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241. 姫は『やっぱり』らしいです

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241. 姫は『やっぱり』らしいです



 案件が決まった3日後。時間は23時。オレは事務所の会議室にいる。

 今日は衣音ちゃんと一ノ瀬さんに製菓メーカーの『ソプラノ』との案件のことを伝えると共にオレが『姫宮ましろ』だと明かす日だ。

 今回の案件はFmすたーらいぶにとって、重要な案件になるので、説明を星乃社長直々に行うらしい。ちなみにこの遅い時間なのは、いつものようにオレが他のライバーに『姫宮ましろ』だと知らないためだ。衣音ちゃんや一ノ瀬さんには申し訳ないけどな。

 そんなことを考えながら待っていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえ、衣音ちゃんがやってくる。

「おはようございます……あ。神崎マネージャー」

「おはよう衣音ちゃん。そこに座って」

「はい」

 衣音ちゃんはそう言って、オレの正面の椅子に座る。なんか新鮮……いや初めてか。このシチュエーションは。すると今度は一ノ瀬さんがやってきて、衣音ちゃんの隣に座る。

「あの神崎マネージャー」

「どうしたの衣音ちゃん?」

「もしかして……私なんか炎上しちゃったんですかね?こんな時間に重要な話って……」

「大丈夫ですよ衣音ちゃん。それなら私も呼ばれないですし、炎上するなら私の方ですって!」

 いやそんなことはないと思うが……。まぁ一ノ瀬さんなりのフォローなんだと思うけど。不安になっている衣音ちゃんには申し訳ないことしてるよな……彼女はまだ20歳だしな……

 そして会議室に星乃社長がやってくる。

「お疲れ様。遅い時間にごめんなさい。楽にしていいわよ」

 星乃社長がそう言って座る。そして本題の製菓メーカー『ソプラノ』とのコラボ案件のことを話していく。

「早速だけど、製菓メーカー『ソプラノ』のことは知ってるかしら?」

「え?有名な製菓メーカーですよね?よくスーパーとかでお菓子を見かけます」

「私もたまに買いますよ。私の田舎の商店にもありました」

「その『ソプラノ』さんとのコラボ案件が決まったわ。そしてそのコラボ配信をあなたたちにお願いしたいの」

 星乃社長のその発言に顔を見合わせる衣音ちゃんと一ノ瀬さん。そりゃ驚くよな……だって有名な製菓メーカーだし、それに『ソプラノ』とのコラボ配信なんて……

「あの!社長……私たちでいいのでしょうか?その有名な製菓メーカーの重要な案件なら、もっと配信が上手い1期生や2期生の先輩のほうが良くないですか?」

「私……まだデビューしで3ヵ月ですけど……」

「あなたたちにはやってもらいたい理由があるの。それは『ソプラノ』の社長さんのお子さんがFmすたーらいぶのファンで、初コラボの『海の迷宮』を観たいとご所望でね。会社としてこの案件は重要だと思っているわ。どう?」

「あ。姫先輩いるんですね?なら大丈夫ですね」

「ましろ先輩がいれば安心です。やりたいです」

 星乃社長の話を聞き、そう言ってくれる衣音ちゃんと一ノ瀬さん。なんだか複雑だが『姫宮ましろ』を信頼してくれていると思うと嬉しい限りだ。

「そう。それなら配信内容は任せるわね。あとは……弟君、あなたから説明しなさい」

「はい。衣音ちゃん、一ノ瀬さんに大事な話があるんだ」

 いつもとは違う雰囲気のオレに対し、2人が緊張した面持ちでオレの次の言葉を待つ。そしてオレは『姫宮ましろ』について話し出す。

「……Fmすたーらいぶ1期生『姫宮ましろ』は……オレなんだ」

 オレが意を決してそう伝えると、衣音ちゃんと一ノ瀬さんの表情が一瞬で驚きの顔に変わる。そしてその沈黙に耐えきれずオレは言葉を続ける。

「今まで隠してて……騙すようなことをしてごめん……」

「あー……姫先輩はなんとなく男性かなって思ってました。神崎マネージャーだとは思わなかったですけど」

「え?」

「なんか……姫先輩の可愛さは女性特有のものって言うより、男性の理想の可愛さって感じがしてたので……。それに姫先輩は歌うと喋った声より、声が低かったので、それでもしかしたらって」

 まさかの衣音ちゃんからのカミングアウトにオレは驚く。確かに『姫宮ましろ』はオレなりの清楚な女性の理想として作っていたけど……なんか複雑だ。すると一ノ瀬さんも話し始める。

「やっぱりそうだったんですね。初めて私のマネージャーになってくれた時、衣音ちゃんを呼んでくれたからそうかなって。あの日衣音ちゃん姫先輩から連絡あったって言ってましたし。私へのアドバイスもマネージャーのそれを越えてすごいライバー目線で的確で。それにこの前の焼き肉の時に明日香ちゃんへのアドバイスは間違いなく『姫宮ましろ』と同じでした。私は感謝してますし、マネージャーさんが『姫宮ましろ』ならでも納得です」

 そう言って微笑んでくれる一ノ瀬さん。なんかめちゃくちゃ恥ずかしいけど、とりあえず嫌われていないようで良かった……

 そのあとは、オレが『姫宮ましろ』になった経緯を話、2人は納得してくれた。まさか一ノ瀬さんにもバレてたのは驚いたけど。そして、企画内容の打ち合わせを軽くして深夜の休憩室。

「ホッとした……本当に炎上とかじゃなくて良かった。こんな時間に呼び出されることないですから」

「ごめんな。オレのために」

「あっいえ。そういうつもりじゃないです。気にしないでください」

「あのマネージャーさん。あ。えっと何て呼べばいいですがね?」

「今までと同じでいいよ。オレは『双葉かのん』のマネージャーでもあるからさ」

「神崎マネージャー。この事は1期生の先輩と彩芽ちゃん、玲奈ちゃんが知ってるんですよね?」

「そうだな。彩芽ちゃんは4月、1期生はすたフェスのあとに話したかな。玲奈ちゃんは10万人耐久配信の時にオレが勝手に話したけどね?」

 そう考えると、4年目にして本当に最近だな。オレから伝えたのは……それでも少しずつだけど、『姫宮ましろ』が認めてもらえることにオレは嬉しく思うのだった。
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