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〈3 葛藤と決意の間〉
ep30 きみはわたしの友達だから②
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「今回のことで、成海ちゃんが傷ついたのは事実だし、やり方がまずかったよね。改めて僕からも謝るよ。ごめんね、成海ちゃん」
おじさんは困ったように謝ると、わたしは何も言わずに俯いた。
わたしはただ、篠原くんの言うとおりに素直なフリして頷けばよかったのかな。わたしには篠原くんを困らせる権利は無かったのかな。だって、わたしは篠原くんの友達でいさせえてもらっている身だ。その分際で篠原くんに反抗するなんて、それってわたしの自分勝手なのかな。
でも、そんなのやっぱり友達じゃないよ。どっちがどっちの言いなりなんて。本音の言い合えない関係は、友達じゃない。
でもきっと、今のままじゃダメなんだ。今のままじゃ、篠原くんの対等の友達になんて、絶対になれない。
「おじさん、わたし決めました」
篠原くんのおじさんは、穏やかに微笑んで頷いた。
*
咲乃は学校が終わると、成海の家へ向かった。直接成海に会って、改めて謝ろうと思ったのだ。しかし、成海の家に行くと、成海の母親に「今日は咲乃くんの家に行くって言っていたわよ」と、きょとんとした顔で言われてしまった。
成海や雅之から全く連絡が無かったし、最近ずっと成海に避けられていると思っていたので、咲乃は驚いた。
急いで帰宅し、玄関を開けると、リビングの方から成海と雅之の声が聞こえてきた。
「おじさん、ここ全部間違ってます」
「ぼくの頃はこんなの習ってなかったんじゃないかなぁ。最近の中学生って難しい事を習っているんだね」
リビングのドアを開けて飛び込んできた目の前の光景に唖然とした。成海が雅之に数学を教えていたのだ。
「あぁ。咲乃、お帰り!」
「おかえりなさーい」
帰宅した咲乃に気付き、ふたりとも挨拶をすると、すぐに問題集に戻ってしまう。
咲乃が課題を出さない限り、成海が自主的に勉強することはなかった。それなのに、今は熱心に問題集を解いている姿を見て、咲乃は動揺したまま、かばんをソファーの上に下ろした。
「津田さん、どうして……?」
避けられていたのではなかったのか。
咲乃が言葉を詰まらせると、成海は問題集に目を向けたまま答えた。
「おじさんが夕飯に誘ってくれたので来ました。篠原くんが美味しいものを作ってくれるっていうなら、食べないわけにはいかないじゃないですか」
「……そう」
戸惑ったまま、咲乃が「今日は生姜焼きだよ」と言うと、成海は喜んでいた。
咲乃はエプロンをすると、冷蔵庫から必要な食材を取り出した。
「ねぇ、篠原くん。相談室の先生ってどんな人ですかね」
「え?」
咲乃が驚いて成海を見た。成海は眉間にしわを寄せて、問題集に目を落としている。
「だって、不安じゃないですか。わたし、高圧的な大人の人、苦手なんです」
「相談室、行ってくれるの……?」
咲乃は料理の手を止めて、まじまじと勉強を続ける成海を見つめた。
「なんで……」
「まぁ、あれですよ。ずっと部屋の中にいるのもそろそろ飽きるかなぁと。あっ、おじさん、そこ計算間違ってます。カッコの中から計算しなきゃ」
「津田さん、本気……なの?」
本気で別室登校を始めるつもりなのか。
咲乃が問いかけると成海はきょとんとした顔でとぼけた。
「1度くらいは試しに行ってみようと思います。先生と気が合わないようでしたら、行くのを止めちゃいますけど」
この前はあんなに怒っていたのに、今では随分落ち着いている。咲乃は戸惑いながらもキッチンに立った。炊飯器に、水に晒しておいた玄米をセットする。
成海のことが気になって、ちらりと盗み見た。
苦手だった数学を雅之に教えている姿を見て、咲乃の口元が自然とほころんだ。
「おなかすいた……。篠原くん、ご飯まだですか?」
「今作ってるから待ってて」
子供のように駄々をこねる成海に応えると、咲乃は夕飯の支度を進めた。
おじさんは困ったように謝ると、わたしは何も言わずに俯いた。
わたしはただ、篠原くんの言うとおりに素直なフリして頷けばよかったのかな。わたしには篠原くんを困らせる権利は無かったのかな。だって、わたしは篠原くんの友達でいさせえてもらっている身だ。その分際で篠原くんに反抗するなんて、それってわたしの自分勝手なのかな。
でも、そんなのやっぱり友達じゃないよ。どっちがどっちの言いなりなんて。本音の言い合えない関係は、友達じゃない。
でもきっと、今のままじゃダメなんだ。今のままじゃ、篠原くんの対等の友達になんて、絶対になれない。
「おじさん、わたし決めました」
篠原くんのおじさんは、穏やかに微笑んで頷いた。
*
咲乃は学校が終わると、成海の家へ向かった。直接成海に会って、改めて謝ろうと思ったのだ。しかし、成海の家に行くと、成海の母親に「今日は咲乃くんの家に行くって言っていたわよ」と、きょとんとした顔で言われてしまった。
成海や雅之から全く連絡が無かったし、最近ずっと成海に避けられていると思っていたので、咲乃は驚いた。
急いで帰宅し、玄関を開けると、リビングの方から成海と雅之の声が聞こえてきた。
「おじさん、ここ全部間違ってます」
「ぼくの頃はこんなの習ってなかったんじゃないかなぁ。最近の中学生って難しい事を習っているんだね」
リビングのドアを開けて飛び込んできた目の前の光景に唖然とした。成海が雅之に数学を教えていたのだ。
「あぁ。咲乃、お帰り!」
「おかえりなさーい」
帰宅した咲乃に気付き、ふたりとも挨拶をすると、すぐに問題集に戻ってしまう。
咲乃が課題を出さない限り、成海が自主的に勉強することはなかった。それなのに、今は熱心に問題集を解いている姿を見て、咲乃は動揺したまま、かばんをソファーの上に下ろした。
「津田さん、どうして……?」
避けられていたのではなかったのか。
咲乃が言葉を詰まらせると、成海は問題集に目を向けたまま答えた。
「おじさんが夕飯に誘ってくれたので来ました。篠原くんが美味しいものを作ってくれるっていうなら、食べないわけにはいかないじゃないですか」
「……そう」
戸惑ったまま、咲乃が「今日は生姜焼きだよ」と言うと、成海は喜んでいた。
咲乃はエプロンをすると、冷蔵庫から必要な食材を取り出した。
「ねぇ、篠原くん。相談室の先生ってどんな人ですかね」
「え?」
咲乃が驚いて成海を見た。成海は眉間にしわを寄せて、問題集に目を落としている。
「だって、不安じゃないですか。わたし、高圧的な大人の人、苦手なんです」
「相談室、行ってくれるの……?」
咲乃は料理の手を止めて、まじまじと勉強を続ける成海を見つめた。
「なんで……」
「まぁ、あれですよ。ずっと部屋の中にいるのもそろそろ飽きるかなぁと。あっ、おじさん、そこ計算間違ってます。カッコの中から計算しなきゃ」
「津田さん、本気……なの?」
本気で別室登校を始めるつもりなのか。
咲乃が問いかけると成海はきょとんとした顔でとぼけた。
「1度くらいは試しに行ってみようと思います。先生と気が合わないようでしたら、行くのを止めちゃいますけど」
この前はあんなに怒っていたのに、今では随分落ち着いている。咲乃は戸惑いながらもキッチンに立った。炊飯器に、水に晒しておいた玄米をセットする。
成海のことが気になって、ちらりと盗み見た。
苦手だった数学を雅之に教えている姿を見て、咲乃の口元が自然とほころんだ。
「おなかすいた……。篠原くん、ご飯まだですか?」
「今作ってるから待ってて」
子供のように駄々をこねる成海に応えると、咲乃は夕飯の支度を進めた。
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