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本編
-235- 日々を大切に
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「おかえりなさい!」
「ああ、ただいま」
セオが言っていた通り、アレックスが一度帰ってきた。
昨日の夜から顔を合わせてなかったから、そっと抱きしめてくれるアレックスの行為と間近で感じるオレンジみたいな香りに安心する。
もしかしたら、これからこういうことは何度もあるかもしれない。
だったら、慣れないとなあとは思うけれど、やっぱり、“おはよう”も“いってらっしゃい”も言えないのは寂しかった。
発声を終えて、ピアノを弾いて、一曲歌い終わったころには丁度お茶の時間。
イアンが地味だって言っていたパウンドケーキは確かに見た目はオーソドックスな形だった。
けれど、しっかり煮込んで柔らかな栗と、生地そのものにも栗が練り込んであるのか、栗の風味としっとりした口当たりとが絶妙だった。
添えられたクリームとの相性も良くて、手間がかかってるのが分かったし、優しい甘さのあたたかい味でとっても美味しかったよ。
セオが『伝えておきますね』って言ってくれたから、きっとイアンには僕が美味しく満足そうに食べていたことが伝わったと思う。
「時間が取れずにすまない。寂しい思いをさせたな」
「ううん、忙しい中一度帰って来てくれてありがとう、アレックス」
「俺のほうこそ、昼飯をありがとう。レンのおかげで俺もジュードもうまい飯にありつけた」
「僕は頼んだだけだけれど、それならよかった。またすぐ戻るんでしょう?」
「ああ……すまない」
すまなそうな顔を、一層深めてアレックスは呟く。
「ううん、謝らないで。夕飯は一緒に食べられる?」
「……わからないな」
「そっか、わかった。もし、一緒に食べる時間が無くても、連絡はしてね?
そしたら、マーティンに食べながら仕事ができるようなものを作ってもらえるよう頼むから。
だから、そのときは遅くなってもいいから、きりのいいところで一度戻って来て」
本当は一緒に食べられるのが一番いいんだけれど、夕食をこっちで食べるってなると、しっかりしたコース料理だから早くても1時間はかかる。
その後、アレックスは僕とお茶をしてから行くから、そうすると90分コースだ。
その時間を仕事にあてたら、その分早く帰れるわけで睡眠時間も増やせる。
90分あったら、結構違いが出てくるはずだ。
だとすると、僕の我儘でアレックスを困らせたり体調を崩させるわけにはいかない。
アレックスのために何ができるかって言ったら、夜ご飯を作ってもらって渡すことと、その時に口づけで魔力を譲渡することくらいだ。
魔力譲渡は必要ないって聞いているけれど、魔法省の仕事は少なからず魔力を消耗する仕事だ、たぶん。
じゃなくても、また戻って来てもらうんだから、その分くらいは返せてもいいはず。
アレックスの顔がすまなそうな顔から、驚きに変わって、その後綺麗な笑顔に変わる。
その変化に僕の判断は間違ってなかったな、って思った。
ちらりとセバスと目に入れると、セバスも良い笑顔で頷いてくれたよ。
「アレックス様は仕事に集中すると周りが見えないこともあられますので、あまりにお戻りが遅いようでしたら時間を見計らってレン様をお呼びします。
その時は、レン様からアレックス様へお声をかけていただければ」
「うん、わかった。ありがとう、セバス」
わからない、とアレックスが口にした時からなんとなくわかっていたけれど、やっぱり一緒に食事をするのは難しかったみたいだ。
マーティンにアレックス用の夕飯を用意するまではセバスが手配してくれた。
朝と同じように、セバスの給仕を受けながら一人の夕食だ。
今日もとっても美味しい。
僕がふわっとしたたまごともも肉が好きだと言ったから、それに応えてくれたのだと思う。
ふんわりとしたオムレットのようなたまごに挟まれてるやわらかジューシーな鶏もも肉がメインだ。
マーティンの気遣いが嬉しい。
思わず笑みが浮かぶ。
「アレックス様のことですから、明日までに今日の分を取り戻すべく、明日も宮廷に詰められることでしょう」
「そっか。あんまり無理して欲しくないのだけれど、朝早く出るならせめて見送りはしたいな」
「畏まりました。明日は今日ほど早いとは思えませんのでーーー」
「セバス、もし、今日みたいに早くても見送りはしたいから、明日に限らず起こして欲しいんだ。
アレックスからいらない……とは言わないか、えーと、寝かせてやってくれって言われても、起こして」
「………」
セバスが最後まで言うのを待たずに僕は口を挟んだ。
僕にしては、珍しいことだったのかもしれない。
セバスの葛藤がその表情から伝わる。
セバスに頼むより、セオに頼んだ方が良いのかな?
本当は自分で起きられるのが一番いいのだけれど、今までずっと人に起こされて過ごしてきた僕は、まったくもってその自信がない。
「ーーーセオはいる?」
「はい、どうされました?」
僕が呟くと、5秒ほどでノックもなく食堂の扉が開いた。
早……流石だ。
ただ、セオも食事中だったみたいで、扉が開いてから声をかける間に飲み込んだのがわかった。
行儀は良くないけれど、何より優先してきてくれたのが頼もしい。
「ああ、ただいま」
セオが言っていた通り、アレックスが一度帰ってきた。
昨日の夜から顔を合わせてなかったから、そっと抱きしめてくれるアレックスの行為と間近で感じるオレンジみたいな香りに安心する。
もしかしたら、これからこういうことは何度もあるかもしれない。
だったら、慣れないとなあとは思うけれど、やっぱり、“おはよう”も“いってらっしゃい”も言えないのは寂しかった。
発声を終えて、ピアノを弾いて、一曲歌い終わったころには丁度お茶の時間。
イアンが地味だって言っていたパウンドケーキは確かに見た目はオーソドックスな形だった。
けれど、しっかり煮込んで柔らかな栗と、生地そのものにも栗が練り込んであるのか、栗の風味としっとりした口当たりとが絶妙だった。
添えられたクリームとの相性も良くて、手間がかかってるのが分かったし、優しい甘さのあたたかい味でとっても美味しかったよ。
セオが『伝えておきますね』って言ってくれたから、きっとイアンには僕が美味しく満足そうに食べていたことが伝わったと思う。
「時間が取れずにすまない。寂しい思いをさせたな」
「ううん、忙しい中一度帰って来てくれてありがとう、アレックス」
「俺のほうこそ、昼飯をありがとう。レンのおかげで俺もジュードもうまい飯にありつけた」
「僕は頼んだだけだけれど、それならよかった。またすぐ戻るんでしょう?」
「ああ……すまない」
すまなそうな顔を、一層深めてアレックスは呟く。
「ううん、謝らないで。夕飯は一緒に食べられる?」
「……わからないな」
「そっか、わかった。もし、一緒に食べる時間が無くても、連絡はしてね?
そしたら、マーティンに食べながら仕事ができるようなものを作ってもらえるよう頼むから。
だから、そのときは遅くなってもいいから、きりのいいところで一度戻って来て」
本当は一緒に食べられるのが一番いいんだけれど、夕食をこっちで食べるってなると、しっかりしたコース料理だから早くても1時間はかかる。
その後、アレックスは僕とお茶をしてから行くから、そうすると90分コースだ。
その時間を仕事にあてたら、その分早く帰れるわけで睡眠時間も増やせる。
90分あったら、結構違いが出てくるはずだ。
だとすると、僕の我儘でアレックスを困らせたり体調を崩させるわけにはいかない。
アレックスのために何ができるかって言ったら、夜ご飯を作ってもらって渡すことと、その時に口づけで魔力を譲渡することくらいだ。
魔力譲渡は必要ないって聞いているけれど、魔法省の仕事は少なからず魔力を消耗する仕事だ、たぶん。
じゃなくても、また戻って来てもらうんだから、その分くらいは返せてもいいはず。
アレックスの顔がすまなそうな顔から、驚きに変わって、その後綺麗な笑顔に変わる。
その変化に僕の判断は間違ってなかったな、って思った。
ちらりとセバスと目に入れると、セバスも良い笑顔で頷いてくれたよ。
「アレックス様は仕事に集中すると周りが見えないこともあられますので、あまりにお戻りが遅いようでしたら時間を見計らってレン様をお呼びします。
その時は、レン様からアレックス様へお声をかけていただければ」
「うん、わかった。ありがとう、セバス」
わからない、とアレックスが口にした時からなんとなくわかっていたけれど、やっぱり一緒に食事をするのは難しかったみたいだ。
マーティンにアレックス用の夕飯を用意するまではセバスが手配してくれた。
朝と同じように、セバスの給仕を受けながら一人の夕食だ。
今日もとっても美味しい。
僕がふわっとしたたまごともも肉が好きだと言ったから、それに応えてくれたのだと思う。
ふんわりとしたオムレットのようなたまごに挟まれてるやわらかジューシーな鶏もも肉がメインだ。
マーティンの気遣いが嬉しい。
思わず笑みが浮かぶ。
「アレックス様のことですから、明日までに今日の分を取り戻すべく、明日も宮廷に詰められることでしょう」
「そっか。あんまり無理して欲しくないのだけれど、朝早く出るならせめて見送りはしたいな」
「畏まりました。明日は今日ほど早いとは思えませんのでーーー」
「セバス、もし、今日みたいに早くても見送りはしたいから、明日に限らず起こして欲しいんだ。
アレックスからいらない……とは言わないか、えーと、寝かせてやってくれって言われても、起こして」
「………」
セバスが最後まで言うのを待たずに僕は口を挟んだ。
僕にしては、珍しいことだったのかもしれない。
セバスの葛藤がその表情から伝わる。
セバスに頼むより、セオに頼んだ方が良いのかな?
本当は自分で起きられるのが一番いいのだけれど、今までずっと人に起こされて過ごしてきた僕は、まったくもってその自信がない。
「ーーーセオはいる?」
「はい、どうされました?」
僕が呟くと、5秒ほどでノックもなく食堂の扉が開いた。
早……流石だ。
ただ、セオも食事中だったみたいで、扉が開いてから声をかける間に飲み込んだのがわかった。
行儀は良くないけれど、何より優先してきてくれたのが頼もしい。
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