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〈5 錯綜クインテット〉
ep71 HeySiri! 友達のつくり方を教えて?①
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初日から大波乱を巻き起こした一日もようやく終わり、わたしは帰り支度をしながら、今日のことを振り返っていた。
朝の件以外は、概ね平和に過ごせたと思う。担任から、簡単にわたしの教室復帰の説明があったくらいで、他の生徒から変な目で見られるようなことはなかった。
それもこれも、西田くんが話しかけてくれているおかげだ。西田くんがいるから、ぼっちになることもないし、変な浮き方をして悪目立ちもせずにすんでいるんだと思う。困ったときは西田くんに聞けばいいという安心感もあり、特にストレスなく一日が過ごせた。
それに、わたしが一番不安視していた新島くんも、今は欠席しているみたいだ。先生からは一言も新島くんの話が出なかったから、何で休んでいるのかは分からないけれど。正直、新島くんがいなくてほっとしている。
「津田さん、また明日」
「えっ、は、はい。また明日!」
考え事に耽っていたわたしに、篠原くんが帰りの挨拶をしてきて、わたしは慌てて返事をした。教室を出て行く篠原くんの後ろすがたを見送る。
わたしは、顔が勝手に緩みそうになるのを必死にこらえた。篠原くんは、これからちなちゃんと一緒に帰るのだ。ふたりで甘い時間を過ごすと良い。
「津田さん、お疲れ。一緒に帰ろうか?」
帰り支度を済ませると、西田くんが気を遣って声をかけてくれた。
「ううん、大丈夫です。この後、相談室に寄りたいので」
「そっか。気を付けて帰りなよ?」
「西田くんも気を付けて」
本当は、友達の竹内くんと一緒に帰りたいはずなのに、西田くん、わたしが学校に馴染めるよう、良く気にかけてくれている。いいやつだ。
*
教室を出ると、わたしは相談室に向かった。ちゃんと一日学校で過ごせたことを、日高先生に報告しておこうと思ったのだ。相談室の扉をノックして、先生からの返事を待つ。すぐに先生は快く迎えてくれた。
「お疲れさま、津田さん。今日一日どうだった?」
「大変な一日でした……」
今朝の一件で、篠原くんとちなちゃんが付き合っているらしいという噂は、あっという間に学年中に広まった。唐突に思われた二人の関係だったけど、街中で二人を見たという目撃情報や、学校や修学旅行での二人の様子も挙げられて、篠原くんとちなちゃんは付き合っているという結論になったようだ。
「今、大変みたいね。みんな、篠原さんのことで大騒ぎ。今日だけで相談に来た生徒が5人もいたわ」
篠原くんに恋人ができたことがショックで、早退した生徒もいたらしい。
まぁ、推しに恋人が出来たらショックだよなー。
他人事みたいに、ずずっとお茶をすする。わたしは三次元に夢を持たないと決めているので。
「思春期って大変ねぇ。自分がこの世界の主人公だと思っているから、ちょっと恋愛が上手くいかないと人生終わりみたいな気持ちになっちゃうのよねー」
恋愛がらみの話になると滅茶苦茶ドライなんだよな、この人。
もう、この話はやめた方がいいと察して、わたしは悩んでいたことを先生に質問することにした。
「先生、友達ってどうやってつくるんですか?」
いつまでも、西田くんに頼りっぱなしではいけない。わたしも、学校に溶け込めるように、自力で友達をつくるのだ。
「津田さん。私に友達がいるように見える?」
「あー……」
聞く相手を間違えたみたい。
「そりゃあね、学生時代はもちろん親友と呼べる友人はいたわよ」
「そうなんですか」
「そうよ。私の唯一の幼馴染がね」
これは話が長くなりそうな展開だ。先生に昔話語らせたら、時間はあっという間に過ぎてしまう。この後篠原くんの家に行かなきゃいけないのに。
「早苗ちゃんって言うんだけどね。幼稚園から、小中高大学とずっと一緒だったの。毎日遊んでたわ。おばあちゃんになってもずっと親友だよって誓い合っていたくらいに仲が良かったのよ」
「はぁ」
「私たちが高校生になったとき、早苗ちゃんに初めて彼氏ができてね。私、とっても嬉しかったの。早苗ちゃんは私にとって大切な親友だったから、幸せになってほしいと心から願って応援していたわ」
先生は遠い昔を回想するような、愁えるように窓の外を眺めた。
「でもね、早苗ちゃんに彼氏ができてから、私達の友情は変わってしまったの。遊ぶ約束も、学校への登下校も、全部彼氏優先。私とは事前に遊ぶ約束をしていたのに、彼氏からの“会いたい”の一言でドタキャンされちゃうし、何の相談もなく勝手に彼氏を連れてきちゃうしでね。その時はもう地獄なんてもんじゃないわよ。私も居るのに二人でいちゃいちゃしちゃって。私なんてまるで空気よ、ミジンコよ?」
う、うん? わたし友達のつくり方を聞きたかったんだけどな。どうしよう、止めた方がいいかな。でも、途中で話を止めるのも失礼だしな……。
「それでもわたしは信じたわ。早苗ちゃんはいい子だって知ってたし、初めての彼氏に浮かれているだけで、そのうち早苗ちゃんも落ち着くだろうって。友達の幸せを喜べない自分が嫌いだった。二人の幸せを願ってこその親友だもの。結局、早苗ちゃんはその彼氏と、一年もたたずに別れちゃったけどね」
「え、別れちゃったんですか?」
「早苗ちゃんの浮気でね」
「うわぁ」
恋愛って不思議だな。最初はお互い好き同士で付き合ったのに、いつの間にか他の人に目移りしちゃうんだもん。
「高校2年生の時にね」
え、まだ続くんですか?
「私に好きな人がいたの。名前は太一先輩って言うんだけどね、野球部のキャプテンだったわ。私はその先輩に近づきたくてマネージャーをやっていたの」
野球部のキャプテンとマネージャーの恋か。ありがちっぽいなぁ。
「お泊まり会の時にね、太一先輩がすきなことを早苗ちゃんに話したの」
お泊り会って、今でいうパジャマパーティーかぁ。いいなぁ。やってみたいなぁ、パジャマパーティー。わたし、友達の家にお泊りなんてしたことないんだよなぁ。
「早苗ちゃん、私の恋を心から応援してくれたわ。やっぱり持つべきものは親友だと思った」
今度、ちなちゃんをパジャマパーティーに誘ってみようかな。でもなぁ、今ちなちゃん忙しいだろうしなぁ。
「そしたらね、気づいたら早苗ちゃん、太一先輩と付き合ってたのよ」
受験が終わったら、ちなちゃんを誘ってみよう。卒業記念にもなるし。きっと楽しいんだろうなぁ。
「大学生の時にね。早苗ちゃんと一緒に入ったサークルで飲み会があったの」
あーでも、パジャマパーティーって何が必要なのかな。お菓子とジュースは必須だな。夜中に食べるお菓子とジュースって美味しいんだよねぇ。
「早苗ちゃん、酔ったふりして私が以前から気になっていた同級生とべたべたしだして、挙句の果てに二人で帰って行ったわ。そして後日知ったのだけど、そのサークルの男子の全員が早苗ちゃんと関係があったの」
お母さんに御馳走作ってもらわなきゃ。篠原くんにはパジャマパーティーのこと内緒にしておこう。夜中にお菓子食べると知ったら絶対うるさいもん。一日の摂取カロリーがどうのって、せっかくのパジャマパーティなのにカロリーの話はやめてほしい。
「その後、早苗ちゃんは結婚。現在旦那さんと2人の子供たちと幸せに暮らしているわ」
朝の件以外は、概ね平和に過ごせたと思う。担任から、簡単にわたしの教室復帰の説明があったくらいで、他の生徒から変な目で見られるようなことはなかった。
それもこれも、西田くんが話しかけてくれているおかげだ。西田くんがいるから、ぼっちになることもないし、変な浮き方をして悪目立ちもせずにすんでいるんだと思う。困ったときは西田くんに聞けばいいという安心感もあり、特にストレスなく一日が過ごせた。
それに、わたしが一番不安視していた新島くんも、今は欠席しているみたいだ。先生からは一言も新島くんの話が出なかったから、何で休んでいるのかは分からないけれど。正直、新島くんがいなくてほっとしている。
「津田さん、また明日」
「えっ、は、はい。また明日!」
考え事に耽っていたわたしに、篠原くんが帰りの挨拶をしてきて、わたしは慌てて返事をした。教室を出て行く篠原くんの後ろすがたを見送る。
わたしは、顔が勝手に緩みそうになるのを必死にこらえた。篠原くんは、これからちなちゃんと一緒に帰るのだ。ふたりで甘い時間を過ごすと良い。
「津田さん、お疲れ。一緒に帰ろうか?」
帰り支度を済ませると、西田くんが気を遣って声をかけてくれた。
「ううん、大丈夫です。この後、相談室に寄りたいので」
「そっか。気を付けて帰りなよ?」
「西田くんも気を付けて」
本当は、友達の竹内くんと一緒に帰りたいはずなのに、西田くん、わたしが学校に馴染めるよう、良く気にかけてくれている。いいやつだ。
*
教室を出ると、わたしは相談室に向かった。ちゃんと一日学校で過ごせたことを、日高先生に報告しておこうと思ったのだ。相談室の扉をノックして、先生からの返事を待つ。すぐに先生は快く迎えてくれた。
「お疲れさま、津田さん。今日一日どうだった?」
「大変な一日でした……」
今朝の一件で、篠原くんとちなちゃんが付き合っているらしいという噂は、あっという間に学年中に広まった。唐突に思われた二人の関係だったけど、街中で二人を見たという目撃情報や、学校や修学旅行での二人の様子も挙げられて、篠原くんとちなちゃんは付き合っているという結論になったようだ。
「今、大変みたいね。みんな、篠原さんのことで大騒ぎ。今日だけで相談に来た生徒が5人もいたわ」
篠原くんに恋人ができたことがショックで、早退した生徒もいたらしい。
まぁ、推しに恋人が出来たらショックだよなー。
他人事みたいに、ずずっとお茶をすする。わたしは三次元に夢を持たないと決めているので。
「思春期って大変ねぇ。自分がこの世界の主人公だと思っているから、ちょっと恋愛が上手くいかないと人生終わりみたいな気持ちになっちゃうのよねー」
恋愛がらみの話になると滅茶苦茶ドライなんだよな、この人。
もう、この話はやめた方がいいと察して、わたしは悩んでいたことを先生に質問することにした。
「先生、友達ってどうやってつくるんですか?」
いつまでも、西田くんに頼りっぱなしではいけない。わたしも、学校に溶け込めるように、自力で友達をつくるのだ。
「津田さん。私に友達がいるように見える?」
「あー……」
聞く相手を間違えたみたい。
「そりゃあね、学生時代はもちろん親友と呼べる友人はいたわよ」
「そうなんですか」
「そうよ。私の唯一の幼馴染がね」
これは話が長くなりそうな展開だ。先生に昔話語らせたら、時間はあっという間に過ぎてしまう。この後篠原くんの家に行かなきゃいけないのに。
「早苗ちゃんって言うんだけどね。幼稚園から、小中高大学とずっと一緒だったの。毎日遊んでたわ。おばあちゃんになってもずっと親友だよって誓い合っていたくらいに仲が良かったのよ」
「はぁ」
「私たちが高校生になったとき、早苗ちゃんに初めて彼氏ができてね。私、とっても嬉しかったの。早苗ちゃんは私にとって大切な親友だったから、幸せになってほしいと心から願って応援していたわ」
先生は遠い昔を回想するような、愁えるように窓の外を眺めた。
「でもね、早苗ちゃんに彼氏ができてから、私達の友情は変わってしまったの。遊ぶ約束も、学校への登下校も、全部彼氏優先。私とは事前に遊ぶ約束をしていたのに、彼氏からの“会いたい”の一言でドタキャンされちゃうし、何の相談もなく勝手に彼氏を連れてきちゃうしでね。その時はもう地獄なんてもんじゃないわよ。私も居るのに二人でいちゃいちゃしちゃって。私なんてまるで空気よ、ミジンコよ?」
う、うん? わたし友達のつくり方を聞きたかったんだけどな。どうしよう、止めた方がいいかな。でも、途中で話を止めるのも失礼だしな……。
「それでもわたしは信じたわ。早苗ちゃんはいい子だって知ってたし、初めての彼氏に浮かれているだけで、そのうち早苗ちゃんも落ち着くだろうって。友達の幸せを喜べない自分が嫌いだった。二人の幸せを願ってこその親友だもの。結局、早苗ちゃんはその彼氏と、一年もたたずに別れちゃったけどね」
「え、別れちゃったんですか?」
「早苗ちゃんの浮気でね」
「うわぁ」
恋愛って不思議だな。最初はお互い好き同士で付き合ったのに、いつの間にか他の人に目移りしちゃうんだもん。
「高校2年生の時にね」
え、まだ続くんですか?
「私に好きな人がいたの。名前は太一先輩って言うんだけどね、野球部のキャプテンだったわ。私はその先輩に近づきたくてマネージャーをやっていたの」
野球部のキャプテンとマネージャーの恋か。ありがちっぽいなぁ。
「お泊まり会の時にね、太一先輩がすきなことを早苗ちゃんに話したの」
お泊り会って、今でいうパジャマパーティーかぁ。いいなぁ。やってみたいなぁ、パジャマパーティー。わたし、友達の家にお泊りなんてしたことないんだよなぁ。
「早苗ちゃん、私の恋を心から応援してくれたわ。やっぱり持つべきものは親友だと思った」
今度、ちなちゃんをパジャマパーティーに誘ってみようかな。でもなぁ、今ちなちゃん忙しいだろうしなぁ。
「そしたらね、気づいたら早苗ちゃん、太一先輩と付き合ってたのよ」
受験が終わったら、ちなちゃんを誘ってみよう。卒業記念にもなるし。きっと楽しいんだろうなぁ。
「大学生の時にね。早苗ちゃんと一緒に入ったサークルで飲み会があったの」
あーでも、パジャマパーティーって何が必要なのかな。お菓子とジュースは必須だな。夜中に食べるお菓子とジュースって美味しいんだよねぇ。
「早苗ちゃん、酔ったふりして私が以前から気になっていた同級生とべたべたしだして、挙句の果てに二人で帰って行ったわ。そして後日知ったのだけど、そのサークルの男子の全員が早苗ちゃんと関係があったの」
お母さんに御馳走作ってもらわなきゃ。篠原くんにはパジャマパーティーのこと内緒にしておこう。夜中にお菓子食べると知ったら絶対うるさいもん。一日の摂取カロリーがどうのって、せっかくのパジャマパーティなのにカロリーの話はやめてほしい。
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