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第四話 信じるより信じたい

どっちも俺を考えてのこと

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「そんなこと言われても……俺、一応ケイロの嫁だから、俺だけで決められないから。アイツにも関係あるんだし、まずは相談を――」

『婚姻が足枷となっておるのか? ならば解放しよう』

「へ? ……うわっ、まぶし……っ」

 突然俺の左手から閃光が走り、思わず目を硬く閉じてしまう。


 そして光が消えてまぶたを開けば――左の薬指にあった婚姻の証が消えていた。


『さあ太智よ、これで障害はなくなった。我に力を貸してはくれぬか?』

「ゆ、指輪が……まさか、これ、離婚成立……?」

『うむ。全精霊の承諾を得て交わされる婚姻は、全精霊が認めれば破棄が叶う。本来は各地にある精霊を奉る神殿へ出向き、報告する儀式を得て叶うことだが、今は太智に自由を与えることが精霊の総意……離縁しても一度身に宿した王族の精は残り、その力は消えん。もう一王族のみに縛られぬ』

 俺はただの左手に戻ってしまった現実を、呆然と眺めてしまう。

 強引に結婚させられて、離婚するためにケイロたちを手伝っていたのに……指輪が消えた左手が軽くてたまらない。

 最初は心から望んでいたこと。でも、今は胸が激しく痛んで泣きそうになっている。

『……どうした? これが望みではなかったのか? 精霊たちから、離縁のためにケイロ王子に協力していると聞いていたのだが――』

「太智っ!!」

 鳥居から名前を呼ばれて俺は振り返る。
 そこにはいつになく必死な形相のケイロが白銀の剣を持ち、アシュナムさんとソーアさんを引き連れて駆けてくる姿があった。

 真っすぐに俺へ駆け付けようとしたケイロの前に、いつの間にか剣を手にしたマイラットが立ちはだかる。

「殿下には申し訳ないが、太智様をお渡しする訳にはいきません」

「退け、裏切り者! 俺たちの都合に太智を巻き込むな! 散々俺たちから姿を消し、不意をついて襲い、尻尾を掴ませなかったのに……太智が俺の弱みになると知って行動に出たのか? いつからそんな卑怯者に成り下がった、マイラット!」

「なんとでも言えばよろしい……私は主をお救いし、国の危機を回避するまで、この剣を下ろすことはできません。太智様は我らが希望……殿下の身勝手に付き合わされる枷を外した今、二度と太智様を縛り付ける真似はさせません!」

 ケイロが痛みを受けたように顔をしかめる。そして俺を見やってから剣を構えた。

「指輪はなくとも、俺は太智を手放す気はない……狙いは何か知らんが、太智と輝石を返してもらうぞ!」

 言うなりケイロがマイラットへ剣を突き出す。

 ――キィンッ!
 咄嗟にマイラットが刃を弾き、すぐに反撃へと移る。

 生の決闘。しかも、どっちも俺を考えてのこと。
 思わず立ち尽くす俺の腕を悠が「太智、離れるよ!」と引っ張り、二人の戦闘から遠ざけてくれた。
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