世界中が殺しに来る

蛇崩 通

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<第一章 第4話 ゾンビのように襲ってきた>

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   <第一章 第4話>
 細い脇道は、高低差が、ほとんどない。
 そのほうが、好都合だ。踏み込む際に。
 サトルは、待つことにした。脇道の入り口から、五メートルほど入った地点で。
 両足は肩幅と同じくらいに開き、両膝の力をいた。それに両肩の力も。両腕は、両脇に降ろし、手のひらを軽く開いている。
 素人が見たら、気が抜けているように見えるだろう。
 だが、身体全体の力を抜くことで、次の行動に素速く移ることができる。そのために、身体中の力を抜いたのだ。
 長ドスを持ったヤクザが、ゆっくりと接近してきた。長ドスを頭上に振り上げながら。
 日本刀とは異なり、長ドスにはつばがない。そのため、相手の身体に突き刺すと、よほどの握力がないと、柄を握っていた自分の手が前方に押し出されてしまい、刃で自分の手を切ってしまう。
 よって、攻撃方法は、刃を相手にあててから、内側に引いて斬る。それ以外にない。
 この脇道は、中央に立つと、左右に長ドスを振るうと、切っ先がコンクリート塀に突き刺さってしまう。
 ゆえにヤクザは、長ドスを、上から下へと振り下ろすはずだ。それ以外に、有効な攻撃方法は、ない。この場所では。
 あとは、スピードだ。
 ヤクザのスピードに対応できなければ、自分が死ぬ。
 サトルは、気を引き締めた。身体中の力を抜いたまま。
 ヤクザが、さらに接近してきた。
 もう少しだ。もう少しで、射程圏内だ。
 ヤクザが突如、踏み込んだ。素速く、長ドスを振り上げながら。
 その瞬間、サトルも踏み込んだ。右足を前に出して。
 振り下ろされた。長ドスが。サトルの脳天に。
 だが、長ドスのやいばは、空中で止まった。
 上段十字受けだ。
 サトルは左右の手首を×型に交差させ、ヤクザの振り下ろした手首を受け止めたのだ。自分の頭上で。
 次の瞬間、右手でヤクザの右手首をつかんだ。
 左足を、前方に踏み出した。左手で、ヤクザの右肩を押さえた。下に押し下げた。ヤクザの右手首を、ねじり上げながら。
 前傾した。ヤクザの上半身が。
 その瞬間、右膝を蹴り込んだ。ヤクザのみぞおちに。
 すぐさま、二発目を蹴り込んだ。右膝を、ヤクザのアゴに。
 失神した。ヤクザが。
 長ドスを拾うと、地面に水平の状態を保ちながら、放り投げた。コンクリート塀の向こう側へ。
 コンクリート塀の向こう側は、民家の庭だ。ヤクザが意識を取り戻しても、取りに行くには、かなりの時間がかかる。
 「すごいわね。素手で倒すなんて。サトルは自主的に、様々な武道の修行をしていると話には聞いていたけど。あなたにけて、正解だったわ」
 修行というより、趣味だ。サトルにとって、武道や格闘技は。
 「さあ、行きましょう」
 ミコが、サトルの手を取った。
 「もう、危機は去ったのでは?」
 「次の危機が来たわよ」
 視線を通学路の坂道に向けた。
 細い脇道の入り口付近には、少年たちが集まっていた。全員、正気を失った目をしている。
 「今度は、オートよ」
 自動、という意味か。
 「襲って来るわよ。集団で」
 突然、襲いかかってきた。少年たちが、両腕を前に伸ばして。かみつこうと、口を開けて。
 まるで、ゾンビのようだ。
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