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本編

-397- 書いて消せる アレックス視点

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「手紙の内容は、ルカ自身の出生に関わることが書かれていました。
出生についてはお答え出来かねます」

孤児院から帰宅した後はすぐに宮廷に向かい、一通り終えて夕飯前には帰宅した。
セバスからもだが、セオから、ルカの手紙の件で報告が欲しかったからだ。

ちなみに仕事は捗った。
ユージーンが、弟の寄こしたという助手とはうまくいっているらしく、今までとは比べ物にならないくらい心身ともに良好な上、仕事自体が軽減したようだ。
流石兄のことをよくわかっている。
俺はまだ一度も顔を見ていないが、仕事も優秀なのだろう。
よこしてくる仕事の量も当然減り、覚悟していたより少ないのが良い証拠だ。
そいつも宮廷魔法士を目指しているという。
優秀な者が来てくれるのは有難い。



さて。
セオから、ルカの件の報告を受けたらこれだ。
当然のように『答えられない』と告げてきた。

領主の俺に対して、全く悪びれることなくいけしゃあしゃあと告げられるところがセバスそっくりだ。

若いころのセバスによく似てる、というのはお祖父様の感想だったか。
確かに姿かたちが似てるんだろう。
涼やかで整っている顔立ちや、細身な骨格は似ていると俺でも思う。
本当の孫のようだ。

だが、何が一番似ているかっていうと、俺に対してこうしてさも当然のように言葉に遠慮がないところだ。
それを良しとしているのが分かっているからこそ、何だろうな。
怒りも苛立ちもないが、こうも似てると笑いたくなっちまう。


「わかった。俺が気にかけることはあるか?」
「時期を見て、ルカ自身がグレース様へ話すそうですから、頼られるならそれからかと」
「そうか。ルカは、手紙を読む前より顔つきが良くなったし、レンに何度もお礼を言っていたから本人にとっては良かったんだろうな」
「父親からの愛情を感じられる手紙でもありましたから、それもあるかと思います」
「なるほど」

ルカの瞳に色がのったように俺には見えた。
生きる気力、と言えばいいのだろうか。
それまで、どうでもいいような……自ら命を捨てまではしないだろうが、今死んでも別に構わないとも思っていそうな子だった。
自分の生に頓着がなさそうな、危うい感じがしていた。
だからこそ、祖母さんも鑑定を言い出したのかもしれない。

だが、レンが手紙を読んだ後は、生きる気力を取り戻したかのような、しっかりした顔つきになっていた。
以前は自分自身へ頓着がなさそうだったが、少しは未来のことを考えるようになるだろう。
良い傾向だ。


「それと、グレース様の許可を取ってからになりますが、レン様が孤児院へ黒板を贈られます」
「黒板?」
「はい。紙やノートには限りがあり子供たちが地面に文字を書いていることを聞いたレン様は、最初“書いて消せるおもちゃ”を贈りたいと言っていたのですが」
「書いて消せるおもちゃ?」
「はい。原理は聞きました。レン様のいらした世界では安価のようでしたが、こちらで作れてもかなり高価になると思います。すぐには贈れないことも伝え、
黒板を提案しました」
「黒板ならそう値がはるものでもないな」
「はい。チョークも安いですし万が一子供の口に入っても安全ですから。グレース様の許可がおりましたら、すぐにでも改装工事に入ります」
「助かる。正直そこまで行き届かなかったのが現状だ」
「仕方ないと思います。子供たちが不満に思っているわけじゃなかったので。
俺もレン様から言われなければ、思いつきもしませんでした。
傍で見聞きしていたのにも関わらず、です」

「レンだから気がついた、か」
「はい」

黒板、か。
レンの案からセオが提案した、という流れは分かった。
だが、今までどこの誰も言い出さなかった。
俺もだが、祖母さんも、他に訪れる貴族もだ。

衣食住のことばかり目がいっちまう。
食べ物は十分か、服は小さくなっていないか、建物が傷んでいないか、と。

親世代は、それまで悲惨だった孤児院を状態を見聞きしているからこそ、だ。
うちの領では、商人も『慈善活動に協力してこそ一流の商人だ』という考えが浸透している。
孤児院もだが、支援タウンも年々寄付が増えている。
有難い限りだ。

「レンの言う、“書いて消せるおもちゃ”というのは商品になりそうか?」
「魔力を一切必要としないので今までにないものだとは思うんですが───」


原理を説明するセオの話を聞くと、確かに興味深い話だ。
書いて消せるというおもちゃというか、板は、あるにはある。
だが、水が蒸発するのを待たずとも消すことが出来、魔力量によって残る時間が左右されることもない。
本当に、誰でも“すぐに書けて、すぐに消せる”ものだ。

「確かに、原料と開発費を考えると高価にはなるな」
「はい」
「だが、先に特許だけでも取っておくか。レンの名前で取っておく。
レンが商品化したいと思っているなら、コッチネッラ商会にまず声をかけるよう進言してくれ」
「畏まりました」

コッチネッラ商会の名前を出すと、セオは少し意外そうな顔をした。
キャンベル商会と言わなかったからだろう。
何でもかんでもあそこに持っていくのは得策じゃない。
帝国内の貴族相手なら迷わず選んでいるが、魔力を一切必要としないことを考慮すると、貴族よりもその下に広めたい。
つまり、最初から出し惜しみせず、普及させたい商品だ。
儲けを一番としない点で、キャンベル商会にはふさわしいものではないだろう。

商品化したらなんか言ってくるだろうが、言われたらその時だ。
何よりも、レンとエリソン侯爵領うちのため、だからな。



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次回、レン君視点に戻ります!
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