上 下
32 / 51
第5章 探し人はギルド受付嬢のお姉ちゃん?

4. 理想を現実に

しおりを挟む
4. 理想を現実に



 そして翌日。オレはリリスさんとエドガーさんとギルドの開店準備をしている。一応、昨日のことをエドガーさんにも報告をすることにした。

「なるほどな。まぁジェシカの気持ちも分かるがな。オレも盾騎士としての誇りを持っているし、譲れないものくらいあるさ。でもこれはギルド『フェアリーテイル』の人の問題だから、経営してる以上、マスターがなんとかするしかないんじゃないか?」

「はい……分かっています……」

「オレは、お前なりのやり方でやれば良いと思うぞ?レイアがこの王都に来ている以上、いずれはジェシカと対面することになるんだから」

 エドガーさんは優しくそう言ってくれた。そうだよな……このままじゃいけないよな。

「ほら。こうやって37歳のベテラン冒険者のエドガーさんも自分のプライドを捨てて年下のエミルくんや私の顔色を毎日伺って、このギルド『フェアリーテイル』で働いてるんですから。ジェシカちゃんにはガツンとプライドなんか捨てて『オレについてこい!』とか言ってやればいいんですよ。ジェシカちゃんはチョロいんだから」

「オレは顔色など伺ってないぞ?適当なことを言うなよリリス」

 また毒を吐きまくるリリスさん。本当にこの人は……でもお陰で少しだけ元気が出た。するとそこにジェシカさんがやってくる。

「おはよう」

 オレがやるべきことは決まっている。だからオレはジェシカさんの腕を掴みギルドを出ようとする。

「え?ちょっと!いきなり何!?」

「来てくれ」

「えぇ?どこに……ちょっとマスター!?どこに行くのよ!?仕事はどうするの!?」

「すいません!話はあとです!行きましょう!」

 オレはそう言い残し、ギルドを出る。そのまま強引にジェシカさんを引っ張りとある場所に向かった。

「……着いた」

「あの……マスター……手……」

 「あっすいません!」

 「ここは……?」

 ここはギルド『フェアリーテイル』の近くにある宿屋の一室。オレは一呼吸おいて、そのまま部屋の扉をノックする。

「おはようございます。ギルド『フェアリーテイル』のエミルです。昨日の依頼の件でお話があります」

 そして扉が開かれる。そこには探し人を依頼した1人の少女がいる。ここからが本番だ。

「おはようございま……え?お姉ちゃん?……お姉ちゃん!!」

「レイア!?どうしてここに……どういうことマスター?」

「すいません。昨日。レイアから依頼を受けたんだ。ジェシカさんを探しているって。でもジェシカさんはきっちりしている人だから理由が知りたくて昨日ジェシカさんと」

「そうだったんだ……」

 騙したようになってしまったのは申し訳ないが、オレはどうしてもジェシカさんの本当の想いを知りたかった。

「お姉ちゃん。どうして連絡くれなかったの?お母さんもお父さんも心配してたんだよ?それにギルド『ホワイトナイツ』も辞めちゃって……」

 ジェシカさんは黙ってしまった。ジェシカさんの表情を見る限り、彼女はまだ『ホワイトナイツ』を辞めたことに対して未練があるようだ。だからこそオレがその未練を断ち切ってあげるんだ。オレはギルドマスターだから。

「あのジェシカさん。昨日、レイアが自分で働いているギルドで冒険者をやりたいって言ってるってすごく嬉しそうに話していましたよね?それはレイアも同じでしたよ。2人とも想いは同じだと思うんです」

「マスター……」

「なぁレイア。お姉ちゃんに憧れてるんだって言ってたよね?それはなんで?」

「お姉ちゃんは、すごく優しくて可愛くて、仕事もできるし。ギルド受付嬢になるって昔から言ってたし、その夢を叶えて……私だけの自慢のお姉ちゃんなんです!」

「……だそうですジェシカさん。レイアは上級者ギルドで働いているジェシカさんに憧れてるわけじゃない。『ギルド受付嬢』のジェシカさんに憧れてるんです。きっと親御さんも同じじゃないですかね」

 オレのその言葉を聞いて、ジェシカさんの目からは涙が溢れていた。

「うぅっ……レイア……ありがとう……私のためにこんな遠くまで……探しに来てくれたんだね……」

 ジェシカさんは泣きながら妹のレイアを抱きしめる。その姿はとても美しく、とても幸せそうな光景に見えた。そして改めてジェシカさんに伝える。

「ジェシカさんの理想像はあるし、完全に納得できていないと思います。だから……オレと一緒にギルド『フェアリーテイル』を必ず王国一の冒険者ギルドにしましょう。理想を現実にするんです。これからもオレにギルドのこと教えてください。ギルド『フェアリーテイル』にはジェシカさんが必要なんです。お願いします」

「……うん。約束よマスター。破ったら承知しないから」

 そう言ったジェシカさんはとても輝いて見え、彼女の笑顔を見たオレも笑顔になったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界特殊清掃員

村井 彰
ファンタジー
かつて、この世界には魔王がいたという。 世界の全てを手に入れんとした彼の王は、その野望を掴む間際、現れし勇者に打ち倒され、その肉体は滅び去った。 そして、世界に光が戻ったのだ―。 そんな、おとぎ話のような戦いから数百年。 王を失った魔物達は、もはや人間にとって驚異ではなく、かつての魔王城は美しく煌びやかな都となった。 そんな街にやってきた一人の少女。人と魔物が隣り合わせに暮らすこの街で、彼女が選んだ仕事は、街中で命を落とした魔物を、人知れず処理する掃除屋。 すなわち、魔物専門の特殊清掃員だった。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。 彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。 他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。 超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。 そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。 ◆ 「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」 「あらすじってそういうもんだろ?」 「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」 「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」 「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」 「ストレートすぎだろ、それ……」 「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」 ◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

処理中です...