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十二話 真実に近づく時
澗宇との再会
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「こちらのほうこそ、わざわざ居城から出てくれた上に、侶普を案内に送ってくれて感謝する」
握手しながら礼を伝えると、穏やかに微笑んでいた澗宇の表情が引き締まる。
「今回の目的は、先に送られてきた書状で存じています。こんなに早く挑む日が来るとは思いませんでしたが……この澗宇、協力は惜しみません」
一位の志馬威に直接挑むのは俺だが、己も前線で戦うかのような気概を感じる。どれだけ東郷さんと真逆の身体であったとしても、心の在り方は似ているような気がした。
心強い味方。そしてゲームの真実の一端を知る者。
現実で東郷さんから言われたことを思い出し、俺は声を潜めて澗宇に告げる。
「澗宇、どうか真実を教えて欲しい。この世界の理不尽を止めるために、どうか――」
一瞬、澗宇の目が大きく見開かれる。そしてギュッと俺の手をさらに強く握った。
「分かりました……正攻法だけでなく、裏からも進めていくということですね」
しっかりと澗宇は頷くと、おもむろに華侯焔に視線を向けた。
「兄様、お元気そうで何よりです。誠人様に迷惑などかけておりませんでしたか?」
「ああ。誠人様の負担にならぬよう、大人しくしていたぞ。暴れるのは戦の時だけで――」
本当はいつだって好き勝手にしていたのだが……と俺が心の中で呟いていると、そっと潤宇の隣に白鐸が降り立った。
「ウソですから澗宇サマー。いっつも誠人サマを困らせて大変なんですー」
「おい、何を言い出しやがるデカ毛玉! 俺はちゃんと誠人様のために働いているだろうが」
華侯焔が文句を口にすると、いつもなら言い合いが始まる。しかし今の白鐸には強力過ぎる味方がいた。
「澗宇様、少々お耳をお借りします」
白鐸とは反対側に並んだ侶普が、澗宇の耳元に顔を寄せ、手を添えながら何かを伝える。声は聞こえなかったが、華侯焔のことを告げ口しているのは安易に想像できた。
澗宇の顔が次第ににっこりと絵に描いたような笑みを浮かべ、華侯焔へはっきりと告げた。
「まったく仕方のない人ですね、兄様は。これ以上誠人様を困らせる訳にはいきませんから、ちょっと僕と一緒に来て下さい。お説教です」
「か、澗宇、ちょっと話を聞いてくれ。俺の行動にはちゃんとした理由が――」
「言い訳は部屋で聞かせて頂きますから……誠人様、不肖の兄をお借りさせて頂きますね」
俺との握手を解き、澗宇は深々と頭を下げると、華侯焔の元へ真っ直ぐに向かう。そしてたじろぐ華侯焔をジッと見つめてから、袖を掴み、砦の中へと引っ張って行ってしまった。
去っていく二人を見送っていると、才明と英正がそれぞれ小さく吹き出す。
「誠人様の領土内だと無敵なのに、こちらでは澗宇様に敵わないとは。確かに勝手が過ぎる時がありますから、たまにはお灸を据えてもらったほうが良いかと……」
才明が口元に手を当てながら、意地悪げな押し殺した笑いを漏らす。
軍師である才明は、政も戦も頭を働かせて手を考えてくれている。その中で華侯焔の言動に振り回されているから、納得しているようでも不満を溜めていることもあるのだろう。
対して英正は苦笑しながらも、その目は心配げな色を覗かせていた。
「華侯焔様にも弱いものがあるのですね。でも、後から誠人様の負担が大きくなりそうな……」
「……それは覚悟している」
英正の心配に俺が諦めを零していると、侶普が俺たちの前に立ち臨んだ。
「お疲れのところ申し訳ないのですが、今から来て頂きたい所があります」
「こんな時間にどこへ?」
思わず尋ねた俺に対し、侶普はどこか腹を括ったような眼光を見せた。
「この世界の堺目に……真実の一端をお見せ致します」
握手しながら礼を伝えると、穏やかに微笑んでいた澗宇の表情が引き締まる。
「今回の目的は、先に送られてきた書状で存じています。こんなに早く挑む日が来るとは思いませんでしたが……この澗宇、協力は惜しみません」
一位の志馬威に直接挑むのは俺だが、己も前線で戦うかのような気概を感じる。どれだけ東郷さんと真逆の身体であったとしても、心の在り方は似ているような気がした。
心強い味方。そしてゲームの真実の一端を知る者。
現実で東郷さんから言われたことを思い出し、俺は声を潜めて澗宇に告げる。
「澗宇、どうか真実を教えて欲しい。この世界の理不尽を止めるために、どうか――」
一瞬、澗宇の目が大きく見開かれる。そしてギュッと俺の手をさらに強く握った。
「分かりました……正攻法だけでなく、裏からも進めていくということですね」
しっかりと澗宇は頷くと、おもむろに華侯焔に視線を向けた。
「兄様、お元気そうで何よりです。誠人様に迷惑などかけておりませんでしたか?」
「ああ。誠人様の負担にならぬよう、大人しくしていたぞ。暴れるのは戦の時だけで――」
本当はいつだって好き勝手にしていたのだが……と俺が心の中で呟いていると、そっと潤宇の隣に白鐸が降り立った。
「ウソですから澗宇サマー。いっつも誠人サマを困らせて大変なんですー」
「おい、何を言い出しやがるデカ毛玉! 俺はちゃんと誠人様のために働いているだろうが」
華侯焔が文句を口にすると、いつもなら言い合いが始まる。しかし今の白鐸には強力過ぎる味方がいた。
「澗宇様、少々お耳をお借りします」
白鐸とは反対側に並んだ侶普が、澗宇の耳元に顔を寄せ、手を添えながら何かを伝える。声は聞こえなかったが、華侯焔のことを告げ口しているのは安易に想像できた。
澗宇の顔が次第ににっこりと絵に描いたような笑みを浮かべ、華侯焔へはっきりと告げた。
「まったく仕方のない人ですね、兄様は。これ以上誠人様を困らせる訳にはいきませんから、ちょっと僕と一緒に来て下さい。お説教です」
「か、澗宇、ちょっと話を聞いてくれ。俺の行動にはちゃんとした理由が――」
「言い訳は部屋で聞かせて頂きますから……誠人様、不肖の兄をお借りさせて頂きますね」
俺との握手を解き、澗宇は深々と頭を下げると、華侯焔の元へ真っ直ぐに向かう。そしてたじろぐ華侯焔をジッと見つめてから、袖を掴み、砦の中へと引っ張って行ってしまった。
去っていく二人を見送っていると、才明と英正がそれぞれ小さく吹き出す。
「誠人様の領土内だと無敵なのに、こちらでは澗宇様に敵わないとは。確かに勝手が過ぎる時がありますから、たまにはお灸を据えてもらったほうが良いかと……」
才明が口元に手を当てながら、意地悪げな押し殺した笑いを漏らす。
軍師である才明は、政も戦も頭を働かせて手を考えてくれている。その中で華侯焔の言動に振り回されているから、納得しているようでも不満を溜めていることもあるのだろう。
対して英正は苦笑しながらも、その目は心配げな色を覗かせていた。
「華侯焔様にも弱いものがあるのですね。でも、後から誠人様の負担が大きくなりそうな……」
「……それは覚悟している」
英正の心配に俺が諦めを零していると、侶普が俺たちの前に立ち臨んだ。
「お疲れのところ申し訳ないのですが、今から来て頂きたい所があります」
「こんな時間にどこへ?」
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