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1.町娘、見初められる
0.プロローグ
しおりを挟む今日の夕食は何にしようか。
八百屋のアデルおばさんがサービスでつけてくれたポウリルのスパイススープに、パン屋さんで買った焼きたての食パンとサラダなんてどうかしら。
お母さんと一緒に夕食を作るのを楽しみにし、足取りが軽くなる。
「あっ、リシティ~」
こちらへぶんぶんと勢い良く手を振る近所に住む友人、フィーナに声をかけられる。
明るい町のムードメーカーのような存在であるフィーナの表情は、何時もよりもキラキラと輝いている。
何かいいことでもあったのかしら。
「こんにちは、フィーナ。どうかしたの?」
「そう!それがねリシティ!」
ガシッと両腕をつかまれ、フィーナのキラキラした瞳が至近距離に現れる。
「リシティの家にね!もっのすんごいイケメンが入っていくのを見たのよ、私!」
「……へっ?」
「身なりもとても整ってて、すっごく素敵なステッキも持ってたのよ!少し見ただけでも私達なんかとは到底身分が違う~っていうオーラとか所作がありありと現れていたわ!きっとすごい高貴なお方だわ!」
すごいすごい!すごいすごい!と興奮して語彙力が乏しくなっているフィーナのから語られる言葉の数々に、リシティは状況が全く飲み込めずにいた。
身なりの整った高貴なイケメンが私の家に……?
きっと貴族様よね……。
貴族様自ら私の家に赴くような、そんな大きな事態が起こったのかしら?
どういうことなの?
考えれば考えるほど嫌な予感しかしなくなってきたリシティは、未だにそのイケメンについて話しているフィーナに、帰ることを伝え、急いで家に向かう。
「っ、ハァ……」
走って荒くなった呼吸を整え、玄関の扉を緊張しつつも開けた。
「お父さん、お母さん、ただいま……――」
「―――お願いします!!」
様子を少し伺いながら発したただいまは、懇願する聞き覚えのない声に掻き消えた。
聞こえてきたのは、まだ年若い男性の声。
「どうか……どうか!」
「―――娘さんを僕に、ください……!!!」
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