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〈2 ダイアモンドリリー〉
ep13 みんなでしゃぶしゃぶを食べるだけの話
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「ただいまー」
夕飯が出来るまでの間、篠原くんと勉強していると、廊下の方からお姉ちゃんの声がした。
「おじゃまします」
続いて聞こえてきたのは、男の人の声だった。聞き馴染みのない声に、わたしはこっそりドアの隙間から玄関を覗いた。
長身の筋肉質のがっちりした体型。日焼けした浅黒い肌に、精悍な顔つき。髪の毛を短く刈り込んでいる。
だ、誰だろう。もしかして、あれがお姉ちゃんの彼氏さん?
「どうしたの、津田さん?」
篠原くんも、わたしの頭上からドアの隙間を覗いた。
「おねえさんの、彼氏さん?」
「たぶん……」
お姉ちゃんが彼氏さんを連れてきたの、初めてだ。
「挨拶しないの?」
「うーん……」
初めて会った人だし、なんだか大きくて怖そうな感じ。しかも、あの口達者で性格がキツイお姉ちゃんの彼氏だ。普通の人ではないんじゃないだろうか。
悩んでいるうちに、お姉ちゃんたちの姿が見えなくなってしまった。リビングへ行ったのだろう。あの人も、今夜一緒に夕食を食べるのかな。
「俺、挨拶してくるよ」
「えぇっ! ま、待ってくださいよぅ」
後になって一人で声をかけるのも気まずいと、わたしは慌てて篠原くんの後を追った。
リビングでは、お姉ちゃんがお母さんに、見知らぬおにいさんを紹介していた。
「来た来た。成海、咲乃くん! こちら、山田優斗くん」
なるべく目立たないよう篠原くんの後ろにかくれていたのに、お母さんはすぐにわたしを見つけると、こっちへ来いと手を振った。わたしは、おずおずとおにいさんの前に立った。
「はじめまして。きみが郁海の妹の?」
「……な、成海です……」
人見知りモード発動。おにいさんの顔がまともに見れないまま頭を下げる。
「たしか、中学2年生だっけ。きみは?」
「津田さんの友達の、篠原咲乃です」
「篠原くん、よろしくな」
篠原くんとおにいさんが握手を交わす。一通り挨拶が済むと、お母さんは切り替えるように手を叩いた。
「さ、夕食の支度しちゃいましょうか。今夜はしゃぶしゃぶよ~」
*
ひさしぶりのしゃぶしゃぶは、仕事から帰ってきたお父さんも入れた6人で行われた。いつもは安い豚しゃぶなのに、今日はちょっと値段の高い牛肉を使用している。お母さん、男の子がたくさん来ているからって奮発し過ぎじゃないだろうか。
お父さんはすっかりお姉ちゃんの彼氏さんが気に入ったようだ。おにいさんの部活が野球部だと知ってから、ずっと野球の話をしている。どうやら、お姉ちゃんの彼氏として正式に認められたらしい。
人見知りモードが発動しているわたしは、何もしゃべらず黙々としゃぶしゃぶを楽しむことに集中していた。鍋の中で大切に育てたお肉をゴマダレで食べる。口に入れた瞬間、牛肉がほろりと溶けてしまった。
ほふほふ……おにふ(お肉)、ふぁいふぉー(最高)!
「津田さん、さっきからお肉ばかり食べてる。ちゃんと野菜も食べなきゃだめ」
久しぶりのしゃぶしゃぶにほっぺを緩ませていると、篠原くんが横からわたしの器に野菜を盛り付けはじめた。
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ! 自分のペースで食べてるんです。余計なお世話はいりません!」
「だめ。食事はバランスよくとらないと。さっきから全く野菜に手を付けてないよ。シイタケも食べようね」
「やめてくださいよ! シイタケ嫌いなのに!!」
わたしの器にどんどん乗っかって、彩り豊かな野菜たちが山になっている。もうお肉を乗せる余裕がないじゃないか。
「咲乃くんの言う通りよ。成海は好きなものしか食べないんだから。ちゃんと好き嫌いせず野菜も食べなさい。咲乃くんは、お肉たくさん食べてねー」
そう言って篠原くんの器にお肉を取り分けている。お母さんは篠原くんに甘すぎるよ!
「あっ、それわたしのお肉!!」
気付いたら、わたしが大切に育てていたお肉をお姉ちゃんにさらわれてしまった。隣に座るおにいさんの器に入れている。
「アンタ、さっきから肉独り占めし過ぎ。少しは他の人のことも考えなさい」
「ごめんな、成海ちゃん」
うぅ……。わたしのお肉が……。
わたしは悔しさを殺して、がじがじ白菜の芯を食《は》んだ。
「津田さん、人参もいい頃合いだよ。人参も食べようね」
お願いだから、自分のペースで食べさせて!!!
*
初めて彼を目にした時、読んでいた恋愛小説のヒーローが現実に現れたのだと思った。
日に当たるときらきら輝く茶色い髪色と、白く滑らかな肌。色づきの良い唇に、背の高い細身の体躯。印象的なのはその目だった。前髪の下に切れ長の目。全身から清涼な空気と清廉さを纏っているのに、瞳だけは暗澹とした鈍い光を宿している。
一目見て、何処かへ消えてしまいそうだと思った。私はその不思議な空気を纏った彼に目を奪われて、周囲の雑音が聞こえなくなってしまった。
黒板の前に立ち担任に自己紹介を促されると、彼は涼やかな優しい声で言った。
「――から来ました、篠原咲乃です。よろしくお願いします」
それだけが、はっきりと私の耳へ届いた。
学校は唐突に現れた転校生に騒ぎになり、一目見たいと教室に生徒たちが詰めかけた。クラスメイトの女子からは、遠巻きに浮ついた視線で見られ、男子からは警戒されて、彼は独りで過ごすことが多くなった。
窓際の席で本を読み、時々ぼんやりと何かを考えている。瞳はいつも暗い光に揺らめいていて、目を離せば日差しの中に溶けてしまうのではと思われるほど、存在がかすんで朧気だった。いつも孤独に過ごす転校生を、私は声もかけられず、ただひたすら目で追う事しかできなかった。声をかける勇気はなかったし、当時の彼は近寄り難い静謐な雰囲気があった。
教室の誰もが、彼を遠目から窺いみることが多い中で、神谷くんだけは違った。持ち前の明るさで、事あるごとに彼に構って歩くようになったのだ。
初めは愛想良く曖昧に笑っていただけの彼が、次第に迷惑そうに表情を変えるようになった。冷たくあしらう彼が新鮮で、嫌な物は嫌だと主張する姿に子供らしさを感じた。いつの間にか暗澹とした瞳の中に、血の通った光が指したのを私は見ていた。
迷惑そうに神谷くんをあしらいながらも、友達思いで見捨てない人なのだと分かった。
冷たい印象が強かったのに、意外にも暖かい人なのだと分かった。
真面目に勉強に取り組む姿も見ていた。
儚げな印象だったから、運動神経が良いのも意外だった。
普通の男の子の様に笑っているときは可愛いと思った。
意外にも心配症で、神谷くんがジュースばかり飲んでいるのを注意しているのが可笑しかった。
色んな彼を見ているうちに、自分の心までもそれに合わせて喜んだり哀しんだりしているのに気づいた。それが恋だと分かるのに、時間はかからなかった。
ある日の昼休みだった。廊下を歩いていると、突然、教室から男の子が飛び出してきた。
男の子はぶつかる寸前でくるりと体制を整えると「わりぃ!」と一言告げて走り去っていった。私は尻餅をついたまま、呆然と走り去った男の子――、神谷くんの後姿を見送った。
続いて教室から飛び出してきたのは篠原くんだった。
「逃げ足が速いな」
篠原くんは小さく呟くと、尻餅をついた私に気づいて手を差し伸べた。
「ごめんね、大丈夫?」
神谷くんが飛び出してきたのもびっくりしていたけれど、彼が私に手を差し伸べていることにはもっと驚いていた。固まっている私に、彼は申し訳なさそうな顔をした。
「突然、神谷が飛び出してきて驚いたよね。どこか怪我はない?」
「え、あっ、いえ、その……」
篠原くんに話しかけられて、私はますます頭の中が真っ白になっていた。もともと突発的な事への対応が苦手だ。何も答えられない私の手を、彼の滑らかな手が私の掌を包み込んだ。え、と驚いているすきに軽やかに引っ張り上げられ、いつの間にか立ち上がっていた。
「これって?」
私は慌てて彼の手を振り払うと、小指を隠すように手を握った。
「失礼しました!」
頭を下げて、逃げるように駆けだした。柱の陰に隠れて、息を整える。恥ずかしさのあまり顔中が熱くなっていた。右手で握りしめていた、左手の小指をそっと開く。
彼が、この小指に巻かれたものの意味を知らなくて良かった。“これ”には、私の恋心が込められているのだから。
運命の赤い糸を模した恋のおまじない。赤い糸を左手の小指に巻き、相手を想い、3日間願い続ける。この糸の先が彼の指に続いていることをイメージしながら。すると3日後、赤い糸が彼との仲を引き寄せるという。小学生の頃、読んだ本に書かれていたおまじない。
たまたま、今日がその3日後だった。一瞬だったけど、初めて彼と話せた。本当に、小さな奇跡が起きた。この赤い糸が、私の願いを届けてくれたのだろうか。
彼の手の温もりが、まだ私の手の中に残っている。私は、小指を包み込んで祈った。
弱虫で臆病な私の恋心が、あなたに届きますように――。
夕飯が出来るまでの間、篠原くんと勉強していると、廊下の方からお姉ちゃんの声がした。
「おじゃまします」
続いて聞こえてきたのは、男の人の声だった。聞き馴染みのない声に、わたしはこっそりドアの隙間から玄関を覗いた。
長身の筋肉質のがっちりした体型。日焼けした浅黒い肌に、精悍な顔つき。髪の毛を短く刈り込んでいる。
だ、誰だろう。もしかして、あれがお姉ちゃんの彼氏さん?
「どうしたの、津田さん?」
篠原くんも、わたしの頭上からドアの隙間を覗いた。
「おねえさんの、彼氏さん?」
「たぶん……」
お姉ちゃんが彼氏さんを連れてきたの、初めてだ。
「挨拶しないの?」
「うーん……」
初めて会った人だし、なんだか大きくて怖そうな感じ。しかも、あの口達者で性格がキツイお姉ちゃんの彼氏だ。普通の人ではないんじゃないだろうか。
悩んでいるうちに、お姉ちゃんたちの姿が見えなくなってしまった。リビングへ行ったのだろう。あの人も、今夜一緒に夕食を食べるのかな。
「俺、挨拶してくるよ」
「えぇっ! ま、待ってくださいよぅ」
後になって一人で声をかけるのも気まずいと、わたしは慌てて篠原くんの後を追った。
リビングでは、お姉ちゃんがお母さんに、見知らぬおにいさんを紹介していた。
「来た来た。成海、咲乃くん! こちら、山田優斗くん」
なるべく目立たないよう篠原くんの後ろにかくれていたのに、お母さんはすぐにわたしを見つけると、こっちへ来いと手を振った。わたしは、おずおずとおにいさんの前に立った。
「はじめまして。きみが郁海の妹の?」
「……な、成海です……」
人見知りモード発動。おにいさんの顔がまともに見れないまま頭を下げる。
「たしか、中学2年生だっけ。きみは?」
「津田さんの友達の、篠原咲乃です」
「篠原くん、よろしくな」
篠原くんとおにいさんが握手を交わす。一通り挨拶が済むと、お母さんは切り替えるように手を叩いた。
「さ、夕食の支度しちゃいましょうか。今夜はしゃぶしゃぶよ~」
*
ひさしぶりのしゃぶしゃぶは、仕事から帰ってきたお父さんも入れた6人で行われた。いつもは安い豚しゃぶなのに、今日はちょっと値段の高い牛肉を使用している。お母さん、男の子がたくさん来ているからって奮発し過ぎじゃないだろうか。
お父さんはすっかりお姉ちゃんの彼氏さんが気に入ったようだ。おにいさんの部活が野球部だと知ってから、ずっと野球の話をしている。どうやら、お姉ちゃんの彼氏として正式に認められたらしい。
人見知りモードが発動しているわたしは、何もしゃべらず黙々としゃぶしゃぶを楽しむことに集中していた。鍋の中で大切に育てたお肉をゴマダレで食べる。口に入れた瞬間、牛肉がほろりと溶けてしまった。
ほふほふ……おにふ(お肉)、ふぁいふぉー(最高)!
「津田さん、さっきからお肉ばかり食べてる。ちゃんと野菜も食べなきゃだめ」
久しぶりのしゃぶしゃぶにほっぺを緩ませていると、篠原くんが横からわたしの器に野菜を盛り付けはじめた。
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ! 自分のペースで食べてるんです。余計なお世話はいりません!」
「だめ。食事はバランスよくとらないと。さっきから全く野菜に手を付けてないよ。シイタケも食べようね」
「やめてくださいよ! シイタケ嫌いなのに!!」
わたしの器にどんどん乗っかって、彩り豊かな野菜たちが山になっている。もうお肉を乗せる余裕がないじゃないか。
「咲乃くんの言う通りよ。成海は好きなものしか食べないんだから。ちゃんと好き嫌いせず野菜も食べなさい。咲乃くんは、お肉たくさん食べてねー」
そう言って篠原くんの器にお肉を取り分けている。お母さんは篠原くんに甘すぎるよ!
「あっ、それわたしのお肉!!」
気付いたら、わたしが大切に育てていたお肉をお姉ちゃんにさらわれてしまった。隣に座るおにいさんの器に入れている。
「アンタ、さっきから肉独り占めし過ぎ。少しは他の人のことも考えなさい」
「ごめんな、成海ちゃん」
うぅ……。わたしのお肉が……。
わたしは悔しさを殺して、がじがじ白菜の芯を食《は》んだ。
「津田さん、人参もいい頃合いだよ。人参も食べようね」
お願いだから、自分のペースで食べさせて!!!
*
初めて彼を目にした時、読んでいた恋愛小説のヒーローが現実に現れたのだと思った。
日に当たるときらきら輝く茶色い髪色と、白く滑らかな肌。色づきの良い唇に、背の高い細身の体躯。印象的なのはその目だった。前髪の下に切れ長の目。全身から清涼な空気と清廉さを纏っているのに、瞳だけは暗澹とした鈍い光を宿している。
一目見て、何処かへ消えてしまいそうだと思った。私はその不思議な空気を纏った彼に目を奪われて、周囲の雑音が聞こえなくなってしまった。
黒板の前に立ち担任に自己紹介を促されると、彼は涼やかな優しい声で言った。
「――から来ました、篠原咲乃です。よろしくお願いします」
それだけが、はっきりと私の耳へ届いた。
学校は唐突に現れた転校生に騒ぎになり、一目見たいと教室に生徒たちが詰めかけた。クラスメイトの女子からは、遠巻きに浮ついた視線で見られ、男子からは警戒されて、彼は独りで過ごすことが多くなった。
窓際の席で本を読み、時々ぼんやりと何かを考えている。瞳はいつも暗い光に揺らめいていて、目を離せば日差しの中に溶けてしまうのではと思われるほど、存在がかすんで朧気だった。いつも孤独に過ごす転校生を、私は声もかけられず、ただひたすら目で追う事しかできなかった。声をかける勇気はなかったし、当時の彼は近寄り難い静謐な雰囲気があった。
教室の誰もが、彼を遠目から窺いみることが多い中で、神谷くんだけは違った。持ち前の明るさで、事あるごとに彼に構って歩くようになったのだ。
初めは愛想良く曖昧に笑っていただけの彼が、次第に迷惑そうに表情を変えるようになった。冷たくあしらう彼が新鮮で、嫌な物は嫌だと主張する姿に子供らしさを感じた。いつの間にか暗澹とした瞳の中に、血の通った光が指したのを私は見ていた。
迷惑そうに神谷くんをあしらいながらも、友達思いで見捨てない人なのだと分かった。
冷たい印象が強かったのに、意外にも暖かい人なのだと分かった。
真面目に勉強に取り組む姿も見ていた。
儚げな印象だったから、運動神経が良いのも意外だった。
普通の男の子の様に笑っているときは可愛いと思った。
意外にも心配症で、神谷くんがジュースばかり飲んでいるのを注意しているのが可笑しかった。
色んな彼を見ているうちに、自分の心までもそれに合わせて喜んだり哀しんだりしているのに気づいた。それが恋だと分かるのに、時間はかからなかった。
ある日の昼休みだった。廊下を歩いていると、突然、教室から男の子が飛び出してきた。
男の子はぶつかる寸前でくるりと体制を整えると「わりぃ!」と一言告げて走り去っていった。私は尻餅をついたまま、呆然と走り去った男の子――、神谷くんの後姿を見送った。
続いて教室から飛び出してきたのは篠原くんだった。
「逃げ足が速いな」
篠原くんは小さく呟くと、尻餅をついた私に気づいて手を差し伸べた。
「ごめんね、大丈夫?」
神谷くんが飛び出してきたのもびっくりしていたけれど、彼が私に手を差し伸べていることにはもっと驚いていた。固まっている私に、彼は申し訳なさそうな顔をした。
「突然、神谷が飛び出してきて驚いたよね。どこか怪我はない?」
「え、あっ、いえ、その……」
篠原くんに話しかけられて、私はますます頭の中が真っ白になっていた。もともと突発的な事への対応が苦手だ。何も答えられない私の手を、彼の滑らかな手が私の掌を包み込んだ。え、と驚いているすきに軽やかに引っ張り上げられ、いつの間にか立ち上がっていた。
「これって?」
私は慌てて彼の手を振り払うと、小指を隠すように手を握った。
「失礼しました!」
頭を下げて、逃げるように駆けだした。柱の陰に隠れて、息を整える。恥ずかしさのあまり顔中が熱くなっていた。右手で握りしめていた、左手の小指をそっと開く。
彼が、この小指に巻かれたものの意味を知らなくて良かった。“これ”には、私の恋心が込められているのだから。
運命の赤い糸を模した恋のおまじない。赤い糸を左手の小指に巻き、相手を想い、3日間願い続ける。この糸の先が彼の指に続いていることをイメージしながら。すると3日後、赤い糸が彼との仲を引き寄せるという。小学生の頃、読んだ本に書かれていたおまじない。
たまたま、今日がその3日後だった。一瞬だったけど、初めて彼と話せた。本当に、小さな奇跡が起きた。この赤い糸が、私の願いを届けてくれたのだろうか。
彼の手の温もりが、まだ私の手の中に残っている。私は、小指を包み込んで祈った。
弱虫で臆病な私の恋心が、あなたに届きますように――。
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