上 下
306 / 640

274. 姫は『なんとか』するらしいです

しおりを挟む
274. 姫は『なんとか』するらしいです



 オレはそのまま残した仕事をするため事務所に、月城さんは自分の収録のためにスタジオに行った。事務所での雑務を終え、コーヒーを買って休憩をしていると女性が入ってくる。

「お疲れ様です」

「あっお疲れ様です」

 軽く挨拶をし、その女性も飲み物を買ってオレの向かい側のベンチに座る。

「はぁ……」

 女性はスマホを見ながら悩んでいるようだった。見た目はオレと同い年くらい、身長は少し低めで髪の毛は茶髪で少しウェーブがかった全体的に可愛らしい印象だ。まぁ……オレが気にすることでもないかと思い、コーヒーに口を付ける……

 いや……ちょっと待て……ここで無視するのも違わないか?なんか……嫌だよな。でも、見知らぬ女性に声を掛けるのもハードル高いよな……でもこのままって訳にもいかないし、オレは思い切ってその女性に声をかける。

「あの……初めまして。オレは3期生の『双葉かのん』のマネージャーの神崎颯太と言います。何かあったんですか?」

「あ。こちらこそ初めまして。私は……2期生の『伊集院クララ』です。えっと……本名は朝比奈紗希と言います」

 え?この子がクララちゃんなのか……全然『プロレス芸』のイメージが湧かないが……改めて思うがVtuberってすごいな……とりあえず話を聞くことにする。

「悩み事があるなら聞きますよ。力になれるかは分からないですけど」

「あー……それは……他のライバーのマネージャーに相談してもいいのかな?」

「構いませんよ。朝比奈さんが良ければ」

 朝比奈さんは少し言いづらそうにするが話をしてくれた。話をまとめると最近の配信がマンネリしており、チャンネル登録者の伸びが低迷しているそうだ。何とかしてリスナーのみんなに喜んでもらえるようにしたいが、どうしたらいいか分からなくなったらしい。

 色々企画を考えても、他のライバーがやったほうが面白くなりそうでモチベーションが上がらない。自分には『プロレス芸』しかないのが分かっていても、それが最近は面白いとリスナーには思ってもらえないんじゃないか?そもそも自分には、その能力が欠如しているのではないか……不安になって眠れなくなる時もあるという。

 かなり悩んでるようだった。そして、自分のマネージャーさんに少し休むように言われたらしい。確かにこのまま続けてもどんどんヘラってくだけだろうしな……

 それに『伊集院クララ』のキャラはどっちかと言うと気が強いお嬢様だし、今のメンタルならキャラを維持するのも厳しくなるだろうな。

「来週から休むべきなのか……こんな時……ましろ先輩ならどうするんですかね?」

「え?」

「ほら。私って一応ましろ先輩のライバルポジションでデビューしたじゃないですか?だから、一番憧れてるのはましろ先輩なんです。それこそ配信も切り抜きも良く観てますし……もちろん1期生の先輩は全員尊敬はしてます。去年はましろ先輩と企画配信でしたけどコラボ出来て、少しは自分で頑張ったって思ったんですけどね……こんな私が何言ってんだって話ですけど」

「そんなことないと思うよ。朝比奈さんはVtuberとして頑張ってるよ」

「……ありがとうございます」

 朝比奈さんのマネージャーの判断は間違ってはいない。でも……オレも配信者として伸び悩む時期は経験してるから、気持ちは分かる。何とかしてやりたいけど……どうしたもんか……

 結局大したアドバイスはできずにそのまま仕事を終えて家に戻る。ベッドに横になりながらも朝比奈さんのことを考えてしまう。

「……彼女には武器がある。その武器の『プロレス芸』すら今は……」

 オレじゃダメだ。そう……神崎颯太では。そのままパソコンの電源を入れ、『伊集院クララ』のスケジュールを確認するとタイミング良く配信中だ。そのままチャットを送る。

「分かりましたわよ!うるさいですわね。あなたたち、わたくしの執事とメイドなんだから少しは主人のわたくしを……あれ?え?」

 コメント
『どしたお嬢?』
『御手洗いか?』
『我慢は良くない』

「違いますわよ!それセクハラですわよ!その……ましろ先輩からチャットが……こんなこと初じゃないかしら……あ!かかってきちゃった、どうしよう……」

 コメント
『お嬢語尾w』
『姫がお嬢に何の用だ?』
『とりあえず出よう』

「もしもし?ごめんなさい今配信中ですわ」

 《観てたよ。こんばんは姫宮ましろです》

「どうしたんですの?こんなこと今までなかったですわよ?明日雪降ったりw」

 《ひどいなぁ。ましろさ、クララちゃんに聞きたいことあるんだけど》

「聞きたいこと?今日のディナーの話?」

 コメント
『んなわけないだろw』
『姫のほうが良いもの食べてる』
『やめとけクララ』

「うるせぇクララお嬢様な!……まったくお嬢しか勝たんだろうに!」

 《ましろはコンビニのたまごのサンドイッチと唐揚げ食べたよ》

「答えなくていいですわよ!ましろ先輩のイメージ崩れますわよw」

 ……彼女も立派なVtuberだ。その姿からは悩み事なんて微塵も感じさせない。配信ではしっかりと『伊集院クララ』を演じている。だからこそ辛いんだろう。でもオレが何とかする。彼女は同じFmすたーらいぶの仲間で後輩で……『姫宮ましろ』のライバルだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】エンディングのその後~ヒロインはエンディング後に翻弄される~

かのん
恋愛
 え?これは、悪役令嬢がその後ざまぁする系のゲームですか?それとも小説ですか?  明らかに乙女ゲームのような小説のような世界観に生まれ変わったヒロインポジションらしきソフィア。けれどそれはやったことも、読んだこともない物語だった。  ソフィアは予想し、回避し、やっと平和なエンディングにたどり着いたと思われたが・・・  実は攻略対象者や悪役令嬢の好感度を総上げしてしまっていたヒロインが、翻弄される物語。最後は誰に捕まるのか。  頭をからっぽにして、時間あるし読んでもいいよーという方は読んでいただけたらと思います。ヒロインはアホの子ですし、コメディタッチです。それでもよければ、楽しんでいただければ幸いです。  初めの土日は二話ずつ更新。それから毎日12時更新です。完結しています。短めのお話となります。  感想欄はお返事が出来ないのが心苦しいので閉じてあります。豆腐メンタルの作者です。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

邪魔者王女はこの国の英雄と幸せになります

Karamimi
恋愛
第二王女のレアンヌは、母親が元男爵令嬢で国王の愛人だったことから、王妃や異母姉、さらには父親でもある国王からも冷遇されていた。 母を殺され、たった1人で生きてきたレアンヌだが、動物たちに支えられ、ひっそりと暮らしていた。そんな中、王族に珍しく呼び出された。 どうやら長きにわたり続いていた戦争に終止符を打った我が国の英雄、アントニオの元に嫁げという命令だった。 話を聞くと、この戦争を終わらせることが出来た人物には、公爵位と好きな領地、さらに娘でもある王女を嫁にやると陛下が公言していたそうだ。 ただアントニオは恐ろしいほど強い反面、平民出身なうえ、鉄の仮面を被った不愛想な男性との事。異母姉でもあるカトレナがそんな男に嫁ぐのは嫌だと言ったため、レアンヌに白羽の矢が立ったのだ。 もちろん、彼女には断る権限などない。有無も言わさず、彼の元に嫁ぐことになったレアンヌ。 そんな彼女を待ち受けていたのは… 動物たちに支えられ人間の温もりをほとんど知らないレアンヌと、悲しい過去を抱え、ただ平和だけを願って戦い続けて来た国の英雄アントニオが、本当の夫婦になり幸せを掴むまでのお話しです。 10万文字程度、ご都合主義強めのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

処理中です...