62 / 66
第四話 信じるより信じたい
どっちも俺を考えてのこと
しおりを挟む
「そんなこと言われても……俺、一応ケイロの嫁だから、俺だけで決められないから。アイツにも関係あるんだし、まずは相談を――」
『婚姻が足枷となっておるのか? ならば解放しよう』
「へ? ……うわっ、まぶし……っ」
突然俺の左手から閃光が走り、思わず目を硬く閉じてしまう。
そして光が消えてまぶたを開けば――左の薬指にあった婚姻の証が消えていた。
『さあ太智よ、これで障害はなくなった。我に力を貸してはくれぬか?』
「ゆ、指輪が……まさか、これ、離婚成立……?」
『うむ。全精霊の承諾を得て交わされる婚姻は、全精霊が認めれば破棄が叶う。本来は各地にある精霊を奉る神殿へ出向き、報告する儀式を得て叶うことだが、今は太智に自由を与えることが精霊の総意……離縁しても一度身に宿した王族の精は残り、その力は消えん。もう一王族のみに縛られぬ』
俺はただの左手に戻ってしまった現実を、呆然と眺めてしまう。
強引に結婚させられて、離婚するためにケイロたちを手伝っていたのに……指輪が消えた左手が軽くてたまらない。
最初は心から望んでいたこと。でも、今は胸が激しく痛んで泣きそうになっている。
『……どうした? これが望みではなかったのか? 精霊たちから、離縁のためにケイロ王子に協力していると聞いていたのだが――』
「太智っ!!」
鳥居から名前を呼ばれて俺は振り返る。
そこにはいつになく必死な形相のケイロが白銀の剣を持ち、アシュナムさんとソーアさんを引き連れて駆けてくる姿があった。
真っすぐに俺へ駆け付けようとしたケイロの前に、いつの間にか剣を手にしたマイラットが立ちはだかる。
「殿下には申し訳ないが、太智様をお渡しする訳にはいきません」
「退け、裏切り者! 俺たちの都合に太智を巻き込むな! 散々俺たちから姿を消し、不意をついて襲い、尻尾を掴ませなかったのに……太智が俺の弱みになると知って行動に出たのか? いつからそんな卑怯者に成り下がった、マイラット!」
「なんとでも言えばよろしい……私は主をお救いし、国の危機を回避するまで、この剣を下ろすことはできません。太智様は我らが希望……殿下の身勝手に付き合わされる枷を外した今、二度と太智様を縛り付ける真似はさせません!」
ケイロが痛みを受けたように顔をしかめる。そして俺を見やってから剣を構えた。
「指輪はなくとも、俺は太智を手放す気はない……狙いは何か知らんが、太智と輝石を返してもらうぞ!」
言うなりケイロがマイラットへ剣を突き出す。
――キィンッ!
咄嗟にマイラットが刃を弾き、すぐに反撃へと移る。
生の決闘。しかも、どっちも俺を考えてのこと。
思わず立ち尽くす俺の腕を悠が「太智、離れるよ!」と引っ張り、二人の戦闘から遠ざけてくれた。
『婚姻が足枷となっておるのか? ならば解放しよう』
「へ? ……うわっ、まぶし……っ」
突然俺の左手から閃光が走り、思わず目を硬く閉じてしまう。
そして光が消えてまぶたを開けば――左の薬指にあった婚姻の証が消えていた。
『さあ太智よ、これで障害はなくなった。我に力を貸してはくれぬか?』
「ゆ、指輪が……まさか、これ、離婚成立……?」
『うむ。全精霊の承諾を得て交わされる婚姻は、全精霊が認めれば破棄が叶う。本来は各地にある精霊を奉る神殿へ出向き、報告する儀式を得て叶うことだが、今は太智に自由を与えることが精霊の総意……離縁しても一度身に宿した王族の精は残り、その力は消えん。もう一王族のみに縛られぬ』
俺はただの左手に戻ってしまった現実を、呆然と眺めてしまう。
強引に結婚させられて、離婚するためにケイロたちを手伝っていたのに……指輪が消えた左手が軽くてたまらない。
最初は心から望んでいたこと。でも、今は胸が激しく痛んで泣きそうになっている。
『……どうした? これが望みではなかったのか? 精霊たちから、離縁のためにケイロ王子に協力していると聞いていたのだが――』
「太智っ!!」
鳥居から名前を呼ばれて俺は振り返る。
そこにはいつになく必死な形相のケイロが白銀の剣を持ち、アシュナムさんとソーアさんを引き連れて駆けてくる姿があった。
真っすぐに俺へ駆け付けようとしたケイロの前に、いつの間にか剣を手にしたマイラットが立ちはだかる。
「殿下には申し訳ないが、太智様をお渡しする訳にはいきません」
「退け、裏切り者! 俺たちの都合に太智を巻き込むな! 散々俺たちから姿を消し、不意をついて襲い、尻尾を掴ませなかったのに……太智が俺の弱みになると知って行動に出たのか? いつからそんな卑怯者に成り下がった、マイラット!」
「なんとでも言えばよろしい……私は主をお救いし、国の危機を回避するまで、この剣を下ろすことはできません。太智様は我らが希望……殿下の身勝手に付き合わされる枷を外した今、二度と太智様を縛り付ける真似はさせません!」
ケイロが痛みを受けたように顔をしかめる。そして俺を見やってから剣を構えた。
「指輪はなくとも、俺は太智を手放す気はない……狙いは何か知らんが、太智と輝石を返してもらうぞ!」
言うなりケイロがマイラットへ剣を突き出す。
――キィンッ!
咄嗟にマイラットが刃を弾き、すぐに反撃へと移る。
生の決闘。しかも、どっちも俺を考えてのこと。
思わず立ち尽くす俺の腕を悠が「太智、離れるよ!」と引っ張り、二人の戦闘から遠ざけてくれた。
0
お気に入りに追加
341
あなたにおすすめの小説
そこにワナがあればハマるのが礼儀でしょ!~ビッチ勇者とガチムチ戦士のエロ冒険譚~
天岸 あおい
BL
ビッチ勇者がワザと魔物に捕まってエッチされたがるので、頑張って戦士が庇って大変な目にあうエロコメディ。
※ビッチ勇者×ガチムチ戦士。同じ村に住んでいた幼馴染コンビ。
※魔物×戦士の描写も多め。戦士がエロい災難に遭いまくるお話。
※エッチな描写ありの話は話タイトルの前に印が入ります。勇者×戦士『○』。魔物×戦士『▼』。また勇者視点の時は『※』が入ります。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【完結】A市男性誘拐監禁事件
若目
BL
1月某日19時頃、18歳の男性が行方不明になった。
男性は自宅から1.5㎞離れた場所に住む40歳の会社員の男に誘拐、監禁されていたのだ。
しかし、おかしな点が多々あった。
男性は逃げる機会はあったのに、まるで逃げなかったばかりか、犯人と買い物に行ったり犯人の食事を作るなどして徹底的に尽くし、逮捕時には減刑を求めた。
男性は犯人と共に過ごすうち、犯人に同情、共感するようになっていたのだ。
しかし、それは男性に限ったことでなかった…
誘拐犯×被害者のラブストーリーです。
性描写、性的な描写には※つけてます
作品内の描写には犯罪行為を推奨、賛美する意図はございません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる