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白毛のヨンム

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「人間がいるなんて珍しいな。いったいどれだけ居られるやら」

「……あの、どういうこと?」

「俺らの王様、苛めるの大好きなんだよ。だからここに誰か入ってもすぐにいなくなっちゃうんだ。見たことないけど、どんな美女も数日経たずにやつれて、体がもたないって泣き出して逃げちゃうらしいよ」

 ああ、やっぱり訳ありだったのね。
 この子の話を真に受けると……陛下のお相手をするのは、すごく大変だってことは分かる。しかも獣人は女性でも私たちよりも体力があって丈夫だと聞いたことがある。

 そんな獣人の女性たちでも泣き出して逃げ出すほど。私にお相手が務まるはずがないわ……ああ、夜が怖い。

 人気のない後宮の理由に納得し、次は我が身と内心震えながらも、私は彼に微笑む。

「私はサティア。貴方のお名前は?」

「……ヨンム」

「ここにいるってことは、貴方は王族なのかしら? もしかして王子様?」

「違うよ。ここの壁に町と繋がっている秘密の抜け穴があるんだ。そこから遊びに来ているんだよ。だって誰も来ないし。昼寝にはうってつけ」

 そう言ってヨンムは屋根から飛び降り、私の前へ立つ。

「良かったらサティアの歌、聴かせてくれない? 俺、すごく気に入った」

「いいわよ。私も誰かに聴いてもらえると嬉しいから」

 私は姿勢を正し、歌の続きを声高に歌う。

 歌より動くほうが好きそうなヨンム。すぐ飽きると思っていたのに、彼はその場に座って大人しく歌を聴いてくれた。

 気が向くまま歌い続けて、ゆっくりと終わりを迎える。
 ヨンムは白い尻尾をパタパタと振りながら、私に瞳を輝かせた。

「すごいなあサティア! また明日も聴かせてくれる?」

「ええ、もちろん。来てくれると嬉しいわ」

「約束だぞ! じゃあ俺、仕事に戻らないといけないから。また明日な!」

 尻尾と同じように手を大きく振りながら、ヨンムが草木が茂った所へ姿を消していく。

 ――彼に続けば、ここから出られる。
 一瞬そんな考えが浮かんだけれど、私は首を横に振った。

「しばらく様子を見ないと……私が勝手にいなくなったら、ラービーさんや抜け道を使っていたヨンムが酷いことされそうだものね。それに――」

 息をついてから、私はさっきまでヨンムが座っていた所を見つめる。

「歌う約束をしたからには、ちゃんと応えないと」

 口元が綻んでいく。

 人生最後の歌になっても聴衆がいてくれる。
 その確約が取れたようで、私は機嫌よく新たな歌を生み出し始めた。
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