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4 デイオフ
#2β
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T大裏門を警備している職員は荒くれ者が多い。発足当初は兎も角、現在では専門知識の多い所謂『院テリヤクザ』と呼ばれている集団や条約軍の帰還兵ばかりなのだ。
(またあの嬢ちゃん来てらァ。上からはあの子供は顔パスにしろって指示を受けてるんだよな……)
その日の彼女は同い年(友人か?)くらいの女の子と最新モデルのe-バイク、所謂電気自転車を引いて現れたのだった。
そして例のごとく警備員に挨拶しようと近づいてくるのだが突然、ガシャン!けたたましい音を立て彼女は2040年最新モデルの自転車を倒してしまった。その警備員はまだキャリアが浅い為、彼女の正体をよく知らなかった。
(うぐぅ!)
咄嗟に駆け寄った警備員を突然の目眩が襲った。警備員の顔目掛けてオソレが袖口から謎の赤い霧を吹き付けたのだ。赤い霧は神経ガスの一種だった。彼の意識が混濁し始める。
(……か……身体が全く動かねぇぞ……!おいアンタら何をする気…….)
そこで男の意識は完全に喪失した。
「無用心、無用心♪」
オソレが楽しそうに笑う。
「もし一緒に来なかったら、わたしにも使うつもりだった?その赤い煙」と、ワカが愚痴ると
「勿論ですわ!」とオソレは本当に楽しそうに応じる。
そして、だって……、と言葉を紡ぎかけ、気を取り直した
のか、さて……それじゃあ、始めましょうか、と何事も無かったかのようにそう告げるのだった。
オソレと倒れた男を交互に一瞥してからワカも「そうですね」と応じた。
二人とも表情を変えず淡々と作業を済ませていく。
T大の市民は一人に一つID番号が割り振られていて公共施設の利用や電子決済にも使えて結構便利なんですがこれが問題なんですわ。
「問題、とは?」ワカが訊ねると、「よく考えてみてください」とオソレ。
「あなた戸籍謄本はお持ちかしら? 」……ああなるほど。そういうこと。
「そう、T市の住民登録をしていない俗物は当然住民票もありませんし、納税も年金も医療保険も加入できないわけです。そしてID認証出来ない物体が平時にゲートを通過するとどうなると思いまして?」……そりゃあ鳴りますね、警報。
「警報だけではありません!おじいちゃんにバレてしまいますわ~」
(…んごご)
その時、意識を失っていた警備員が目を覚まそうとしていた。するとオソレがすかさず懐から取り出した鯨のマークが刻まれた金属製のカードを警備員の腕輪端末に翳す。軽い電子音と共に腕輪が警備員の腕から外れる。
これを着けろ……と?ワカが不思議そうな顔をすると。
「コレを着けないと、警備室へ連れていかれますわよ。そのあとは、わかりますでしょう?」
確かに、と納得しオソレから渡されたそれを、ワカはしぶしぶ腕に装着する。
「これは【WATCH】という機械ですわ、急に説明したくなったので移動がてら少し話をさせていただきますけど……」
それは腕時計型の情報端末で、使用目的は主に2つありますの。1つが先ほど言った身分証明とウォレット機能。もう1つが、これ、GPSによる位置特定機能ですわ。(なぜ、そんな機能を?)ええ、実は駆除作業中に行方不明になった職員を見つけるのに役に立つのですわ。
でも、まさか……、ワカが何か言いかけたところで、オソレは遮るように言葉を重ねる。
「えぇ、お察しの通り、今回みたいに、誰かが人為的に特定の職員を拉致して、監禁したりすれば、居場所が一発でわかってしまうんです。職員が行方不明になれば、自動的に捜索班が結成されますから。しかし逆に言えば……」
そこで、一旦言葉を区切るオソレ。
「登録情報を初期化してしまえば捜査対象から外れてしまうんですよ。……それに、この手合いの仕事に慣れている輩共にとって都合が良いことも沢山ありますからね。例えば……」
オソレはワカを連れ、ゲート脇、洗浄棟の通路を更衣室へ進んでいく。
途中ですれ違う人々の視線がちらちらとワカに注がれていることに気付きながらもオソレは気にせず歩を進める。
(もしかしてT大って警備態勢ガバガバの無能組織では?)
ある意味正解を言い当てたワカの問いに応じることなく
唐突に目を細めて無言で振り向いたオソレはワカの手を握りしめる。
「……ほら、着きましたわ」
そこには白地に黒い文字で味気なくロッカールーム、と表札がかかっていた。
「ところであなた……新型『スーツ』は初めてですか?」
オソレはそう言って微笑み、ドアノブに白い指をかけた。
(またあの嬢ちゃん来てらァ。上からはあの子供は顔パスにしろって指示を受けてるんだよな……)
その日の彼女は同い年(友人か?)くらいの女の子と最新モデルのe-バイク、所謂電気自転車を引いて現れたのだった。
そして例のごとく警備員に挨拶しようと近づいてくるのだが突然、ガシャン!けたたましい音を立て彼女は2040年最新モデルの自転車を倒してしまった。その警備員はまだキャリアが浅い為、彼女の正体をよく知らなかった。
(うぐぅ!)
咄嗟に駆け寄った警備員を突然の目眩が襲った。警備員の顔目掛けてオソレが袖口から謎の赤い霧を吹き付けたのだ。赤い霧は神経ガスの一種だった。彼の意識が混濁し始める。
(……か……身体が全く動かねぇぞ……!おいアンタら何をする気…….)
そこで男の意識は完全に喪失した。
「無用心、無用心♪」
オソレが楽しそうに笑う。
「もし一緒に来なかったら、わたしにも使うつもりだった?その赤い煙」と、ワカが愚痴ると
「勿論ですわ!」とオソレは本当に楽しそうに応じる。
そして、だって……、と言葉を紡ぎかけ、気を取り直した
のか、さて……それじゃあ、始めましょうか、と何事も無かったかのようにそう告げるのだった。
オソレと倒れた男を交互に一瞥してからワカも「そうですね」と応じた。
二人とも表情を変えず淡々と作業を済ませていく。
T大の市民は一人に一つID番号が割り振られていて公共施設の利用や電子決済にも使えて結構便利なんですがこれが問題なんですわ。
「問題、とは?」ワカが訊ねると、「よく考えてみてください」とオソレ。
「あなた戸籍謄本はお持ちかしら? 」……ああなるほど。そういうこと。
「そう、T市の住民登録をしていない俗物は当然住民票もありませんし、納税も年金も医療保険も加入できないわけです。そしてID認証出来ない物体が平時にゲートを通過するとどうなると思いまして?」……そりゃあ鳴りますね、警報。
「警報だけではありません!おじいちゃんにバレてしまいますわ~」
(…んごご)
その時、意識を失っていた警備員が目を覚まそうとしていた。するとオソレがすかさず懐から取り出した鯨のマークが刻まれた金属製のカードを警備員の腕輪端末に翳す。軽い電子音と共に腕輪が警備員の腕から外れる。
これを着けろ……と?ワカが不思議そうな顔をすると。
「コレを着けないと、警備室へ連れていかれますわよ。そのあとは、わかりますでしょう?」
確かに、と納得しオソレから渡されたそれを、ワカはしぶしぶ腕に装着する。
「これは【WATCH】という機械ですわ、急に説明したくなったので移動がてら少し話をさせていただきますけど……」
それは腕時計型の情報端末で、使用目的は主に2つありますの。1つが先ほど言った身分証明とウォレット機能。もう1つが、これ、GPSによる位置特定機能ですわ。(なぜ、そんな機能を?)ええ、実は駆除作業中に行方不明になった職員を見つけるのに役に立つのですわ。
でも、まさか……、ワカが何か言いかけたところで、オソレは遮るように言葉を重ねる。
「えぇ、お察しの通り、今回みたいに、誰かが人為的に特定の職員を拉致して、監禁したりすれば、居場所が一発でわかってしまうんです。職員が行方不明になれば、自動的に捜索班が結成されますから。しかし逆に言えば……」
そこで、一旦言葉を区切るオソレ。
「登録情報を初期化してしまえば捜査対象から外れてしまうんですよ。……それに、この手合いの仕事に慣れている輩共にとって都合が良いことも沢山ありますからね。例えば……」
オソレはワカを連れ、ゲート脇、洗浄棟の通路を更衣室へ進んでいく。
途中ですれ違う人々の視線がちらちらとワカに注がれていることに気付きながらもオソレは気にせず歩を進める。
(もしかしてT大って警備態勢ガバガバの無能組織では?)
ある意味正解を言い当てたワカの問いに応じることなく
唐突に目を細めて無言で振り向いたオソレはワカの手を握りしめる。
「……ほら、着きましたわ」
そこには白地に黒い文字で味気なくロッカールーム、と表札がかかっていた。
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