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十一話 大きな前進
●シャワーの下で
しおりを挟む食事を終えて、俺たちは懇親会を早々に抜け出し、部屋に戻った。
そしてひとりになりたくて、俺は早々にバスルームに行き、シャワーを浴びる。
ザァァァァ……と湯に打たれながら考えてしまう。
頭の中で取り留めなく思考が働いてしまい、食事をしていても味がよく分からなかった。
現実の強さが反映される『至高英雄』。その一位が柳生田さんだということが、にわかに信じられない。
見たところ、体格は悪くない。しかし現役の選手に比べれば力はないだろう。ジムなどで鍛えていたとしても、東郷さんや他の選手よりも強さを感じない。
そんな人が一位でいられるということは、力以外に優れた要素があるのだろう。
知力、観察力、現実の経済力、人脈――社長だからこそ、人を集め、上手く使うことにも特化している。もしかすると会社の人間を誘い、強制的にゲームをやらせている気がする。
そして一位の人間はゲームを終わらせ、負けた人を解放できる権利を持っている。だが、柳生田さんはゲームを終わらせていない。
俺が倒すべき相手はあの人。
もしかすると同期の坪田が行方不明なことにも絡んでいるのでは?
一位の人間ならば多くのプレイヤーを負かし、従えているはず。自分の配下に何かの理由で坪田を捕らえたか、坪田が逃走しているか、あるいは……。
最悪の考えが頭に浮かび、俺は思わず首を横に振る。
俺をゲームに巻き込んだ張本人だが、生きて再会したい。なんてことに巻き込んでくれたんだと怒るのか、苦労を語って互いの無事を喜び合うのかは、再会しないと分からないが。
身体についた泡を洗い流し終えても、頭が働くままに考え込んでいると――。
「大丈夫か、正代君?」
背後から鮮明な声がして、思わず肩が跳ねる。
振り向けば何もまとっていない東郷さんが、少し心配げな顔で俺を見つめていた。
「あ……す、すみません。大丈夫です、考え事をしていただけなので……今、交代しますね」
慌ててシャワーを止めようとコックに手を伸ばした時。
東郷さんに手首を掴まれ、阻まれた。
背中に東郷さんの肌が密着し、熱が伝わってくる。
ドキリ、と心臓が大きく跳ね上がった後、勢いよく俺の胸を叩いてきた。
「このままでいい。こっちを向いてくれ……誠人」
東郷さんが耳元で俺の名を呼ぶ。
華侯焔が身体を重ねてくる時の声色、口調、吐息。低くて耳障りの良い響きに、耳から背筋が甘くざわめく。
硬い動きで振り向くと、降り注ぐシャワーで熱く濡れた唇に口付けられる。
目を閉じてしまえば、一瞬で現実とゲームの境目があやふやになる。それが怖くて、俺は薄く目を開き、東郷さんの顔を間近に見ながら舌を絡め合った。
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