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五章 嫌われ将軍、ママになる
祈願と家族の誓い
しおりを挟む生活に必要な道具や食料を買い込み、愛馬たちに取り付けた荷台に乗せると、ガイたちは町の中心地から離れようとした。
しかし途中でガイが足を止める。
すぐに気づいたエリクも足を止め、ガイに振り向いた。
「ガイ様、どうされましたか?」
「ああ……ここに立ち寄っておこうかと思って」
隣に建つ建物を見上げながらガイが答える。
ガイの視線の先にあるものは、人々が神への祈りを捧げる神殿だった。
奉っている神が何なのかは知らない。ただこの地の神に祈りたいことがあった。
「きっと問題なく生まれてくると思うが、万が一何が起きるか分からない。だからこの子の無事を祈願したくて、な」
人の目につかぬよう、ガイは懐に卵がある辺りに手を当て、フッと笑う。
エリクが大きく頷き、「ええ! ぜひ参りましょう」と素早く馬たちを道の脇に生えている木に手綱を括り、神殿に足先を向けた。
白磁の柱が整然と並ぶ中を進んでいくと、雄々しい男神の像が現れる。
その前に歩み寄ると、ガイとエリクは跪き、手を組んで祈りを捧げた。
ガイが心の中で卵の無事を願って顔を上げると、エリクがまだ祈りを終えておらず、ジッと見つめてしまう。
ギュッと固く目を閉じたその顔から、真剣に何かを祈っている気配を察する。
祈り終えるのを待っていると、エリクが視線に気づいてガイを見た。
「すみません、お待たせしてしまって……」
「何をそんなに必死に祈っているのだ?」
「こちらに住まうので、挨拶を……それとガイ様と家族になる報告をしておりました」
「……子竜が大きくなるまでの臨時だぞ?」
「臨時でも、その間は家族ですよ」
家族――その言葉を聞くと、ガイの背が落ち着かなくなる。
戦い続け、誰も自分に近づかない中、一番縁遠いものだとばかり思っていた。
一時のものでも、まさか自分が家族を得る日が来るとは――。
「ガイ様……っ!?」
エリクの声でガイがハッとなる。
いつの間にか頬が濡れ、視界がぼやけていた。
「いや、家族が嫌という訳ではなく、嬉しいんだ……仮初めでも、俺が家族を持てるなんて――」
不意にエリクがガイの涙を拭う。
そしてガイの手を両手で取り、己の額につけた。
「せっかくですから、家族になる祈りを捧げて、本当の繋がりを作りましょうか」
「エリク……?」
「健やかなる時も、病める時も、いかなる時もガイ様を敬い、慈しみ、愛することを私は誓います」
……それは婚姻の儀の誓いじゃないか。
神の前でなんてことを誓っているんだと言いたいのに、ガイは口をわずかに開け、エリクを見つめるしかできなかった。
そしてエリクが唇を重ねてくる。
片方だけの誓いに、何も異論を唱えず口づけを交わす――無言の宣誓をしてしまったことに気づいた時、ガイの顔は熱で溢れ返っていた。
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