19 / 58
2 Blue Brain BBomber
#3β
しおりを挟む
「勝手に決めるな!」
クロエさんの抗議を無視して彼女は引き金を引いた。
単射式のライフルから放たれた弾丸がナホコの腹に命中、仰け反るナホコ。
咄嵯にボロボロのお姉さんが俺を後ろにグイと引っ張る。
「な、何が起きたんだ?」「多分だけど、まだ完全に取り込まれてはいないみたい。」
「どういうことだ?」
「あいつらね、感染源のB君(仮)を取り込む前に他の感染者達も何人か食べちゃったみたい。けどさっきの攻撃で一回アタシにバラバラにされちゃって、大きくなれないのよ。」「それってつまり?」
「えっとね、簡単に言うと今は体が足りなくてこれ以上デカくなれなくなったから、あんな風に小さいままなんだと思う。」
確かによく見ると、ナホコだったものの侵身長は俺と頭ひとつ分しか変わらないように見える。
「なら、今のうちにとどめを刺せば!」俺は立ち上がってクロエさんから武器を奪い取ろうとする。しかし、その手をウサ耳女が掴み阻止してきた。
「だから落ち着けっての!迂闊に触ると手首がもげちゃうよ。それ、B君や『今の』ナホコちゃんと同じ素材だから」
「じゃあどうすれば!」俺は苛立って声を荒げる。
「私がやるわ」
クロエさんがそう言うと、ライフル女を押し退けて俺の前に立つ。
「あなたには悪いけど、これも仕事なの。恨まないでね。」そう言って彼女はどこからか取り出した穂先が捻れた鉾?いや槍を右足を前、穂先をやや下に向け構える。
強烈なパースがついて彼女の得物がとても長く、大きく見える。
「な、何をする気ですか?」俺は思わず後ずさりする。
「安心して、すぐ終わるわ。」
そう言うと彼女は一瞬目を閉じ、静かに深呼吸をする。そしてカッと見開くと同時に一気にナホコと間合いを詰めた!
「ひぃ!」俺は悲鳴をあげ、腰を抜かす。しかし、後ろからオクショウさんに抱きすくめられ転倒は免れた。
「大丈夫よ、見てな。」オクショウさんの声に促されるように視線を向けるとそこには信じられない光景が広がっていた。
クロエさんはナホコとの間合いを一気に詰めると、ナホコの足下に潜り込み、そのまま体を貫いた。
「インヘイルごにょごにょ……」クロエさんが何かを呟きながら柄を握る腕に力を込めた。と、槍の穂先に走る幾何学的な線が光り輝き始める。
「な、なんだこれ!?」
「あれで異形の身体、体組織を吸収しちゃうんだよ。実質吸ったら勝ちみたいなもんかな。」
「嘘だろ……」俺は呆然としながら目の前で起きたことを眺めていた。が、ナホコもすんなりと吸われるつもりは無いらしい。槍の柄を掴み抵抗する素振りを見せる……
あれは……あれは抵抗してるのか?
「オネガイシマス……コンナカタチデワタシガシンデ……リョウスケクンガ…………リョウスケクンガ、カナシマナイヨウニ……サイゴニヒトコトダケ……」
「……ッ!!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は胸を締め付けられるような痛みを感じた。ナホコの口から漏れたのはあの、俺が知っているあの声。あの夏何度も聞いた声だった。
「う、ぐぅ……」
俺は必死でこみ上げる感情を抑えようとする。だが、無駄だ。抑えられるわけがない。
俺の目からは涙が溢れ出していた。視界がぼやける。
「正直……予想外だったわ……」
クロエさんが苦笑いを浮かべる姿が涙でぼやけた視界に映る。
「そんなに、あの子のこと大事に思ってるなんて……」
「当たり前ですよ!」俺は叫ぶと同時にクロエさんに向かって走り出す。が、すぐにオクショウさんに押さえ込まれる。
「おい!離せよ!」
俺は暴れるが、ビクともしない。
「無理だっての、あんたが行っても何にもならないし、邪魔になるだけ。」
「ふざけるな!放して!放してくださいよ!まだ助かるかもしれませんよ!病院だよゥッッ!!」
俺は必死に抵抗するが、オクショウさんの拘束を解くことはできなかった。
「残念だけど、それはできないよ。」オクショウさんが俺の頭をポンと叩く。
「なんでですか!なんで俺には何も出来ないんですか!」俺は泣き叫びながら抗議する。
「……ありがと、リョウスケ……もっといい人見つけてね……それと、あたしのこと忘れないでね……大好き」ナホコの言葉を聞き届けたかのように、槍の光が一層強くなる。「……さよなら」クロエさんが槍を持つ手に力を込める。彼女のの瞳が赤く輝く。
……そこから先の事はよく覚えていない。記憶が曖昧なのだ。俺の目の前でナホコが死んだ。俺の友達が、クラスメイトが、想い人が死んだ。その事実を俺は受け入れることができなかった。受け入れたくなかった。
***
「ねぇねぇクロエさん。この子、気絶しちゃったけどどうする?お持ち帰りする?」
オクショウがそういいながら気を失った男子高校生の身体を手早くまさぐる。
「随分丁寧に身体検査なさるんですね~オクショウ駆除官」クロエはそう言いつつオクショウの手を払うと、視線を足元に転がる異形の『核』……この、今は意識を失っている少年の大切な存在の形見に目を向ける。
「それにしてもさっきのジャベリンの性能、私はもうヤバイと思う。あのバ、クマさん一言も説明してくれなかったよね?」「まぁ、確かに。でも、あの状況じゃ仕方ないっしょ。私ら全員余裕無かったんだしさ。」
「それはそうだけど……やっぱり納得いかないわ。」
クロエは頬を膨らませる。
「いやークロエさん、今回は私を褒めてくれてもバチは当たらないんじゃない?」「……」クロエは無言のままオクショウを見つめる。
「あ、ちょっと待って!冗談だから!」
クロエはふっと微笑むと、
「さっさと片付けて帰りましょう。」「りょーかい♪」
異形の核を拾い上げた二人は気を失い倒れている少年を担ぎ上げた。そしてその場を後にする。
「ここの7階の映画館、来たことあるでしょ」オクショウが指差す薄汚れた案内板には英語で『T沢フォーリス、アオンシネマ』と書かれている。
「……ああ……あんまりこういう所来なかったから……小さい頃はあんまり……」
クロエは歯切れ悪く答える。
「へぇ意外。クロさん以外と陰キャだから映画とか好きそうだと思ったんだけど」
「……別に、興味ないわけじゃないけど……」
「それより」オクショウはニヤリと笑う。と、無造作にビルの外壁に張られたビニルシートを引き剥がした。
「何か羽織らないと地上波で流せないよ、日5とか」
クロエは頬を赤らめる。そして何気なくビルの外、駅前の廃墟を眺め驚愕に目を見開いた。
「え……これ、どういう……」クロエの口元が震える。
「ん?どした?急にキムスメみたいに、今夜ワカちゃんと3人で牛丼屋行く?」
オクショウが覗き込むようにクロエの顔を見る。だがクロエはそれどころではないようだ。
「嘘……こんな……」
「…?」オクショウも釣られて壁の外にプイと何気なく視線を向けた。「!?」
そこには異質な『物体』が、いた。
クロエさんの抗議を無視して彼女は引き金を引いた。
単射式のライフルから放たれた弾丸がナホコの腹に命中、仰け反るナホコ。
咄嵯にボロボロのお姉さんが俺を後ろにグイと引っ張る。
「な、何が起きたんだ?」「多分だけど、まだ完全に取り込まれてはいないみたい。」
「どういうことだ?」
「あいつらね、感染源のB君(仮)を取り込む前に他の感染者達も何人か食べちゃったみたい。けどさっきの攻撃で一回アタシにバラバラにされちゃって、大きくなれないのよ。」「それってつまり?」
「えっとね、簡単に言うと今は体が足りなくてこれ以上デカくなれなくなったから、あんな風に小さいままなんだと思う。」
確かによく見ると、ナホコだったものの侵身長は俺と頭ひとつ分しか変わらないように見える。
「なら、今のうちにとどめを刺せば!」俺は立ち上がってクロエさんから武器を奪い取ろうとする。しかし、その手をウサ耳女が掴み阻止してきた。
「だから落ち着けっての!迂闊に触ると手首がもげちゃうよ。それ、B君や『今の』ナホコちゃんと同じ素材だから」
「じゃあどうすれば!」俺は苛立って声を荒げる。
「私がやるわ」
クロエさんがそう言うと、ライフル女を押し退けて俺の前に立つ。
「あなたには悪いけど、これも仕事なの。恨まないでね。」そう言って彼女はどこからか取り出した穂先が捻れた鉾?いや槍を右足を前、穂先をやや下に向け構える。
強烈なパースがついて彼女の得物がとても長く、大きく見える。
「な、何をする気ですか?」俺は思わず後ずさりする。
「安心して、すぐ終わるわ。」
そう言うと彼女は一瞬目を閉じ、静かに深呼吸をする。そしてカッと見開くと同時に一気にナホコと間合いを詰めた!
「ひぃ!」俺は悲鳴をあげ、腰を抜かす。しかし、後ろからオクショウさんに抱きすくめられ転倒は免れた。
「大丈夫よ、見てな。」オクショウさんの声に促されるように視線を向けるとそこには信じられない光景が広がっていた。
クロエさんはナホコとの間合いを一気に詰めると、ナホコの足下に潜り込み、そのまま体を貫いた。
「インヘイルごにょごにょ……」クロエさんが何かを呟きながら柄を握る腕に力を込めた。と、槍の穂先に走る幾何学的な線が光り輝き始める。
「な、なんだこれ!?」
「あれで異形の身体、体組織を吸収しちゃうんだよ。実質吸ったら勝ちみたいなもんかな。」
「嘘だろ……」俺は呆然としながら目の前で起きたことを眺めていた。が、ナホコもすんなりと吸われるつもりは無いらしい。槍の柄を掴み抵抗する素振りを見せる……
あれは……あれは抵抗してるのか?
「オネガイシマス……コンナカタチデワタシガシンデ……リョウスケクンガ…………リョウスケクンガ、カナシマナイヨウニ……サイゴニヒトコトダケ……」
「……ッ!!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は胸を締め付けられるような痛みを感じた。ナホコの口から漏れたのはあの、俺が知っているあの声。あの夏何度も聞いた声だった。
「う、ぐぅ……」
俺は必死でこみ上げる感情を抑えようとする。だが、無駄だ。抑えられるわけがない。
俺の目からは涙が溢れ出していた。視界がぼやける。
「正直……予想外だったわ……」
クロエさんが苦笑いを浮かべる姿が涙でぼやけた視界に映る。
「そんなに、あの子のこと大事に思ってるなんて……」
「当たり前ですよ!」俺は叫ぶと同時にクロエさんに向かって走り出す。が、すぐにオクショウさんに押さえ込まれる。
「おい!離せよ!」
俺は暴れるが、ビクともしない。
「無理だっての、あんたが行っても何にもならないし、邪魔になるだけ。」
「ふざけるな!放して!放してくださいよ!まだ助かるかもしれませんよ!病院だよゥッッ!!」
俺は必死に抵抗するが、オクショウさんの拘束を解くことはできなかった。
「残念だけど、それはできないよ。」オクショウさんが俺の頭をポンと叩く。
「なんでですか!なんで俺には何も出来ないんですか!」俺は泣き叫びながら抗議する。
「……ありがと、リョウスケ……もっといい人見つけてね……それと、あたしのこと忘れないでね……大好き」ナホコの言葉を聞き届けたかのように、槍の光が一層強くなる。「……さよなら」クロエさんが槍を持つ手に力を込める。彼女のの瞳が赤く輝く。
……そこから先の事はよく覚えていない。記憶が曖昧なのだ。俺の目の前でナホコが死んだ。俺の友達が、クラスメイトが、想い人が死んだ。その事実を俺は受け入れることができなかった。受け入れたくなかった。
***
「ねぇねぇクロエさん。この子、気絶しちゃったけどどうする?お持ち帰りする?」
オクショウがそういいながら気を失った男子高校生の身体を手早くまさぐる。
「随分丁寧に身体検査なさるんですね~オクショウ駆除官」クロエはそう言いつつオクショウの手を払うと、視線を足元に転がる異形の『核』……この、今は意識を失っている少年の大切な存在の形見に目を向ける。
「それにしてもさっきのジャベリンの性能、私はもうヤバイと思う。あのバ、クマさん一言も説明してくれなかったよね?」「まぁ、確かに。でも、あの状況じゃ仕方ないっしょ。私ら全員余裕無かったんだしさ。」
「それはそうだけど……やっぱり納得いかないわ。」
クロエは頬を膨らませる。
「いやークロエさん、今回は私を褒めてくれてもバチは当たらないんじゃない?」「……」クロエは無言のままオクショウを見つめる。
「あ、ちょっと待って!冗談だから!」
クロエはふっと微笑むと、
「さっさと片付けて帰りましょう。」「りょーかい♪」
異形の核を拾い上げた二人は気を失い倒れている少年を担ぎ上げた。そしてその場を後にする。
「ここの7階の映画館、来たことあるでしょ」オクショウが指差す薄汚れた案内板には英語で『T沢フォーリス、アオンシネマ』と書かれている。
「……ああ……あんまりこういう所来なかったから……小さい頃はあんまり……」
クロエは歯切れ悪く答える。
「へぇ意外。クロさん以外と陰キャだから映画とか好きそうだと思ったんだけど」
「……別に、興味ないわけじゃないけど……」
「それより」オクショウはニヤリと笑う。と、無造作にビルの外壁に張られたビニルシートを引き剥がした。
「何か羽織らないと地上波で流せないよ、日5とか」
クロエは頬を赤らめる。そして何気なくビルの外、駅前の廃墟を眺め驚愕に目を見開いた。
「え……これ、どういう……」クロエの口元が震える。
「ん?どした?急にキムスメみたいに、今夜ワカちゃんと3人で牛丼屋行く?」
オクショウが覗き込むようにクロエの顔を見る。だがクロエはそれどころではないようだ。
「嘘……こんな……」
「…?」オクショウも釣られて壁の外にプイと何気なく視線を向けた。「!?」
そこには異質な『物体』が、いた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる