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1.町娘、見初められる
1.貴族様の懇願
しおりを挟む「―――娘さんを僕に、ください……!!!」
「はぇ……?」
自分の気の抜けたような声が、男性の悲痛な声の後の静寂に響いた。
両親も男性もそこで私の存在に気付いたのか、バッと思い切り振り返られる。
「お、お嬢さん……!」
男性が私の両手をガバッと大きな手で包み込み、縋るような瞳で見つめられ……リシティは非常に困惑していた。
全く持って状況が理解出来ない。
困りに困って、今度はリシティが両親に縋るような視線を送った。
「り、リシティ……その方はリシティの恋人、なのかね……?」
リシティ同様状況が飲み込めていないのか、眉を下げおろおろ、恐る恐るといったふうに切り出す父。
「恋人……!?いいえ、私に恋人なんていないわ……。全くの初対面です。失礼ですが私は貴方をどなたなのか存じ上げていません……。」
今まで浮いた話一つすらなかったリシティは、父から突然の恋人疑惑を持たれ更に困惑した。
自分とは一生無縁そうな貴族然とした男性に、疑問ばかりが湧いてくる。
「……これは失礼しました。まだ私は名乗りすらしておりませんでしたね。私の名はルドルディ・ナートライと申します。」
男性……ナートライ様は優雅に私たち家族に一礼する。
ナートライ侯爵家……貴族の事情に明るくない私でも知ってる、由緒ある格式高い力を持った家。
両親もその名に思い当たる節を見つけたのだろう、母が蒼白い表情でフラリとよろめいた。
そんなにも身分の違いすぎる方と相対しているなんて……平静ではいられない。
「ナートライ様は……む、娘を、どうするおつもりで……?」
顔面蒼白になりながらも父が恐る恐る聞く。
「もう、彼女のことを忘れることが出来ないのです。彼女に関わりのない人生なんて送りたくないのです。」
熱い視線をナートライ様に向けられ戸惑う。
本当にどうしてこんなことになっているのだろう。
もし本当にナートライ様に見初められたとして、その要素が一体私のどこにあったというのだろう。
家に帰ってくるまで知り合いですらなかったことから、私の内面を気に入った、という事は考えにくいと思う。
私の容姿はパッとしない地味な顔立ちだ。
町を歩けば似たような髪色、瞳の若い娘はわんさかいる。
ましてやナートライ様のような……イケメンとなると、容姿の整った方と無縁ではなさそうだ。
ますます謎しか深まらない……。
「必ず幸せにします。私が彼女を守ります。どうか、お願いします……」
「どうか……娘を大切にしてください。私たちにとっては大切な一人娘なんです……お願い致します。」
深く腰を折り懇願するナートライ様に、父が折れた。
私……どうやらナートライ様に貰われるみたいです。
ナートライ様の家柄のことを考えても、私たちが到底反対できる立場じゃないのは分かっている、分かっているんだけど……。
両親のこと、友人のこと、町のみんなのことを考えると、ナートライ様に付いていきたいとは……。
予想だにしない、想像もつかないこれからに一抹の不安を抱える。
どう、なっちゃうのかな……。
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