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十話 至高への一歩

太史翔の処遇

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「太史翔、これは一騎打ちではないよな? ならば俺が参戦するのも許されるはずだ。違うか?」

 華侯焔は俺たちに歩み寄り、しゃがみ込んで太史翔の顔を覗き込む。剣を手にしたままで。

「ひぃ……っ」

「最初から狙いはこれだったんだろ? 一騎討ちで伏兵を潜ませて介入させれば、しばらく卑怯者の名が全土に広がるが、今さらこの世界で悪名なんざ振り撒いたところで痛くも痒くもないからなあ」

 口端は愉快げに引き上がっているが、華侯焔の目は一切笑っていない。

 純粋な怒りの気配に俺の心臓がギュッと縮み上がる。
 それでも俺は手を伸ばし、華侯焔を制した。

「華侯焔、それぐらいにしてくれ。早く戦いを終わらせたい」

 俺の頼みに、華侯焔の目がふっと和らぐ。
 どこか嬉しげでもあり、遠くを見ているような眼差しにも見えた。

「いたずらに兵を減らす訳にはいかないからな。そのために一騎討ちをしたっていうのもあるんだろ?」

 華侯焔の言葉に、今度は俺の目から力抜ける。

 己が強くなるために戦いたかったというのもあるが、戦で兵たちを疲弊させたくない思いもあった。

 いくらゲームで作られた者たちであっても、やはり命を散らしてしまうのは胸が痛む。ただ数字が上下するだけの、デジタルなものだとは考えたくない。

 思いを汲み取ってくれる華侯焔に心が浮かれそうになるが、小さく頭を振って気を引き締める。

 わずかに太史翔がうめいた後、掠れた声で呟いた。

「……降参する。俺の負けでいい」

 視線を太史翔に戻せば、彼の天を仰ぐ目が視界に入ってくる。

 完全に諦めたような、瞳から光が消えた絶望の眼差し。
 なのに顔は弛緩し、力なくも笑みを浮かべていた。

 敗者は奴隷となる。我が身の行く末を思って悲観しているのだろう。それと同時に、ずっと背負い続けた重荷が消えたという安堵感もあるのかもしれない。

 負けが許されないという重圧感は、心の安寧を常に奪ってくる。
 この『至高英雄』のプレイヤーになって初めて、この感覚を知った。

 きっと東郷さんは何年もこの重圧を抱え、勝ち続けているのだろう。
 何も知らなかった我が身の未熟さを噛み締めながら、俺は太史翔に告げる。

「先に伝えておくが、俺は貴方に何もしない。しかし放置して再興されるのは困る。だから食客として俺の領土内で過ごして欲しい」

「食客だと? 奴隷にはしないのか!?」

「俺は負けた人たちを解放するために、この世界で覇者を目指している。すぐには自由にできないが――太史翔?」

 俺の話を聞く内に、太史翔が己の目元を押さえ、かすかな嗚咽を漏らした。



 こうして俺は太史翔が得ていたものをすべて手にし、領土を広げることができた。

 予定では太史翔を攻め滅ぼした後、残党を攻略して領土を得ていく予定だったが、その手間が省けて良かったと思う。

 戦は終わった。
 待っているのは、俺のために尽くしてくれた将たちへの褒美――。
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