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2. 後輩は陰キャでコミュ障
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2. 後輩は陰キャでコミュ障
翌日。オレは朝の配信を終えて、桃姉さんと共に事務所に向かう。他のライバーたちに会った時に困るから、基本的にオレは桃姉さんと一緒だ。
正直、行きたくはないのだが仕事なので文句は言えない。そんなことを考えていたらいつの間にか事務所についていた。オレは桃姉さんの後ろをついていき、そのまま会議室に入る。
「颯太。ちょっと待ってて」
「え?一人にするなよ、誰か来たらどうするんだよ」
「そのためにこの時間にしてるんでしょ。他のみんなは午後から来るようにスケジュール組んでるんだから。誰も来ないわよ」
そう言って桃姉さんはそのまま部屋を出て行ってしまった。まぁ確かにその通りだ。オレは仕方なく椅子に座って待つことにする。秘密を隠すのは疲れるが、これはこれで面倒くさいものだ。
しばらくするとドアが開く、そこにいたのはマネージャーの桃姉さんではなく、小柄な1人の女性だった。
「あ。えっと……あれ?その……う。」
すごい挙動不審だ。というより……これはまずいのでは?新しいスタッフ?それともライバーの誰かか?
「あのこんにちは」
「はい!?あっ……こここ……こんにちは……」
とりあえず挨拶をしてみる。相手は一瞬驚いた様子だったが、一応返事をしてくれた。
顔は下を向いていてよく見えないが、黒髪のボブに赤いカチューシャ。身長は150cmくらいだろうか。服装はピンクのワンピースに白いカーディガンを羽織っている。そしてカバンをギュッと握りしめている。
「あの……」
「その……えっと……あの……ごめんなさい……」
そう言うと彼女はさらに頭を深く下げて謝罪の言葉を口にした。
「ちょっ……あの!いきなり謝られても困るんだが?」
「す、すす……すいません……その……私、緊張しちゃって……その……」
彼女が何を言っているのかいまいち理解できない。緊張するのはわかるが、過剰気味だ。でももしかしたらこれが『コミュ障』というものなのかもしれない。
すると扉が開かれ桃姉さんが入ってくる。桃姉さんが入ってきた瞬間、彼女の肩がビクッとした。うん。この子は間違いなく『コミュ障』だ。
「え?かのんちゃん?打ち合わせは午後だよ」
「え。……でも……私には……10時って」
今にも泣き出しそうな声で答える彼女。なんか可哀想だ。桃姉さんは手元のスマホを見ながら確認をしている。そしてふとこちらを見て目が合う。あぁ。多分オレのこと忘れてただろ。桃姉さんは申し訳なさそうに口を開く。
「本当だ。ごめんね。間違えてたみたい」
「あぁ……えっと……その……はい……すいません」
そして再び俯いてしまう。なんだろうなこの状況は……。
「えっと……もうこうなったらしょうがない。颯太。改めて紹介するわね。この子は3期生のVtuber『双葉かのん』。本名は鈴町彩芽ちゃん」
「どうも……はじめまして……」
消え入りそうな声の自己紹介。ほぼ聞き取れないレベルだ。それに完全に黙り込んでしまった。なんだこれ……。
ちなみに事務所でも身バレしないように初対面以外本名はほとんど晒すことはしない。だからオレは事務所では『ましろ』と呼ばれるし、この子は『かのん』としか呼ばれない。裏でのライバー同士も同じだ。マイク切り忘れとか配信伝え忘れとかの事故も多いからな。
「あのね。かのんちゃん。驚かないで聞いてほしいんだけど……彼は私の弟で神崎颯太。そしてVtuber『姫宮ましろ』なの」
「……。」
無反応。まぁ驚くよな普通。むしろオレも驚いている。まさかこんな形でバレるとは思わなかった。それを聞いても相変わらず彼女は下を向いたままで目を合わせてくれない。おそらく『陰キャ』というものなのかもしれない。
「あの……かのんちゃん?大丈夫?」
「……ははは……はい。だだ、だいじょうぶです……そ。その……男性の方……だったんですね……」
そうは見えんけどな。そのあとは、かのんこと鈴町彩芽さんに桃姉さんは色々説明していた。こうしてオレは『姫宮ましろ』とバレてしまった。
これが『ましろ』と『かのん』の初対面だった。
翌日。オレは朝の配信を終えて、桃姉さんと共に事務所に向かう。他のライバーたちに会った時に困るから、基本的にオレは桃姉さんと一緒だ。
正直、行きたくはないのだが仕事なので文句は言えない。そんなことを考えていたらいつの間にか事務所についていた。オレは桃姉さんの後ろをついていき、そのまま会議室に入る。
「颯太。ちょっと待ってて」
「え?一人にするなよ、誰か来たらどうするんだよ」
「そのためにこの時間にしてるんでしょ。他のみんなは午後から来るようにスケジュール組んでるんだから。誰も来ないわよ」
そう言って桃姉さんはそのまま部屋を出て行ってしまった。まぁ確かにその通りだ。オレは仕方なく椅子に座って待つことにする。秘密を隠すのは疲れるが、これはこれで面倒くさいものだ。
しばらくするとドアが開く、そこにいたのはマネージャーの桃姉さんではなく、小柄な1人の女性だった。
「あ。えっと……あれ?その……う。」
すごい挙動不審だ。というより……これはまずいのでは?新しいスタッフ?それともライバーの誰かか?
「あのこんにちは」
「はい!?あっ……こここ……こんにちは……」
とりあえず挨拶をしてみる。相手は一瞬驚いた様子だったが、一応返事をしてくれた。
顔は下を向いていてよく見えないが、黒髪のボブに赤いカチューシャ。身長は150cmくらいだろうか。服装はピンクのワンピースに白いカーディガンを羽織っている。そしてカバンをギュッと握りしめている。
「あの……」
「その……えっと……あの……ごめんなさい……」
そう言うと彼女はさらに頭を深く下げて謝罪の言葉を口にした。
「ちょっ……あの!いきなり謝られても困るんだが?」
「す、すす……すいません……その……私、緊張しちゃって……その……」
彼女が何を言っているのかいまいち理解できない。緊張するのはわかるが、過剰気味だ。でももしかしたらこれが『コミュ障』というものなのかもしれない。
すると扉が開かれ桃姉さんが入ってくる。桃姉さんが入ってきた瞬間、彼女の肩がビクッとした。うん。この子は間違いなく『コミュ障』だ。
「え?かのんちゃん?打ち合わせは午後だよ」
「え。……でも……私には……10時って」
今にも泣き出しそうな声で答える彼女。なんか可哀想だ。桃姉さんは手元のスマホを見ながら確認をしている。そしてふとこちらを見て目が合う。あぁ。多分オレのこと忘れてただろ。桃姉さんは申し訳なさそうに口を開く。
「本当だ。ごめんね。間違えてたみたい」
「あぁ……えっと……その……はい……すいません」
そして再び俯いてしまう。なんだろうなこの状況は……。
「えっと……もうこうなったらしょうがない。颯太。改めて紹介するわね。この子は3期生のVtuber『双葉かのん』。本名は鈴町彩芽ちゃん」
「どうも……はじめまして……」
消え入りそうな声の自己紹介。ほぼ聞き取れないレベルだ。それに完全に黙り込んでしまった。なんだこれ……。
ちなみに事務所でも身バレしないように初対面以外本名はほとんど晒すことはしない。だからオレは事務所では『ましろ』と呼ばれるし、この子は『かのん』としか呼ばれない。裏でのライバー同士も同じだ。マイク切り忘れとか配信伝え忘れとかの事故も多いからな。
「あのね。かのんちゃん。驚かないで聞いてほしいんだけど……彼は私の弟で神崎颯太。そしてVtuber『姫宮ましろ』なの」
「……。」
無反応。まぁ驚くよな普通。むしろオレも驚いている。まさかこんな形でバレるとは思わなかった。それを聞いても相変わらず彼女は下を向いたままで目を合わせてくれない。おそらく『陰キャ』というものなのかもしれない。
「あの……かのんちゃん?大丈夫?」
「……ははは……はい。だだ、だいじょうぶです……そ。その……男性の方……だったんですね……」
そうは見えんけどな。そのあとは、かのんこと鈴町彩芽さんに桃姉さんは色々説明していた。こうしてオレは『姫宮ましろ』とバレてしまった。
これが『ましろ』と『かのん』の初対面だった。
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