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144. 姫は『考えすぎ』らしいです

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144. 姫は『考えすぎ』らしいです



 無事に玲奈ちゃん枠のオフコラボが終わり、オレは月城さんと共に晩酌配信用のアルコールやらおつまみをスーパーに買い出しに来ていた。ちなみに夕飯も適当に買うことにしている。

 オレは出前を頼もうと言ったのだが、玲奈ちゃんがスーパーのご飯が食べたいというので、こうしてついでに2人で買い出しに来ているのだ。

 お嬢様の口に合うとは思えないけど、本人の希望だから仕方ない。でもお願いしてきたときの玲奈ちゃんは普通のJKだった。

 晩酌配信は23時からで、その間彩芽ちゃんと玲奈ちゃんは3期生と1周年記念配信の打ち合わせをするようだ。まぁ部屋は別だから玲奈ちゃんの声が配信に載ることはないと思うが、一応気をつけておくことにする。

「ビールはこのくらいでいいかな?」

「買いすぎじゃないか?」

「え?颯太君も飲むでしょ?おつまみは何がいいかなぁ。サラダ食べたいな私」

 この人は一体何本オレの家に酒を置いていくつもりなのだろうか?というかまだ増えるの? とりあえず、お酒とおつまみをカートに入れてレジで会計を済ませ。帰り道を月城さんと共に歩く。

「楽しみだね晩酌配信。颯太君と2人だけのオフコラボ初めてだもんね?この前のひな☆ラジは紫織ちゃんも居たしね」

「月城さんはビール飲みたいだけだろ?」

「バレたか。でも本当に楽しみにしてるんだよ?最近の七海ちゃんとの配信観ててさ、本当に楽しそうだし。私も……3年目にして同期とのコラボに目覚めたのかもね?」

「でも確かにそれはオレもあるよ。というか……オレのせいなんだけどな。だから今までの分取り戻すくらいにこれからはもっと頑張ろうって思ってるよ」

 本当にそう思っている。今になって同期との絡みが増えてきたのは間違いなくオレの影響だろうからな。

 そんな話をしているうちに家に着いたので、夕飯を彩芽ちゃんと玲奈ちゃんに渡して、オレは早速晩酌の準備を始めることにした。といっても、お酒やらおつまみやらを準備するだけだが……。

 そしてあっと言う間に準備が整うと、月城さんが缶ビールを開ける。

「は?まだ配信前ですけど……」

「いいじゃん1本だけ。私喉乾いちゃったし。サラダも食べよう」

「配信事故にならないように注意だけしてくださいよ?」

「分かってるって。それより颯太君聞いた?4期生が入って会社の方針変わったんだって」

「そうなんですか?」

「うん。コラボ解禁が1ヶ月になったんだって。だから4期生は12月からコラボ出来るらしいよ?まぁ……昨今のVtuberの人気もあるし、12月はイベントも多いし、公式企画も多いから、今後は事務所としても早くライバーを売り出したいんだろうね?」

 なるほど。確かにFmすたーらいぶは安定して毎年新しいライバーを売り出してるからな。そういう意味でも早めに新人を出すのは間違っていないのかもしれない。

「早く絡めるのは嬉しいことだけど、4期生は大変だろうね。配信慣れもしていかないといけないし、だからフォローしてあげないとさ」

「そうですね。オレたち先輩がしっかりしないと」

「颯太君は誰の担当がいいとかあるの?」

「担当?」

「うん。4期生は12月中は1期生が一緒に配信してコラボのフォローするんだよ?これもマネージャーさんから聞いてないの?」

 聞いてないんだが。本当に桃姉さんはギリギリまで言わないんだよな。聞いておいて良かった。とは言ってもオレは正体を明かせないし、コラボは配信のみのフォローしか出来ないけど。

 それからしばらく雑談を続けていると、時間は22時50分になっていた。月城さんは1本だけと言いながらもうすでに3本目に突入していた。

「あ。そろそろ準備しないとね~」

「いつもギリギリですよね……」

「あはは。やっぱり同期と話すのは楽しいからさ」

「でもオレは男だし、年下だし、仕事の話しばかりで楽しいですか?」

 すると月城さんは微笑みながら答えてくれた。

「つまらないこと考えるね?逆に颯太君じゃないと男の子で年下でそれで、私と同じ時間をVtuberとして共有してる子いないでしょ?」

「それは……そうですけど……」

「颯太君は色々考えすぎだと思うな。今の君は『姫宮ましろ』じゃないよ?あ。ほらほら始めようか」

 そう言って椅子に座って、4本目の缶ビールを空ける月城さん。さっきの言葉……オレはきっと無意識に裏でも『姫宮ましろ』でいないといけないと思ってしまっていたのだろう。それを月城さんは見抜いていたのかもしれない。

 確か日咲さんの配信でも言われたな……『プライベートの話はしない、だからもっと頼ってほしい』と。そして月城さんも直接的には言っていないが、同期で正体が分かっているから、もっと自由に話していいよと暗に伝えてくれているのかもしれない。

 そう思うとなんだか嬉しくなって心が少し軽くなった気がした。
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