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本編

-416- ピアスの装着

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「じゃあ、レン様、動かずに真っすぐ前を向いていてくださいね」
「うん」

セオが僕の真正面から話しかけてくれる。
先に、僕の耳にピアスをつけることになったのだけれど、どうしても左横に立つアレックスが気になっちゃう。
でも、アレックスだって開けるのが初めてだから僕が邪魔するわけにはいかない。
ズレたからつけ直すなんて事出来ない、一発勝負だ。

「緊張するなっていう方が難しいかもしれませんが、念のため痛み止めのポーションも用意しましたし、レン様の方がアレックス様より魔力が豊富ですからね、大丈夫ですよ」
「うん」

セオが気を使ってくれて、僕の緊張が解けるように話しかけてくれる。
アレックスにはセバスがついているし、横からの緊張感は全く伝わってこない、寧ろさっきからずっと気にかけてくれていた。
アレックスだって、緊張してるはずなのに。

アレックスが僕の耳の後ろに手を当てて、小さな衝撃と共に手が離される。
衝撃っていうと大げさかもしれない。
指ではじかれたような感覚がしたからだ。
ゴムではじかれるほどでもない。
じんわりと少し熱を帯びているきがするけれど、痛いかと言われると首を傾げるほどだ。
違和感がある、というのがしっくりくる表現かもしれない。

「痛みは?」
「ううん、痛みはないよ。じんわりしてる感じがする」
「そうか」

あからさまにほっとしたアレックスが右側に移動して同じように耳の後ろに手を当てた。
左と同様、指ではじかれた後にじんわりしてるような違和感があった。

「ついた?」
「ああ。良く似合ってる」
「僕もみたい!」

「どうぞ」

アレックスが満足げに笑うので、僕も僕の耳が見てみたいと思った。
セオがすぐに鏡を差し出してくれるので覗き込む。

思わず笑顔になった。
耳に付けるとより綺麗に輝くのが分かった。
濃く澄み切ったエメラルドがキラキラと輝いている。
僕の色白の肌と黒い髪にもとても合っていると思う。

「どうかな?」
「よくお似合いですよ。痛みも少なそうですが、我慢はしていませんね?」
「うん。ちょっとじんわりしてるけれど、痛くはないよ」
「もし途中で痛くなったら言ってくださいね」
「うん。じゃあ、アレックスの番だね」

『座って』と促すとアレックスは穏やかな笑顔で応じてくれた。
アレックスの形のいい耳たぶに触れる。
片手の親指と人差し指で挟んで魔力を流すだけって聞いているけれど、左右対称につけたいから慎重になる。

「あとほんの少しだけ上の方が良いと思います」
「このくらい?」
「良いと思います」

一ミリから二ミリほどの位置修正をして、セオに確認する。
こういうことに関しては、僕の目よりセオの目を信じている。
セオの言う通りの位置にすると、確かにさっきよりきれいに納まってる気がした。
上から抑えるように魔力を流して、放す。
どうかな?と確認すると、アレックスの耳の裏側に反しがが出来ていた。
綺麗に付けられた。

「アレックス、痛い?」
「大丈夫だ」
「じゃあもう片方も開けるね」
「ああ、頼む」

セオの助言を貰いながら、もう片方のピアスも付け終えると、なんだか一仕事終えた気分になった。
アレックスの耳に良く似合ってる。
オールドローズの髪色に、エメラルドの瞳、その色に負けないほどに輝く黒い石が耳の中央に鎮座している。

「アレックスもとっても似合ってるよ」
「ありがとう」

「アレックス様、少し確認したいことがあります」
「なんだ」

セバスがセオをちらりと視線を向けた後、僕へと流した。
あ、これは席を外せってことかな。

「レン様、先に戻って見せに行きましょうか」
「うん、わかった」

セオも察して、僕を促してくる。
ならば、異論はない。


「アレックス、後から来てね。
一緒に並んだところをお父様に見て貰いたいから」
「ああ、すまない」

ううん、と首を振ってセオに促されながら部屋を出る。
確かに両耳に違和感はあるけれど、ピアスがはまった嬉しさの方が大きい。
思わず指で確かめると、ちゃんと耳朶にあるのが分かって、思わず笑みが浮かんじゃう。
凄くいい気分だ。


「気分は良さそうですね」
「うん。凄く嬉しい」
「───失礼します」
「ん?」

セオが立ち止まって僕の耳をじっと見つめてから、そのピアスに触れる。
真剣な表情に、緊張感から何だかドキドキしてしまった。


「少し熱を持ってますが、冷やさなくても大丈夫です?」
「うん、痛くないから大丈夫」
「なら良かったです。痛みが出たら、その時は我慢せずにちゃんと言ってくださいね」
「わかった」

さっきも言われたのに、もう一度言うくらいだから、痛みが伴って当然のことなのかな?

「あ───」

それに気が付いて、扉を振り向く。

「レン様?!」
「っ!」

なんで気が付かなかったんだろう。
セオのびっくりした声を背に、僕は一度出た扉を再度開く。

「アレックス?!」

ベッドの上でぐったりしているアレックスが目に入って思わず駆け寄る。
薄っすらとアレックスの瞳が開いて、その瞳がゆっくりと閉じてしまった。
セバスを振り返る。

「辛そうでしたので少し休んでもらうことにしました。この分でしたら目が覚める頃には戻られると思いますよ」
「そんなに痛みがあったの?」
「いいえ、そうではありません」
「じゃあ、何で───」
「魔力酔いですよ」
「え?あ……」

最初の時に説明してもらったから、わからなかった。
何をって、フェラ後の、僕の精液をこっそり空間に捨ててることを、だ。
いつも空間に捨ててるって言っていたから、飲んでたなんて気が付かなかったよ。
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