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34. 本当に

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 34. 本当に


『ディアーナ』にあるホラーハウスのディアーナ城。若き『レイブン』の魔法士に敗れた1人の吸血鬼がまだもがいていた。

「許さん……許さんぞ……残念だったな……オレは不死身だぞ……」

 徐々に身体を再生させていく。吸血鬼は死なない。首を落とされても、心臓に杭を打ち込まれようとも。だがその代償として魔力と生命力を消費する。そのために血を欲するのだ。

「この傷では……長くは持たんか……ならば!」

 ヴラドは自らの身体を引き裂き、溢れ出る血を飲み干す。するとみるみると身体が再生していく。しかし、同時に体力も奪われる。吸血鬼は自身の限界を感じていた。

「クククッ……まだだ!もっと血を吸えばまだ戦える!もっと血を吸ってやる!!」

 その様子を見ている人物がいる。

「あーあ。醜いね?『ドール』とかいう魔女にそそのかされてさ?プライドがないのかなぁ君は?」

「誰だ!?」

「よっと……」

 その姿は透き通るような銀髪。そして全てを魅了するような美しい赤い瞳。

「お前は何者だ?」

「お前?誰に口をきいてるのかなぁ君?」

 そして一瞬で造り出した黒き刃の剣で、バラバラに切り裂かれる。

「ぐあああっ!!」

「恥を知ったほうがいいよ?君はもう終わりだからさ?」

 ヴラドの身体は今までの再生能力が嘘のように再生をしなくなっていく。

「くっ……なぜだ……なぜ……」

「まだ分からない?私が誰だか?」

 その少女は縛っているツインテールをほどく。さらりと流れる長い銀の髪。

「まさか……あなた様は……!!」

「やっと分かったみたいだねぇ?でも遅いかなぁ。」

 少女はニヤリと笑う。そしてヴラドを強力な魔力で一瞬で消し炭にする。その魅了するような瞳は赤く輝いている。

「はぁ……」

 その少女はある場所まで歩き、その地面に舌を這いずり回らせる。そこは先ほどまで戦っていた若き『レイブン』の少年がいた場所。

「これがアデル君の血……なんて甘くて美味しいの……もうトマトジュースじゃ、がまんできないかもね?」

 そう言いながらペロペロとその地面を舐め回す。その様子はまるで犬のようであった。

「アデル君の血が飲みたいなぁ……今度は首筋から吸血してみよっかな……ん?いけないいけない。まずは『ドール』とかいう魔女を探さないと。とりあえず今回は貸しにしとくよアデル君」

 そう言って彼女は姿を消す。そこには彼女がいた証拠は何も残らなかった。




 消毒液の臭い。オレはゆっくりと目を開ける。ここは病院だろうか?

「アデル=バーライト。目が覚めたのですね」

 オレの事を覗き込む金髪碧眼の公爵令嬢が声をかけてくる。その声はいつもと同じで特別なことはないが、オレにとってとても優しく心地よいものだった。

「アリス……」

「まだ寝ててください。魔力の使いすぎだそうです」

「エミリーは!?」

「安心してください。無事です。」

 その言葉を聞いてホッとする。よかった……本当に良かった……。

「あとセリア=グランメールも無事です。とりあえず適当に話をあわせて帰ってもらいました。」

「そうか。ありがとなアリス。」

「別にお礼など必要ありません。私は当然のことをしただけです」

 アリスは少しだけ照れたように言う。なんだかんだ言って優しいやつだ。

「それにしてもよくオレがあの場所にいると分かったな?」

「コレット=フルールが通信魔法具の探知機能を使ったので。私は関係ありませんから。」

 またかよ……オレのプライベートは守られないのかよ……。まあ仕方ないか。コレットには感謝しないとな。

「そうだな。助かったよ。」

 そう言ったきり会話がなくなる。だが気まずい感じではない。むしろ心が落ち着くような感覚だ。するとアリスが口を開く。

「……アデル=バーライト。相談があるのですが?」

「なんだ?」

「私と……訓練をしませんか?山籠りです。もっと強くならなければいけない。そしてあなたの剣であるために」

 真っ直ぐな瞳で見つめてくる。その瞳は吸い込まれそうなくらい綺麗だった。

「オレも今回の件でエミリーを傷つけてしまった……悔しいのはある。中途半端はいらないぞアリス。やるならとことんやろう。オレもお前の盾になるから」

 オレも真っ直ぐアリスを見る。もう誰も傷つけさせない。大切な人を護るために。そしてオレたちは握手をする。

「壁ではないのですか?」

「盾だって言ってんだろ!いい加減にしろ!」

「ふっ……」

「ハハッ……」

 お互いに笑い合う。こんなに笑ったのはいつぶりだろう。久しぶりに心の底から笑えた気がする。そしてアリスがここまで笑う顔も初めて見た。だから本当の意味での『相棒』になれたのかもしれない。
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