」

 確かに星乃社長の言う通りではある。ここまで会社が大きくなって来ている以上、何か理由がなければいけない。それこそ『新しい風』と呼べるほどのものを。

「……はい。おっしゃる通りです」

「私としてはあなたを今のままなら採用することはできないわ」

「……分かりました。でも私は諦めません。また必ずオーディションを受けに来ます!それが6期生でも7期生でも」

 そう言った高坂さんはどこか清々しい表情を見せる。きっともう自分の中で目標が定まっているからだろう。そしてその言葉に星乃社長は微笑むと話し始める。

「……そう。あなたはしっかりとした一等星を持っているのね。少し話をしてもいいかしら?このFmすたーらいぶはVtuberプロジェクトから生まれて、今では数多くのライバーが所属し、様々な企画や配信を行う企業へと成長した。でもね……今も昔も変わらないことがあるの」

「変わらないもの?」

「そう。この会社はね、ライバー1人1人が輝ける場所でありたいのよ。その輝きは様々だけど……それぞれにはそれぞれの良さがある。そのために良くも悪くも色々な挑戦をしてきたわ」

 高坂さんは星乃社長の話に真剣に耳を傾ける。

「2期生のコンセプトは1期生のライバル。相乗効果で人気も出てきたし、数多くの企画が生まれたわ。そして3期生は九重キサラさんを軸として、他の期より多い5人にして、ライバーも若い子を採用、同期の箱としての活動が増えたわ。4期生は初めて個人勢の夢花かなえさんを採用し、ライバーの方向性をさらに絞ってより個性に合った人選をしたわ。最後に5期生は『新しい風』をコンセプトにして特化型のユニットを作る」

 そこまで言うと星乃社長は1度間を置く。そして机から一枚の企画書を取り出し高坂さんの目の前に置く。

「星々が輝くことで生まれてくる星座や物語もあるわ。でもね……星座や物語が輝けるのは、それを支える人がいるから。だから星々を輝かせるためには支える人が必ず必要になる。あなたにはそれが出来るかしら?」

「……『運営公式Vtuberプロジェクト』」

「社長。それはまだ企画段階で全然内容も決まってませんよ?」

「知ってるわチーフマネージャー。でも私たちは色々な挑戦をしてきた。ここで新たに挑戦をしてもいいんじゃないかしら?」

「あのこれって……」

「来年あたりに運営スタッフから1人Vtuberを立てる計画があるのよ。Fmすたーらいぶも大きくなってライバーも忙しくなっている。公式企画に割ける時間や人数も限られてきたわ。だから1名スタッフから公式Vtuberとしてデビューさせて、公式企画の司会役やグッズ紹介の配信、あとは色々な情報を発信する業務をさせるつもりなのよ」

 そう話すと改めて星乃社長は高坂さんに質問する。これは……星乃社長にとっても挑戦なのかもしれない。このFmすたーらいぶに新しい風を吹き込むために……

「あなたは『今のまま』なら採用できない。でも公式Vtuberという形なら、Fmすたーらいぶの内情を知ってもらいたいというあなたのやりたいことができるし、それこそ事務所としても新しい挑戦だし、誰にも負けない『新しい風』になる。どう素敵じゃない?あなたは夢を叶えるために努力できる人かしら?」

 すると高坂さんは力強い言葉を発する。その瞳に迷いはなかった。

「やらせてください!」

「分かったわ。あなたの熱意は本物みたいね。あなたの努力と想いを私に見せてちょうだい?チーフマネージャー、人事の部長に伝えておいてほしいわ。5期生は4人でデビューさせると」

「いいんですか?まだ企画段階のものを採用して……?リスクもありますし……」

「そうね。でも高坂さんみたいな熱い想いだけの子……昔から嫌いじゃないわ。それに、来年まで待ってもこの条件に当てはまる人材は他にいないかもしれない。私もたまには挑戦してみたくなったのよ。『いくら準備しても失敗する時は失敗する。大事なのは楽しめるかどうか』じゃない?ねぇ弟君?」

 ……それは姫宮ましろの……オレの言葉なんだが?最初から、この公式Vtuberで採用しようとしてたんだろうな。あらゆる可能性を視野に入れてる。普段は飄々としてるけど、やっぱり企業の社長なんだよな。本当にこの人には敵わない。

「ここで新たな挑戦として、あの子が『新しい風』としてデビューしたほうがFmすたーらいぶが盛り上がる……そう思わないかしら?」

 そう言うと微笑みながら星乃社長は高坂さんの目を見て伝える。それはまるで娘を見守る母親のように。

「改めて高坂陽葵さん。あなたのお手伝いをさせてほしいわ。これから一緒に頑張りましょう」

 その言葉に高坂さんは涙を溜めて星乃社長に頭を下げる。こうして高坂さんは正式に5期生として参加することが決まった。

 きっと彼女なら……

 こうして春が終わりを告げ新しい季節の夏が始まる。これからのFmすたーらいぶに『新しい風』が吹くのをオレは感じていた。
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