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四話 追い駆ける者、待つ者
裏切り常習犯の策2
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俺は華候焔へ目を見張る。
今から俺が敵地へ乗り込み、裏切りをそそのかしに行くなんて。
しかも話を聞く限りは、才明は厄介なところがありそうな相手。そんな人間を迎えても大丈夫なのか? という危機感を覚えてしまう。
どう判断するべきかと俺が考える中、白澤が肩でしきりに跳ねた。
「誠人サマを直接向かわせるなんて、何考えているんですかー! はっ、まさか誠人サマを手土産に寝返る気ですかー!」
「いくら俺でも、そこまであからさまなことはせん。それに誠人様には今日の報酬をすでに頂いている……だからこうして勝ち筋を見出だせる手を提案しているんだ」
一瞬だけ、華候焔が熱のこもった視線を俺にぶつける。
中身は朝のあれだと理解している身としては、腰が落ち着かなくなる。
そして事後のやり取りを思い出し、顔に熱が集まってしまう。
華候焔は裏切りの常習犯。
あのやり取りを鵜呑みにしてはいけないのかもしれないが――。
「……将が一人抜けたところで、あまり戦況は変わらない気がするが、華候焔は利があると思うのか?」
俺の問に華候焔は力強く頷く。
「引き抜けば他の将の兵となるが、その移動や把握に時間がかかる。統制が取れていない隊は、大群であろうが力に欠ける。隙を突いて将を討てば、後は逃げ帰ってくれる」
「もし才明がこちらの誘いに乗らなかったら?」
「連れ帰って、頷くまで説得するまで。喜んで頷くよう、全力でもてなす所存」
ニヤリと華候焔が笑い、右手をワキワキと動かす。どうやら手酷く痛めつける意味でのもてなしらしい。
まともに戦えば勝ち目がないなら、奇策に出るしかない。
華候焔の提案に乗るしかないかと口を開きかけたその時、ずっと押し黙っていた英正が言葉を発した。
「わ、私は反対です! 領主様に万が一のことがあってはなりません。その策をされるならば、私が使者として向かいます」
「英正……」
よく見れば英正の手が震えている。捕まり、殺されることを覚悟しているのだろう。
彼の忠義は嬉しい。だが――。
俺は英正に顔を向け、静かに首を横に振る。
「気持ちはありがたいが、英正が向かえば十中八九殺されるだろう。才明に俺という領主を見定めさせて、自らこちらへ来てくれることが望ましいと思う」
悔しげに英正の顔が歪む、それとは反対に、華候焔は誇らしげに胸を張る。
「理解して頂きありがたい。して、どうなされる?」
「才明と会って引き抜こう。華候焔、俺と共に死地へ連れ立つことを許して欲しい」
「我が提案を汲んで頂き、心より嬉しく思う。必ずや目的を果たし、誠人様をこの地へ再びお連れすることを、この華候焔、約束致しましょうぞ」
華候焔を信じ切れるかと問われると、まだ頷けない。
だが華候焔は俺にこれができると踏んで提案している。
信用されているからこその案。
俺はそれに応えるために「これでいこう」と腹を決めた。
今から俺が敵地へ乗り込み、裏切りをそそのかしに行くなんて。
しかも話を聞く限りは、才明は厄介なところがありそうな相手。そんな人間を迎えても大丈夫なのか? という危機感を覚えてしまう。
どう判断するべきかと俺が考える中、白澤が肩でしきりに跳ねた。
「誠人サマを直接向かわせるなんて、何考えているんですかー! はっ、まさか誠人サマを手土産に寝返る気ですかー!」
「いくら俺でも、そこまであからさまなことはせん。それに誠人様には今日の報酬をすでに頂いている……だからこうして勝ち筋を見出だせる手を提案しているんだ」
一瞬だけ、華候焔が熱のこもった視線を俺にぶつける。
中身は朝のあれだと理解している身としては、腰が落ち着かなくなる。
そして事後のやり取りを思い出し、顔に熱が集まってしまう。
華候焔は裏切りの常習犯。
あのやり取りを鵜呑みにしてはいけないのかもしれないが――。
「……将が一人抜けたところで、あまり戦況は変わらない気がするが、華候焔は利があると思うのか?」
俺の問に華候焔は力強く頷く。
「引き抜けば他の将の兵となるが、その移動や把握に時間がかかる。統制が取れていない隊は、大群であろうが力に欠ける。隙を突いて将を討てば、後は逃げ帰ってくれる」
「もし才明がこちらの誘いに乗らなかったら?」
「連れ帰って、頷くまで説得するまで。喜んで頷くよう、全力でもてなす所存」
ニヤリと華候焔が笑い、右手をワキワキと動かす。どうやら手酷く痛めつける意味でのもてなしらしい。
まともに戦えば勝ち目がないなら、奇策に出るしかない。
華候焔の提案に乗るしかないかと口を開きかけたその時、ずっと押し黙っていた英正が言葉を発した。
「わ、私は反対です! 領主様に万が一のことがあってはなりません。その策をされるならば、私が使者として向かいます」
「英正……」
よく見れば英正の手が震えている。捕まり、殺されることを覚悟しているのだろう。
彼の忠義は嬉しい。だが――。
俺は英正に顔を向け、静かに首を横に振る。
「気持ちはありがたいが、英正が向かえば十中八九殺されるだろう。才明に俺という領主を見定めさせて、自らこちらへ来てくれることが望ましいと思う」
悔しげに英正の顔が歪む、それとは反対に、華候焔は誇らしげに胸を張る。
「理解して頂きありがたい。して、どうなされる?」
「才明と会って引き抜こう。華候焔、俺と共に死地へ連れ立つことを許して欲しい」
「我が提案を汲んで頂き、心より嬉しく思う。必ずや目的を果たし、誠人様をこの地へ再びお連れすることを、この華候焔、約束致しましょうぞ」
華候焔を信じ切れるかと問われると、まだ頷けない。
だが華候焔は俺にこれができると踏んで提案している。
信用されているからこその案。
俺はそれに応えるために「これでいこう」と腹を決めた。
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