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本編

-286- お忍び訪問

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「はい、それじゃ出発しますよー。失礼します」
「え?」

セオは、僕の着替えを手伝って、日焼け止めをしっかりと塗ってから僕をひょいっと抱き上げた。
抱き上げるというか、持ち上げるというか。
まるで子どもを攫ってくかのように、するりと軽々肩に抱き上げてくる。

これじゃ人さらいみたいだ。
もしくは、土木工事の砂袋。
えーこれで行くの?
ちょっと恥ずかしい。

「セオ、僕、子どもじゃないんだけど」
「お姫様抱っこよりマシでしょー?」
「そりゃそうだけど、ジュードの時もこんな感じなの?」
「ジュードは、俺と魔力の相性がまあまあいいので肩に手を乗せるだけですね」
「そっか」

僕は闇属性だから、セオの魔力とは相性なんてまったくもってないだろうなあ。

「レン様、見るのと実際移動するのと結構感覚違いますから。
しっかり捕まって、そのまま後ろを向いていた方がいいですよ?
その方が息がしやすいはずです。
目を瞑っても良いですから、ちゃんと息だけはしてくださいね。
3分もあればつきますよ」
「え!?……っわ、わかった」

セオの言い分に、僕は肩に乗せていただけの左腕を肩越しから回し、右手はしっかりとセオの服を掴む。
ジェットコースターというか、新幹線並みじゃない?
孤児院まで直接行ったら馬車で30分ちょっとの距離なんでしょ?
それが、カップラーメンが出来上がる頃には着いちゃうの?

た、たしかに目にした時はそのくらい早いかもしれないけれど、実際聞くとめちゃくちゃな速度だ。

「畑ん中はぬけられませんが、最短距離で行きますからね」
「わかった。セバス、行ってきます」
「はい、お気をつけて。セオ、安全第一でお願いしますよ」
「そこはちゃんと気を付けます。じゃ、行きまーす」


言うや否や、ドアを開けた瞬間から、ばびゅんっと飛ばす。

ひゃー、すんごく早い!!
めちゃくちゃな速度だ。
普通どんな乗り物でも、助走ってあるけど、セオの場合それがない。
これは初めての感覚だ。

「……っぷははっ!凄い!何これ楽しい!」

思わず笑っちゃうくらいに楽しい!
何かの漫画で、新幹線と横並びに走る人が描かれていたけれど、きっとそんな感じだ。
セオが僕の背中と太腿の裏あたりをしっかりと支えてくれてるから、怖さはない。
元々ジェットコースターは好きだからかな、思わず笑っちゃうくらいにおかしな速さだ。

周りの景色がまるでたくさんの糸で出来てるみたいに流れてくのを目に、僕はセオに抱えられながらずっと笑っていた。



すとん、と降ろされたのは、孤児院の門の前だ。
本当にすぐ着いちゃった。
セオは息も乱れてない。

「笑いすぎてお腹痛い」
「気持ち悪くはないですか?」
「うん、全然大丈夫。凄く楽しかった!凄いね、セオ。ほんとにすぐ着いちゃった、ありがとう」
「どういたしまして」

セオは照れたように笑って、門にある金属の板に手を伸ばす。

「はい、どちら様でしょうか?」

僕の心の準備が出来る前に、ドロシーさんの声が門飾りのライオンから聞こえてきた。

「あの──」
「レン様?!」
「え?!レン様だー!!」

なんて言おうか迷いながら声を掛けると、門の近くの茂みから、パーシーとネロが顔を出す。
ふたりは僕を見つけると、笑顔でこちらにかけて来た。

「レン様ー!!」
「わーい!レン様だー!」

ふたりは門の柵までくると、その柵を片手で掴んで、もう片方の手を伸ばしてくる。

しゃがんでその小さな手をとると、パーシーとネロが声を上げて笑った。

「パーシー、ネロ、今門を開けますから離れなさい」

ドロシーさんの声をしたライオンが喋る。

「パーシー、ネロ、1回離れようか。
門を開けてくれるって。
僕もそっちに行きたいな」

そう言うと、ふたりは素直に門から離れる。

扉を開くのをじっと……じゃないね、ネロはその場で小さく足踏みしてるし、パーシーは、左右に頭が小さく揺れてる。
早く早くと言ってるみたいだ、可愛いなあ。
ふたりは門が開き切る前に僕の方へと飛び出してくれたよ。

満面の笑みで抱きついてくるふたりを受け止める。
ああ、やっぱり来てよかった!
僕を真ん中に、ふたりの手を片方ずつ繋いで玄関を目指す。

するとドアが開き、グレース様自ら出迎えてくれた。

「レン、来てくれてありがとう。また会えて嬉しいわ」
「子供たちに会いたくて、内緒でこっそり来ちゃいました」
「子供たちもとても会いたがっていたのよ?あと少ししたら年長組も学校から帰ってくるから、是非みんなに会ってあげてちょうだい」
「はい。あっ!」

どうしよう、本当に来るだけ、身一つで来ちゃった。
なんのお土産も用意してない。

「レン様?」
「どうしたの?」
「うん、今日は何にも持ってきてないんだ。ごめんね」
「いーの!レン様が来てくれて嬉しい!」
「あのね、僕はね、レン様に会いたかったの。だから何もいらないの」

にこにこと笑いかけてくれるふたりを抱きしめる。
純粋な好意が嬉しい。
警戒心の欠けらも無く懐いてくれるふたりに凄く癒される。

「え、レン様?」
「……レン様だ」

部屋の奥からモニカとビートが顔を覗かせて、僕だとわかると、とてとてとこちらにやってくる。
ふたりともはにかむ笑顔が可愛い!
嬉しいのが伝わってくる。

うん、やっぱり連れてきて貰って良かった。
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