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四話 追い駆ける者、待つ者

才明の条件

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「条件……」

 莫大な褒賞を求められるのか? それともまさか、太史翔にしたような悪ふざけが過ぎる内容を言われるのか?

 読めない思惑に緊張を覚えていると、才明は顎をしゃくって華候焔を指した。

「この世界の全土に強さと名を轟かせる華候焔殿と、同じ報酬を頂きたく思います」

 ……華候焔と同じ報酬。

 まったく予想せず、一番困ってしまう条件。
 押し黙ってしまう俺を、華候焔が楽しそうに目を細めて見てくる。

 俺たちの空気がおかしいことをすぐに察した才明がきょとんとなった。

「えーっと確認したいのですが、誠人様は華候焔殿にどれだけの報酬を与えていらっしゃるのですか? 最強の武人を召し抱えるのですから、さぞ莫大な財を与えていらっしゃるかと――」

「まだ領土も拡大できていない領主に、そんな財があると思っているのか才明?」

「ああ……まあ現実的ではないですね。しかし見返りに魅力があるから、華候焔殿は誠人様に仕えていらっしゃるのですよね? いったい、どんな見返りを得ているのですか?」

「ウチは今のところ現物支給だ」

「……現物支給、ですか?」

「俺としては規模が大きくなった後でも、今のままで十分だ。それだけの価値がある」

「華候焔殿がそれほど夢中になる現物とは――」

 怪訝さと興味が隠せない才明の前で、おもむろに華候焔が俺の肩を抱き寄せてくる。

 そして――俺に深く唇を合わせて口付ける様を晒し、才明へ見せつけた。

「んン……っ、ん、ぅぅ……ッ……!」

 こんな時に何をしてくれるんだ華候焔!?
 慌てて逃れようとするが顎を掴まれてしまい、執拗な舌に口内を愛でられて何も考えられなくなってしまう。

 膝から力が抜けて崩れ落ちそうになり、俺は咄嗟に華候焔の胸元へ縋りつく。

 百聞は一見に如かず、というつもりなのか? やめてくれ。
 勘弁して欲しいと思っているのに体は疼いて悦び出してしまう。そんな有様に俺の理性が嘆き、情けなくも涙目になりかけてしまう。

 やっと唇を離した華候焔が、妖しく笑いながら才明に視線を流す。

「こういうことだ。誠人様が俺の褒美。だから期待したような財の褒美はない。だが見方を変えれば、これから財が増えていった時にお前の分け前は増えやすい。俺に回らない分だけ、十分な褒賞を貰えるようになるぞ」

「私を欺くための嘘、ではなさそうですね。なるほどなるほど……」

 華候焔の話に才明は小さく頷き、俺の全身をジロジロと眺めてくる。

 ――コクッ、と。腹を決めたのか、才明が大きく頷いた。

「前言撤回はしません。華候焔殿と同じ報酬を私に下さい」

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