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<第九章 第2話>
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<第九章 第2話>
コートのポケットから、取り出した。本物のファイアー・ボールの種を。
この本物のファイアー・ボールのタネは、ふつうのものとは違う。特製だ。
ふつうのファイアー・ボールのタネは、青銅貨を三枚重ねたものを紙で包み、包み口をねじる。ねじった包み口の先端に火をつけ、魔法の炎の幻覚を重ねながら、投げつける。ピンポン球大の幻覚の炎だ。
魔法のファイアー・ボール十個につき、三個ほど本物のファイアー・ボールを混ぜると、敵は、幻覚のファイアー・ボールも本物と誤認し、大きな精神的打撃を受ける。
場合によっては、本物の炎が服に燃え移り、大やけどを負う。
今回の特製は、紙ではなく、ハンカチで包んでいる。青銅貨を五枚、重ねて。そのうえ、包み口に、二本の荷造り用の紐を巻いて、垂らしている。一本は十センチほどだが、もう一本は五十センチメートルほどだ。
右手の赤いリストバンドから、左手でマッチを一本、取り出した。
マッチを、発火させた。
短いほうの荷造り紐の先端に、火をつけた。
長いほうの荷造り紐を右手で持ち、回転させた。縦に。ハンカチで青銅貨を包んだ本物のファイアー・ボールを。
回転の速度を、あげた。
高速で、回転し始めた。
充分な高速回転となり、短いほうの紐の根元まで火が回ったところで、手を放した。つかんでいた長いほうの荷造り紐を。ほぼ、四十五度の角度で。
放物線を描いて、本物のファイアー・ボールが飛んでいった。
木製大型十字架の手前に落下した。ピラミッド状に積み上げた石炭の山には、届かなかった。
落下したのは、ぎっしりと詰まった群衆の中だ。
絶叫が、聞こえた。
群衆の服に、燃え移ったのだ。本物のファイアー・ボールの炎が。
瞬く間に、燃え広がった。周囲の群衆の服に。
当然だろう。この町では、もう二週間も雪が降っていない。
そのため、乾燥している。
町の空気も、市民の衣服も。
群衆の多くは、毛織物のコートを着ている。乾燥した毛織物は、よく燃える。
絶叫と怒号が、聞こえた。
炎は、西から東に向かって、燃え広がり始めた。
風が、西から東に向かって吹いているからだ。
特製ファイアー・ボールは、中央に築かれた石炭の山には、届かなかった。
石炭の山に火をつけるには、風上の西側に移動する必要がある。
ルビー・クールは、スライド式柵状門を渡りきった。南側石塀の上にまたがると、東から西へ移動した。魔法詠唱して赤い霧を出現させながら。
南側石塀の西端に到達すると、今度は北へ向かって移動を始めた。
三百秒ほどで、西側石塀の中央付近に到達した。この位置が、中央の石炭の山に最も近い。そのうえ、風上のため、飛距離が、多少は伸びるかもしれない。
すでに、三十分弱が、経っている。最初に赤い霧を出現させてから。
すでに中央広場では、絶叫、悲鳴、怒号が飛び交っている。
だが死傷した者は、まだ、中央広場に集まった市民の三分の一くらいだ。
この程度では、足りない。ヘレンの復讐には。
二つめの特製ファイアー・ボールのタネを取り出した。コートのポケットから。短いほうの紐に火をつけ、長いほうの紐で回転させた。高速で。
今回は前回よりも、より高速で、より正確な四十五度の角度を意識し、投げつけた。中央広場の中央に向かって。
だが今回も、石炭の山には、届かなかった。
三つめの特製ファイアー・ボールに火をつけ、投げつけた。
今回は、前の二回よりも、ましだった。石炭の山まで、あと一息だった。
群衆の服が、燃え始めた。特製ファイアー・ボールの火が燃え移って。
炎は勢い良く燃え広がり、周囲の者たちの服に、燃え移り始めた。
コートの背中部分が燃えた男がパニックに陥り、前方に走り出した。人混みを強引に押しのけて。
石炭の山に、引火した。
瞬く間に、炎が広がった。西から東へ。風に乗って。
服が燃えた男たち女たちが絶叫し、逃げ惑った。四方八方に。
それにより、さらに燃え広がった。周囲の群衆の服に、燃え移って。
石炭の山が、勢い良く燃えあがった。石炭の山全体に、燃え広がったのだ。
大量の黒い煙が、あがった。石炭の山から。
計画は、成功した。
ルビー・クールが、大声で叫んだ。
「さあ、始めるわよ! 魔女の、魔女による、魔女のための火あぶりを!」
コートのポケットから、取り出した。本物のファイアー・ボールの種を。
この本物のファイアー・ボールのタネは、ふつうのものとは違う。特製だ。
ふつうのファイアー・ボールのタネは、青銅貨を三枚重ねたものを紙で包み、包み口をねじる。ねじった包み口の先端に火をつけ、魔法の炎の幻覚を重ねながら、投げつける。ピンポン球大の幻覚の炎だ。
魔法のファイアー・ボール十個につき、三個ほど本物のファイアー・ボールを混ぜると、敵は、幻覚のファイアー・ボールも本物と誤認し、大きな精神的打撃を受ける。
場合によっては、本物の炎が服に燃え移り、大やけどを負う。
今回の特製は、紙ではなく、ハンカチで包んでいる。青銅貨を五枚、重ねて。そのうえ、包み口に、二本の荷造り用の紐を巻いて、垂らしている。一本は十センチほどだが、もう一本は五十センチメートルほどだ。
右手の赤いリストバンドから、左手でマッチを一本、取り出した。
マッチを、発火させた。
短いほうの荷造り紐の先端に、火をつけた。
長いほうの荷造り紐を右手で持ち、回転させた。縦に。ハンカチで青銅貨を包んだ本物のファイアー・ボールを。
回転の速度を、あげた。
高速で、回転し始めた。
充分な高速回転となり、短いほうの紐の根元まで火が回ったところで、手を放した。つかんでいた長いほうの荷造り紐を。ほぼ、四十五度の角度で。
放物線を描いて、本物のファイアー・ボールが飛んでいった。
木製大型十字架の手前に落下した。ピラミッド状に積み上げた石炭の山には、届かなかった。
落下したのは、ぎっしりと詰まった群衆の中だ。
絶叫が、聞こえた。
群衆の服に、燃え移ったのだ。本物のファイアー・ボールの炎が。
瞬く間に、燃え広がった。周囲の群衆の服に。
当然だろう。この町では、もう二週間も雪が降っていない。
そのため、乾燥している。
町の空気も、市民の衣服も。
群衆の多くは、毛織物のコートを着ている。乾燥した毛織物は、よく燃える。
絶叫と怒号が、聞こえた。
炎は、西から東に向かって、燃え広がり始めた。
風が、西から東に向かって吹いているからだ。
特製ファイアー・ボールは、中央に築かれた石炭の山には、届かなかった。
石炭の山に火をつけるには、風上の西側に移動する必要がある。
ルビー・クールは、スライド式柵状門を渡りきった。南側石塀の上にまたがると、東から西へ移動した。魔法詠唱して赤い霧を出現させながら。
南側石塀の西端に到達すると、今度は北へ向かって移動を始めた。
三百秒ほどで、西側石塀の中央付近に到達した。この位置が、中央の石炭の山に最も近い。そのうえ、風上のため、飛距離が、多少は伸びるかもしれない。
すでに、三十分弱が、経っている。最初に赤い霧を出現させてから。
すでに中央広場では、絶叫、悲鳴、怒号が飛び交っている。
だが死傷した者は、まだ、中央広場に集まった市民の三分の一くらいだ。
この程度では、足りない。ヘレンの復讐には。
二つめの特製ファイアー・ボールのタネを取り出した。コートのポケットから。短いほうの紐に火をつけ、長いほうの紐で回転させた。高速で。
今回は前回よりも、より高速で、より正確な四十五度の角度を意識し、投げつけた。中央広場の中央に向かって。
だが今回も、石炭の山には、届かなかった。
三つめの特製ファイアー・ボールに火をつけ、投げつけた。
今回は、前の二回よりも、ましだった。石炭の山まで、あと一息だった。
群衆の服が、燃え始めた。特製ファイアー・ボールの火が燃え移って。
炎は勢い良く燃え広がり、周囲の者たちの服に、燃え移り始めた。
コートの背中部分が燃えた男がパニックに陥り、前方に走り出した。人混みを強引に押しのけて。
石炭の山に、引火した。
瞬く間に、炎が広がった。西から東へ。風に乗って。
服が燃えた男たち女たちが絶叫し、逃げ惑った。四方八方に。
それにより、さらに燃え広がった。周囲の群衆の服に、燃え移って。
石炭の山が、勢い良く燃えあがった。石炭の山全体に、燃え広がったのだ。
大量の黒い煙が、あがった。石炭の山から。
計画は、成功した。
ルビー・クールが、大声で叫んだ。
「さあ、始めるわよ! 魔女の、魔女による、魔女のための火あぶりを!」
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