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十話 至高への一歩
新しい武器の威力
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しばらくして才明が兵士たちに目配せすると、各々にコンパウンドボウの前に立って矢を手にする。
準備が整ったことを目視してから、才明は俺たちを見回しながら語りかけてきた。
「これより誠人様にこの新たな弓の威力をお見せしましょう。どうぞこちらへ」
手招きされて才明の隣へ行くと、斜面の下に広がる木々の隙間から、わずかながら街道が見える。
才明はそちらを指さし、わずかに首を捻って俺を見た。
「今からこの道に訓練のため、騎馬兵に見立てた木馬を通らせます。どうかその威力をご覧下さい」
「ああ、楽しみにしている」
俺が正直な気持ちを伝えると、才明は口端を引き上げて返事の代わりとする。見て驚いて下さいという心の声がしっかりと聞こえてくる。
ジッと枝葉の向こう側を凝視し――金属のきらめきが見えた瞬間、才明が右手を上げた。
「撃て!」
才明の合図と同時に、矢が一斉に放たれる。
ビュュウッッ!――風を切る音が速いのに、重い。
そして枝葉の妨害を受けても矢の軌跡は曲がることなく、ひたすら真っ直ぐに目標へと向かっていく。
――ガガガッ! 金属すら貫き、木の本体に深々と刺さった音。
才明は懐から単眼鏡を取り出して、街道で倒れているだろう成果を覗き込む。
すぐに小さく頷くと、俺に単眼鏡を差し出した。
「どうぞご覧下さい、誠人様」
促されるまま受け取って単眼鏡を覗けば、そこには鎧を着けられた木製の兵と馬が無残な姿になっていた。
すべての矢が矢尻を通り越して刺さっている。もしこれが本物の騎馬兵ならば即死は免れない。
鎧が意味をなさないとは……。
いくら味方の武器とはいえ、その威力に思わず背筋に悪寒が走ってしまう。
そんな俺とは裏腹に、才明は興奮気味に声を弾ませた。
「思った通りです! この世界で作ろうと思えば銃も作れますが、材料が限られる以上、最新のものは作れませんし、しっかり急所を狙わなければ傷を負わせるだけ……これなら遠距離でも確実に相手を仕留められます」
「容赦がないな、これは」
「領土内に常設するのは防衛の要ですからね。中途半端なものではいけません。主力が本城を留守にしている間に攻められても、返り討ちにできる力――最悪、城下町の非力な領民でも戦力に変えることができます」
才明は軍師だ。最悪を想定した上での発言なのは分かっている。
だが、その最悪を頭に思い浮かべてしまい、俺の腹に重みが溜まった。
「……そうならないよう、才明は手を打ってくれると信じている」
「もちろんです。領民を危険に晒す隙なんて、絶対に作りませんよ。だからこそこの武器が十分に準備できるまで、こちらからの侵攻は抑えていたのですから」
おもむろに才明が体の向きを変え、俺だけでなく華候焔や白澤も見交わす。
「次の戦は領主を狙いましょう。ここより一番近く、足場が崩れて隙だらけの太史翔を」
「おおっ、良いじゃねえか。喜んでやってやる」
大戦の提案に華候焔が満面の笑みを浮かべる。思い切り戦えることが心底嬉しいのだろう。
半面、俺は喜ぶことなどできなかった。
一つの可能性が頭に浮かんでしまい、むしろ嫌な汗が手の平にじっとりと滲む。
俺が生身ごとこっちの世界に来ているならば――ここで生きている人たちは作られたゲームのNPCではなく、この世界の生身の人間なのではないのか?
本当に俺はこの世界で、命のやり取りをしているのではないのか?
気づいてしまった可能性に、俺は小さく息を呑んだ。
準備が整ったことを目視してから、才明は俺たちを見回しながら語りかけてきた。
「これより誠人様にこの新たな弓の威力をお見せしましょう。どうぞこちらへ」
手招きされて才明の隣へ行くと、斜面の下に広がる木々の隙間から、わずかながら街道が見える。
才明はそちらを指さし、わずかに首を捻って俺を見た。
「今からこの道に訓練のため、騎馬兵に見立てた木馬を通らせます。どうかその威力をご覧下さい」
「ああ、楽しみにしている」
俺が正直な気持ちを伝えると、才明は口端を引き上げて返事の代わりとする。見て驚いて下さいという心の声がしっかりと聞こえてくる。
ジッと枝葉の向こう側を凝視し――金属のきらめきが見えた瞬間、才明が右手を上げた。
「撃て!」
才明の合図と同時に、矢が一斉に放たれる。
ビュュウッッ!――風を切る音が速いのに、重い。
そして枝葉の妨害を受けても矢の軌跡は曲がることなく、ひたすら真っ直ぐに目標へと向かっていく。
――ガガガッ! 金属すら貫き、木の本体に深々と刺さった音。
才明は懐から単眼鏡を取り出して、街道で倒れているだろう成果を覗き込む。
すぐに小さく頷くと、俺に単眼鏡を差し出した。
「どうぞご覧下さい、誠人様」
促されるまま受け取って単眼鏡を覗けば、そこには鎧を着けられた木製の兵と馬が無残な姿になっていた。
すべての矢が矢尻を通り越して刺さっている。もしこれが本物の騎馬兵ならば即死は免れない。
鎧が意味をなさないとは……。
いくら味方の武器とはいえ、その威力に思わず背筋に悪寒が走ってしまう。
そんな俺とは裏腹に、才明は興奮気味に声を弾ませた。
「思った通りです! この世界で作ろうと思えば銃も作れますが、材料が限られる以上、最新のものは作れませんし、しっかり急所を狙わなければ傷を負わせるだけ……これなら遠距離でも確実に相手を仕留められます」
「容赦がないな、これは」
「領土内に常設するのは防衛の要ですからね。中途半端なものではいけません。主力が本城を留守にしている間に攻められても、返り討ちにできる力――最悪、城下町の非力な領民でも戦力に変えることができます」
才明は軍師だ。最悪を想定した上での発言なのは分かっている。
だが、その最悪を頭に思い浮かべてしまい、俺の腹に重みが溜まった。
「……そうならないよう、才明は手を打ってくれると信じている」
「もちろんです。領民を危険に晒す隙なんて、絶対に作りませんよ。だからこそこの武器が十分に準備できるまで、こちらからの侵攻は抑えていたのですから」
おもむろに才明が体の向きを変え、俺だけでなく華候焔や白澤も見交わす。
「次の戦は領主を狙いましょう。ここより一番近く、足場が崩れて隙だらけの太史翔を」
「おおっ、良いじゃねえか。喜んでやってやる」
大戦の提案に華候焔が満面の笑みを浮かべる。思い切り戦えることが心底嬉しいのだろう。
半面、俺は喜ぶことなどできなかった。
一つの可能性が頭に浮かんでしまい、むしろ嫌な汗が手の平にじっとりと滲む。
俺が生身ごとこっちの世界に来ているならば――ここで生きている人たちは作られたゲームのNPCではなく、この世界の生身の人間なのではないのか?
本当に俺はこの世界で、命のやり取りをしているのではないのか?
気づいてしまった可能性に、俺は小さく息を呑んだ。
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