【完結】推し活アラサー女子ゆっこのちょっと不思議な日常

日夏

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一章

-1- 名は体を表す

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名は体を表すというけれど、自分の名前ほど当てはまる人間にあったことは、一度もない。

私の名前は、平凡の平に、木綿の子、と書いて、平木綿子たいらゆうこ
木綿といったら、安さと丈夫さがとりえで、町中にありふれる、ごくごく一般的な素材だ。

どうせなら、麻や絹の方がよかった。
麻子ちゃん、絹子ちゃん。
木綿子という字面と並べると、なんて可愛らしいのだろうか。
麻は今リネンで人気絶大だし、絹には艶やかな光沢と品がある。
素材そのものが、イコール、女の魅力、に思えてしかたない。

そうは思っても、わざわざ改名したいほどまで自分の名前を毛嫌いしているわけではないので、このままずっと死ぬまで、木綿子として一生を終えるのだろう。

だが、せめて、一生を終える前には、平凡の平、平くらいは変わりたいものである。
生まれてこの方三十二年、ずーっと平凡の平、平のままだ。

周りの苗字が次々と変わっていく中、自分だけが取り残されている気にさえなり、二十代後半からは、週に一度は合コンやお見合いパーティーに通いつめたこともある。

だが、デートに行くことはあっても、付き合うまでには至らず、ネタだけがどんどん増えていくだけだった。

食べ方が物凄く汚かったり、あんたは刑事で私は容疑者か、と思われるほどの質問攻めにあったり、待ち合わせに一時間半も遅刻された挙句割り勘だったり、数分おきに自分の脇のにおいを何度も確かめる男もいた。
そいういう日は、寝る前に、なんだか気力をごっそりともっていかれてしまう。

そうして、それらを何度も繰り返しているうち、その時間がとてもとても勿体ないことに気が付いた。
興味のない話に相槌を送り、自慢話に称賛の声と尊敬の眼差しを送って、相手の好感度という名のゲージを減らし、減らした分自分のゲージが増えていく作業になんの意味があるのか。
実りのない時間が、実に勿体ない。
そう思ったときには、焦りもすでに通り越していた。

思えば、ちゃんと相手を好きになってつきあったことが、あっただろうか。

彼氏がいるのが当たり前みたいな学生時代、初めての彼氏は、友人の彼氏の紹介で付き合うことになった。
二つ年上の彼は、優しくてスポーツマンでいい人だったが、どうしてか好きにはなれなかった。
とりあえず時間と肌だけ重ね、相手との気持ちの差が広がっていくにつれ罪悪感が重くのしかかり、結局別れを切り出した。
別れるときですら優しかったその彼には、本当に申し訳がなくて後悔だけが残った。
その後も、合コンや飲み会で、なんとなく好きになれそうで付き合い、けれど好きになれず、同じ流れを3度繰り返した。

現実は、漫画と異なり、非常に厳しいものである。
二十歳そこそこで、すでに恋愛にあきらめを感じていた私は、現実逃避、漫画に走った。

三次元のアイドルや、漫画でも少女漫画だったら、まだすぐに起動修正できる余地があったのかもしれない。
けれども、そこではまったのが、イケメンがたくさん出てくる少年雑誌のテニス漫画で、偶然か必然かアニメ化されて、イベントに行ったりグッツを買いあさった。

そうこうしているうちに、同じ漫画が好きな女友達に出会った。
彼女の勧めで、同人誌の世界に魅了され、そこでBLという夢の扉が開かれ、それだけでたらず、コスプレという世界に全身どっぷりとつかり、さらにさらに、なりきりチャット(参加する者同士が同じ漫画のキャラになりきって楽しむチャットである)に参加し、あまつさえ、キャラ同士でおつき合いをする、いわゆる恋人が出来てしまった。

そういえば、一番ときめいたのは、現実の彼より、なりきりチャットでおつき合いをしたキャラの彼だった。
時間も肌を重ねた回数も一番多かった、や、肌を重ねるというのは語弊がある。
もちろん、チャットでの話だ。
キャラはイケメンの男同士、でも、中身は女同士。
今思えば、なんともシュールな世界である。

底の奥底まで、長い長い約6年にも及ぶ夢の逃避旅行をしたからだろうか?
その後、現実に戻っていざ付き合うことになっても、なんとも短い期間で終わった。
現実の男性に、恋愛感情を抱くことはなかった。

この先、私は、現実の男性と恋愛ができるのだろうか?
切実な問題である。


とはいえ、恋愛を抜きにしても、とういものは、女を磨く上でたまには必要なのかもしれないな、などと、仕事終わり、普段なら直しもしない化粧を直しながら、思う。
今日は、二週間ぶりにあう男友達のなっちゃんと飲む約束をしている。

彼、なっちゃんこと結城那智ゆうきなちは、私の唯一ともいえる、リアルでの男友達だ。
結ぶお城と書いて、結城、沖縄の首都、那覇市の那に、才智の智で、那智。
非の打ち所がない字面と同様、彼自身の見た目も非の打ち所がないように思える。
色素が薄く、羨ましいくらいまつ毛が長く、艶やかな黒髪に、華やかな容姿の持ち主だ。

身長はけして高くはないが、手足が長く頭が小さいので、遠目で見ると実際より高く見えた。
中性的で、球体間接の高級ドールを思わせる彼は、三十路を超えているのにもかかわらず、美少年という言葉がしっくりくるから不思議である。
黙っていたら、名前の通り美しく賢く、それでいて繊細で、どこか儚げに見える。
が、いかんせん、喜怒哀楽が正直に言葉と態度と顔にでるタイプで、表情が豊かなので、それが私には、彼の最大の魅力であると思う一方、他人から見たらがっかり要素といえるものかもしれなかった。
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