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本編

-69- 謀略

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「ああ、なんて手足が長いのでしょう!このような方は私初めてです!」

そう言いながら採寸もせず僕のお尻を撫で回し、あろうことか僕のナニを下着の上から掴んできた。
耳元で気持ち悪い息が聞こえて、呟かれる。

「こんな厭らしい身体をしておきながら神器様の服を着ないのか?
さっさと私にも晒せばいいものを。……ふん、たかがエリソン侯爵の、神器が偉そうに。
所かまわず股を開く淫乱が」

あー、もう、気色悪い!
これじゃ変態の痴漢だよ、あっちの世界じゃ立派な犯罪だ!
でも、セオとセバスにはなるべく自分で対処するから、と伝えてある。
それに。

「早く採寸しないとセバスに気が付かれるぞ。彼は、とても優秀だ」
そっと彼にしか聞こえないほどの声で呟く。

「………っクソ」
「どうした?ふっ、所詮布越しか。さすがに高魔力を持つ闇属性な私を素手で触る度胸はないようだな。
私はエリソン侯爵の所有する神器だ。私に少しでも傷がついたら、君の命はどうだろう?」
「………っ」

よし、乗り切った!
真っ青になった後は、怒りで真っ赤な顔をして、乱暴ながら素早く採寸していく。
採寸する場所は正しいから、仕立て屋っていうのは間違いなさそうだ。
失脚でもさせたい仕立て屋なのかな。

服を着て、何食わぬ顔をして先ほどの椅子に座ると、セオが怒り狂った顔で僕らを睨んでくる。
わーセオ、バレちゃうバレちゃう、顔顔、顔もどして!
じっと一回視線を送ると、セオは泣きそうな顔になってからぐっと元に戻った。

「あなたのところで、舞踏会の服もお願いしたいのだが」
「ええ、ええ、それはもう!ぜひとも!!」

うん、食いついてきた。
祝賀会の服ってすごく高価みたいなんだよね、これもセバスから聞いた。
祝賀会と言わなかったのは、神器は到底同伴できないからだ。
憶測だけれど、舞踏会なら出られる場合もありそうだし。

ある程度かかるのは必要経費、とも言われた。
男性夫人の服の形は独特で、下は細身のパンツにピンヒールのブーツ、上はウエストを絞った上着の裾が、腰骨辺りから女性のドレスのように大きく広がっているジャケットらしい。

あまり安いと失礼で、公爵家以上の華美なものだとこれまた失礼なので、よくよく仕立て屋と相談すること…って言われたけれど、この仕立て屋との相談は到底無理な話だ。
けれど、相手がボロを出すまで付き合わなくちゃ。

「生地はこちらがおすすめですよ!今流行のお色は青一色!来年は特に水色が流行です。
張りのあるこちらの生地に、宝石を散りばめましょう。いくつほどにしましょうか?」

うわー、想像の斜め上をいくなあと思ったけれど、呆れた顔は見せないようにしなきゃ。
というか…こんなに張りのある遮光カーテンみたいな重い生地に、宝石なんか散りばめたらもっと重くなるよ。
祝賀会はダンスもあるっていうから、そんな重いものを着て軽やかにダンスなんて品がないし…うん、無理だ。

「宝石は必要ない」
「はあ?」
「もう一度言う、宝石は必要ない。それと、服の生地を軽いもので…そうだな、さっきのこの生地なんていいだろう」

僕は、オーガンジーの生地を手にとる。
腰から下は出来るだけ軽くしたい。
踊るときも、歩いている時も、綺麗なシルエットがいいなあ。

「色は、エメラルドで…裾に刺繍を入れてーーーー」
ダンッ!!

相手が勢いよくテーブルをたたき、立ち上がった。
うーん、真っ赤になってる。

「田舎の小さなエリソン侯爵領の神器ごときが偉そうに!領主も領主なら、神器も神器だな!」

4人の使用人の顔が一気にゾッとするような顔つきになった。
僕の方が一瞬怖くなっちゃったじゃないか、皆顔が怖い!

「セバス、お代を。交通費と宿代、それと採寸代。他につける必要があれば任せる」
「かしこまりました」
「道中気をつけてくれ」

「はあ?」

男が凄い声と顔で僕を見てくる。

「どうやらあなたは私の欲しいものを一切売る気がないようだ。
それと…田舎の小さなエリソン侯爵領の…だったか。領主も領主なら、と。
私のことはともかく、エリソン侯爵領内、それもエリソン侯爵邸でよくもそんな台詞が言えたものだ。
二度とこの地は踏めないだろうが……もう一度忠告してやろう、道中気をつけてくれ」
「ひ、ひぃぃぃっ!!」

うっすらと笑みを浮かべると、相手が青くなってカバンを掴み、そのまま外に逃げ出ていく。
えー、まずい!お金は受け取ってもらわなくちゃ!
こっちが悪者になったら困るよ。

「セオ、追いかけて、セバスからお金受け取って、服のポケットにでもねじり込んできて」
「っはい!」

はあー疲れた。
採寸のこと、絶対セオから説教されそう。
それを聞いたら、セバスからも説教されそう。
そしたら、それを知ってアレックスからも説教されそう。

この後のことを考えると、より疲れそうになるけれど。

残って茫然と僕を見るレナードに目を向ける。
多分、途中から僕が気がついたことに気がついたはず。

「で?レナード、気分はどう?」
「っ最悪です」
「そう。僕も最悪だよ」

苦虫を嚙み潰したような顔のレナードを目に入れて、僕は盛大にため息を吐いた。
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