上 下
22 / 738

15. 後輩ちゃんは『推し』の話なら熱くなる

しおりを挟む
15. 後輩ちゃんは『推し』の話なら熱くなる



 あれから1週間が経った。その間オレは『姫宮ましろ』としての活動をしつつ、『双葉かのん』のサポートをしていた。そして今日は鈴町さんが家に引っ越しをしてくる日だ。

 ピンポーン チャイムが鳴ると桃姉さんが出迎えに行く。そして荷物を持った鈴町さんが入ってきた。

「機材の設置は終わっているから、後は自由にしてくれていいわよかのんちゃん」

「は……はい……ふつつか者……ですが……宜しくお願い致します……」

「そんな固くならないの。ここを自分の家だと思ってくつろいでね」

「はい……」

 なんか嫁ぎに来たみたいな言い方だったがスルーしておく。まぁ鈴町さんが緊張しているのも無理はない。

「颯太。部屋に案内してあげて」

「ああ。鈴町さん行こう」

「はい……」

 そして鈴町さんを部屋に連れて行く。

「ここは好きに使ってもらって構わないから。一応お風呂の時だけ声をかけてくれ、あとはキッチンとか冷蔵庫とかも好きに使って」

「あの……ましろん先輩……」

「ん?」

「その……これから……よろしく……お願いします」

「ああ。改めてよろしく」

 鈴町さんは荷物を置いて、部屋の機材をチェックし始める。パソコンとディスプレイ、マイクなどの必要な物を買い揃えたし、配信環境は問題ないだろ。

「他に足りないものあるか?」

「いえ……大丈夫……です。そっその……お金……お支払い……しなくて……大丈夫ですか?」

「ほとんど会社のお金だから問題ない。それだけ事務所初ユニット『ましのん』の期待がかかってるってことだから、失敗は許されない。だから鈴町さんは頑張ってくれればそれでいい」

 そのあとはリビングに集まり、桃姉さんを交えて今後の予定を話し合う。

「とりあえず今の活動と平行して『ましのん』の活動をするわ。お互い配信枠を1つ削って『ましのん』に回すこと。基本的な配信時間は土曜日。まぁこれはリスナーたちに発表してからになるけどね。一応発表は来週の土曜日で『姫宮ましろ』の枠で予定してるからTwitterにあげる文とサムネの準備、それと配信内容を考えておいて」

「わかった」

「それと『双葉かのん』のスケジュールを今日の夜までに頂戴。私はグッズの打ち合わせがあるから事務所に行かなきゃいけないの。だからかのんちゃんのこと頼んだわよマネージャー?」

 そう言って桃姉さんは仕事に向かった。さて、鈴町さんの配信内容か。というかオレは鈴町さんのこと何も知らないよな。といっても……会話してくれるか不安しかないんだが。

「鈴町さんは何か得意なこととかあるか?」

「えっと……その……私は……すいません」

 すいません。これは得意なことはないということなのか?それとも話せないことなのか?それからも何個か質問するがほとんど会話にならない。分からん……どうしたものか……

「……でも……好きです」

「え?」

「みんなと……話したり、ゲームやったり……歌ったり……絵を描いたり……私……そういうの好きです……」

 オレは黙って彼女の話を聞いていた。彼女はVtuberが好きなんだろうな。それは配信やSNSを見ていてもよくわかる。きっと彼女は誰かと話したかったのかもしれない。でもそれができなかった。今までの自分を変えるために、Vtuberとして生まれ変わった。そのきっかけを作ったのが『姫宮ましろ』なんだろうけど。

「鈴町さんは『姫宮ましろ』の何の配信が好きなの?」

「全部……大好き……です。ましろん先輩が……一生懸命に……がんばっている姿も……可愛いところも……カッコいいところも……全部……素敵です……」

 こんなに嬉しそうに話す鈴町さんは初めて見た。やっぱりVtuber『姫宮ましろ』の話になると熱くなるんだな。

「鈴町さんはもっと自信を持っていいと思うぞ?確かにまだ人見知りなところもあるし、コミュニケーション能力も低いかもしれない。だけど鈴町さんは努力家で真面目だ。だから胸を張っていい。自分がやりたいことをやればいいんだ」

「私が……やりたい……こと……」

「ああ。やりたいことがあるならそれをやればいい。それにオレも協力するから」

 鈴町さんはガチで陰キャでコミュ障。でもそこには間違いなく情熱があった。だからオレはその想いに応えたいと思った。出来る限りの力を尽くしてやらないとな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪
ライト文芸
 彼女は高校時代の失敗を機に十年も引きこもり続けた。  親にも見捨てられ、唯一の味方は、実の兄だけだった。  ある日、彼女は決意する。  兄を安心させるため、自分はもう大丈夫だよと伝えるため、Vtuberとして百万人のファンを集める。  強くなった後で新しい挑戦をすることが「強くてニューゲーム」なら、これは真逆の物語。これから始まるのは、逃げて逃げて逃げ続けた彼女の全く新しい挑戦──  マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...