上 下
13 / 79
二章 『好き』は一日一回まで

目立つ買い物

しおりを挟む
   ◇ ◇ ◇

 午後三時を過ぎて俺は仕事を終え、帰宅の途中にスーパーへ寄っていく。
 当然ライナスも一緒だ。一九〇越えの金髪の異邦人がニコニコとしながら、俺の隣を歩く――田舎のスーパーではよく目立つ。

 店員も客も、何食わぬ顔をしながら俺たちを窺う気配が伝わってくる。落ち着かない。しかし気にするだけ余計酷くなる。だから鈍いフリをしてやり過ごすしかないというのに、わざとなのか分かっていないのか、ライナスは普段通りの態度で俺に話しかけてくる。

「今日、ワタシが料理作ります! カツミさん、好きな物はありますか?」

「……俺が作る。しばらく手を労え」

 厳しく突き放すにしても、さすがに指先が絆創膏だらけのヤツに料理を作らせるのは気が引ける。

 一人の時と同じように、俺は野菜炒めや鍋を作る気でキャベツや長ネギなどをカゴに入れていく。あると便利な玉子は二パック。非常食用の冷凍食品や食パンも購入しておく。

 レジへ行く前、ふとライナスへ尋ねかけて俺は口を閉ざす。

『何か食べたいものはあるか?』

 追い出すつもりでいるのに、居心地を良くするようなことを言ってどうする。半端に優しくするだけ、ライナスが俺の所から出て行く判断を鈍らせるだけだ。ましてや恋愛対象として見ているなら尚更だ。

 情けは無用。それがライナスのためになる。なるべく距離を縮めないようにしようと考えていると、商品をレジに通した後、ライナスが買い物袋を持ち上げた。

「おい、手を労えと――」

「指先は使っていないので大丈夫です。少しでもシショーの役に立ちたいです」

 ライナスが朗らかに笑う。顔が無駄に良過ぎて眩しい。周りにいる主婦たちから感嘆のため息が聞こえてくる。

 明るくて顔が良くて根性あり。モテるだろう。男女問わずで選びたい放題だろ。なぜ俺を選ぶ? ライナスの好みが残念だ。

 内心ざわつきを覚えながら、俺は「痛くないなら頼む」と言って店を出た。



 夕食は言った通り、俺が作った。キャベツともやしと長ネギ、豚バラ肉を使った野菜炒め。インスタントの味噌汁。近所の米屋で買った今年の新米。

 適当に作った日常の食事。それを居間のこたつテーブルに並べれば、ライナスが表情を輝かせた。

「美味しそうです! カツミさんの料理、嬉しいです」

「大したものじゃない。まあ食え」

 俺に促され、ライナスは手を合わせて「いただきます」と口にしてから料理を食べる。ひと口ひと口、心から美味しそうに食すライナスを見ていると、今日の料理は会心の出来だったのかと思いそうになる。

 だが、いざ口に入れてみれば俺の日常の味。不味くはないが、口にする度に歓喜するほど美味な訳じゃない。食事が進むほどに疑問が膨らんで、思わず俺はライナスに尋ねてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...