上 下
36 / 738

28. 後輩ちゃんは『不機嫌』らしいです

しおりを挟む
28. 後輩ちゃんは『不機嫌』らしいです



 家に帰るとリビングでは桃姉さんと鈴町さんが『ましのん』の配信の打ち合わせをしていた。

「お帰りなさい颯太。遅かったわね」

「少し用事があったからさ」

「そう。それより来週の『ましのん』配信の企画は考えてるの?」

「その事なんだけど、3期生の『葉桐ソフィア』ちゃんを呼びたいんだけどダメかな?」

 オレがそう言うと2人は驚いた顔をしていた。でもオレはどうしても玲奈ちゃんとコラボしてみたかった。それは玲奈ちゃんのプロ意識を近くで感じたからだ。

 あとは玲奈ちゃんが『姫宮ましろ』のことを疑っているかもしれないからだ。大きな問題になる前にコラボをしておいた方がいい。

 それに鈴町さんは同じFmすたーらいぶの3期生で同期でもあるから、コラボすることは今後の活動にもプラスになるはずだ。

「そりゃ構わないけど、急にどうして?」

「ちょっと事情があってさ。でも大丈夫だよ。ちゃんと考えてあるし、もし何かあればオレが責任取るからさ。だから頼むよ」

「あんたがそこまで言うならいいけど……」

 とりあえず企画書をまとめて明日桃姉さんに提出することになった。オレはそのまま部屋に戻り企画書を作り始める。『ましのん』での初めての企画だからな……インパクトのあるものにしたいところだが……。そんなことを考えていると突然扉がノックされる。そこには鈴町さんがいた。

「鈴町さん?どうかした?」

「あの……少し……私の部屋に……来てもらってもいいですか?」

「え?」

 なぜ部屋に呼ばれたのか分からず、不思議に思いながらも、鈴町さんの後に付いていき部屋に入る。鈴町さんは椅子に腰掛けるとパソコンの画面を指さす。ちょうどディスコードが開かれているので見てみると『葉桐ソフィア』ちゃんからメッセージがきていた。

 鈴町さんが指をさしている画面には『かのんちゃん。颯太さんから聞いたかな?コラボの件、かのんちゃんからもお願いね!』と書いてあった。

「……私……何も聞いてないです……けど」

「ごめん。さっき言いそびれたんだけど、帰りに事務所で『葉桐ソフィア』ちゃんと会って、少しお茶しながら話したんだ。そしてコラボの話になってだな……」

「颯太さんって……名前で呼ばれてて……仲良いんですね……」

「いやそんなことはないぞ?『マネージャーさん』じゃ誰のことか分からないから名前で呼ばれてるだけだよ」

「……ソフィアちゃんとお茶……だから帰りが遅かったんですか?」

「ああ。そうだな。それでその時に相談されて。『ましのん』枠でコラボしようかと思ってさ……」

 鈴町さんはそれを聞くとうつむきながら、小さな声で呟いた。

「私も……ましろん先輩と……2人でお茶したこと……ないのに……」

「え?」

 あれ?もしかしてコラボを勝手に決めたことじゃなくて、オレが玲奈ちゃんとお茶したことを怒っているのか?と言わんばかりの言葉が微かに聞こえたんだけど?

「……なんでもないです」

「いや、何でもなくはないよね?」

「……本当になんでもないので……気にしないで下さい」

 鈴町さんは依然としてうつむいたままだが、なんとなく機嫌が悪そうな声のトーンだった。これはオレが悪いことをしてしまったようだ。

「ご、ごめん。鈴町さんも今度事務所で仕事した帰りに、一緒にお茶とかご飯食べに行こう!」

「……本当……ですか?」

「あ、あぁ」

「……約束ですよ?」

「分かった。約束な」

 そう言った瞬間、鈴町さんは笑顔になり、とても嬉しそうな表情を浮かべていた……ような気がする。鈴町さんが不機嫌で少し怒っているのは初めてかもしれない。少し不謹慎だが、こんな鈴町さんも可愛いと思ってしまうオレがいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪
ライト文芸
 彼女は高校時代の失敗を機に十年も引きこもり続けた。  親にも見捨てられ、唯一の味方は、実の兄だけだった。  ある日、彼女は決意する。  兄を安心させるため、自分はもう大丈夫だよと伝えるため、Vtuberとして百万人のファンを集める。  強くなった後で新しい挑戦をすることが「強くてニューゲーム」なら、これは真逆の物語。これから始まるのは、逃げて逃げて逃げ続けた彼女の全く新しい挑戦──  マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...