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十三話 裏切りの常習犯
本気でぶつかり合ったら
しおりを挟むより広くなった大広間での宴は、賑わいだけでなく華やかさが加わった。
中央を取り囲むようにして膳が並べられ、運ばれる料理や酒を堪能しながら、羽衣をまとった踊り子たちの舞を楽しむ――武将たちの笑い顔が絶えないことを見る限り、どうやら喜んでくれているようだ。
しかし、俺の隣で酒を嗜む華侯焔の顔だけは、やけに不服そうだった。
「どうした、焔? いつもは真っ先に酔って、場を騒がせているのに」
「だってなあ、俺は今回戦に参加してないから、いつもの褒美が貰えん。つまらんだろ」
「……後で俺の部屋に来るんじゃないのか?」
「行くに決まってるだろ。ただな、普通に構ってもらうのと、褒美として貰えるのはまた違うんだよ。やってやった、っていう達成感が違うというか――」
顔には出ていないだけで、華侯焔はもう酔っている。この手の話に遠慮がなくなるから困る。
ここまで規模が大きくなり、人も増えたおかげで、俺たちの会話は周りの耳には届かない。それはありがたいが、どうしても羞恥は覚えてしまう。
そろそろ俺に絡み出すだろうかと考えていると、
「誠人サマに絡まないで下さいー! この節操なし酔いどれ悪悪おっさんめー!」
ばいーん、と白鐸が華侯焔の背に体当りしてくる。
最初の手乗り毛玉から、タオル状の長毛玉に進化し、今は成人ほどの背丈なデカ毛玉。やることが今までと変わらなくても、威力は増している。
ウッ、と低い呻き声を上げてから、華侯焔は白鐸を睨みつけた。
「酔ってやがるな、デカ毛玉! よくもこの俺様をおっさん呼ばわりしたな? もう許さん。ちょっと外へ出ろ。一度俺が本気で駄目な毛玉を躾けてやる」
「望むところですー。ワタシの本気を見せてあげますよー!」
相変わらずの言い合い――と思っていたら、二人とも立ち上がって広間を出て行こうとしてしまう。
今までなら口論だけで済んでいた。それが実際に行動されてしまうと、間違いなく被害が出る。
最強の武将と神獣の真剣勝負。見たいような気もするが、犠牲者が出る前に止めるべきだ。
俺が腰を上げて止めようとした時、「誠人様」と近くに来ていた才明に呼れた。
「このままやらせましょう。案外と力をぶつけ合って、仲を深めてくれるかもしれませんし。絵草紙で見かけるような、河原で好敵手と殴り合った後に認め合う展開が期待できるかと思いますので」
才明が明らかに面白がっている顔をしている。しかも絵草紙……マンガのことを指しているのだろうか? そんなベタな展開が、あの二人に当てはまるのだろうかと思ってしまう。
余計に収拾がつかなくなるだけでは? と顔をしかめる俺に、才明がそっと耳打ちする。
「どうか本日はこのままお休み下さい。魔導士が手元にいる以上、何が起きるか分かりません。一度あちらの世界に戻り、これからの策を練りましょう」
「……ああ、分かった」
短く頷いてみせると、才明が後ろを振り向き、隅で酒も呑まずに正座していた英正に目配せする。この宴の中でまったく浮かれていない様が、実直で隙のない武人である侶普と重なる。
領主の間に向かうまでの護衛。俺の居城の中でも気を緩めることができないということを実感しながら、俺はその場を立った。
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