11 / 58
2 Blue Brain BBomber
#1α
しおりを挟む
バタン!トアを乱暴に閉じる音、アイツが帰ってきた。
うちにサンタさんが来ないのも、最近わたしを「悪い子」と言ってアヤさんが
ぶつようになったのも全部アイツのせいだ。……だからアイツは嫌い。
アヤさんはアイツのせいでおかしくなったんだ。あんなやつ死ねばいいのに。
わたしがそう呟くとアヤさんは決まってアイツの前でわたしをぶつ。
「もも」を「おなか」を「むね」をそして最後は決まって「かお」をぶたれる。
殴られずに一人前になった奴がどこにいるものか!」
テレビか何かでそんなセリフを聞いたような気がするけど、本当かな?……わたしはそうは思わないな。だってさ、ぶたれるても痛いだけじゃん。
ぶった方は気が晴れるかもかもしれないけれどぶたれてる方はとても痛いんだよ。
「ごめんなさい」って何度謝ってもアヤさんは許してくれない。でもそれは仕方のない事なんだ。わたしは「悪い子」だから……
―――ドン!ドン!ドン!アイツがキッチンに入ってきた……あぁ今日もまた始まるんだ……。
クロエは悪夢から目を覚ました。呼吸が荒くなっている。寝汗で湿ったパジャマが身体に張り付いて気持ちが悪い。
(またあの夢を見た)
もう見たくないと思っているのにどうしてこの夢を見るのだろうか?自分が弱い証拠なのか?
クロエは髪をかき上げベッドサイドに置いてある時計を見た。時刻は午前4時過ぎ
いつもならまだ眠っている時間なのだが、昨夜はは何故か目が冴えて眠れなかった。
昨晩フドウの急襲を受けた後、うどん屋を出たクロエとワカはK大の東に位置するクロエのマンションに帰宅した。
マンションの名は『シャノワール』フランス語で黒い猫という意味らしい。
地上8階、築10年のオートロック付きのありふれたマンションである。その4階にある角部屋が409号室がクロエの部屋だった。
「さぁワカちゃん、遠慮しないで入った入った」
「……う~ん、思ったより狭い……です、ね」
玄関に入った途端にワカは辺りを見回しながら言った。
「そうか?ものが多くて手狭に感じるだけで実際は広いと思うぜ」
クロエはパンプスを脱ぎながら答える。
「……いえ、そういう意味じゃなくてですね……まぁいいです。お邪魔……します」
「どうぞどうぞ、散らかっている気がする……けど楽にしてね♪」
リビングに入りまず目に飛び込んできたのはソファーの上に脱ぎ捨てられた衣類や下着類であった。
おそらく洗濯しないまま放り投げたのであろう。クロエの性格を考えれば容易に想像できる光景だ。
次に目に付いたのはダイニングテーブルの上に置かれたカップ麺や弁当の空容器、空になった空き缶が乱雑に置かれている様子だ。
「……わー、これはちょっと凄いかも……」
「……どう?驚いた?」
クロエは頭を掻きながら照れ笑いを浮かべている。
「いえ!別に褒めてませんよ!?ゴミ屋敷ですかここは!」
「そこまで言わなくても……あっそうだ。今お茶入れるから適当に座って待ってて」
クロエは食器棚からカップを二つ取り出し、お湯を沸かし始めた。
それをしばらく見守っていたワカは数分後ソファーの上に脱ぎ散らされたクロエの衣類を器用に避けて腰掛けた。
「そこら辺の山からクッション掘り出して使っていいよー」
「いえー、お気遣いなくー」
キッチンからかけられたクロエの声にワカは素っ気無く答えると部屋の中を観察し始めた。
「ん?」ワカはリビングの飾り棚の上に写真立てを見つけた。そこには二人の人物が写っている。
一人は高校生くらいの少女、もう一人は30代後半と思われる女性。恐らく親子の写真だろう。
女性の方は笑顔だが少女は少し不機嫌そうな顔をしている。
(へぇ……この人クロエさんのお母さんかな?でも……)
「おっ?ワカちゃんもこういうの興味ある?アタシのボトルシップよくできてるだろ?」
ワカが振り向くとお茶の入ったカップを持ったクロエが立っていた。
「……ボトル湿布?」
「ちげーよ!ボ ト ル シ ッ プ!瓶の中に船の模型が入ってる工芸作品の事!知らないの!?」
「……あぁそれなら知ってます。幼稚園時代に同じクラスの子が作ってました名前はオオタニ君って言います」
「……天才少年だな」
飾り棚には写真のポートレートのほかに沢山のボトルシップが飾られていた。
「これ全部アタシが作った物なんだよ。ほら……」
クロエは自慢気にボトルシップを一つ手に取るとワカの隣に腰を降ろして解説しはじめた。
「よく見て。これは分解・組立式って言って一回組立てた船の模型を分解してボトルの中でまた組立てる高度な技を使ってるんだ、この帆船◯ティサークはアタシが初めて作った作品でまだ14歳のときだった……」
「ク、クロエさん!?いきなり語り出してびびるんですけど!っていうか昼間とキャラ変わってません!?」
いつの間にかクロエは目を爛々と輝かせながら早口で喋っていた。
「あぁごめんごめん、つい熱くなってさ」
「…クロエさん」
「ん?」
「わたし今日は色々あってほんと~に疲れましたっ!早く眠りたいです。できれば一人で。……寝室はどこですか?案内してください」
クロエの自分語りを遮るようにピシャリとワカは言い放った。
「え?何で?一緒に寝ようよ」
負けじとワカに食い下がるクロエ
「……嫌です。お断りします」
「なんで!?せめて理由を教えてくれよ!」
「…嫌だからです!」
「!?」
結局、押し問答の末に今晩は特別にクロエがリビングのソファー、ワカがクロエの寝室のベッドを使うということで話がまとまった。
「……あっ、このお茶あったかくて美味しいです、それにいい香り」
「そりゃ良かった。これはねレモンバームだよ。美容にも健康にもいいんだ」
「へぇ~そうなんですか。私初めて飲みます」
お茶を飲み終え、クローゼットから適当に見繕ったパジャマをワカに手渡しクロエは自分の寝室へと彼女を案内した。部屋の中は整理整頓が行き届き、ボトルシップ製作用のブースのせいで知らない人が見たら何かの職人の工房にも見えただろう。
ワカを通したクロエが部屋の灯りをつける。そのときクロエは少しだけ
(やっぱ1人にしておくのはマズかったかな?)と後悔したが、すぐに思いなおした。
彼女は少し個性的だが根は優しい娘だ。もし何かあったとしてもすぐ部屋にすっ飛んでくればいい、と考えたのだ。
「おやすみなさいクロエさん」
「おやすみワカちゃん」
クロエはそっと部屋のドアを閉じた。
うちにサンタさんが来ないのも、最近わたしを「悪い子」と言ってアヤさんが
ぶつようになったのも全部アイツのせいだ。……だからアイツは嫌い。
アヤさんはアイツのせいでおかしくなったんだ。あんなやつ死ねばいいのに。
わたしがそう呟くとアヤさんは決まってアイツの前でわたしをぶつ。
「もも」を「おなか」を「むね」をそして最後は決まって「かお」をぶたれる。
殴られずに一人前になった奴がどこにいるものか!」
テレビか何かでそんなセリフを聞いたような気がするけど、本当かな?……わたしはそうは思わないな。だってさ、ぶたれるても痛いだけじゃん。
ぶった方は気が晴れるかもかもしれないけれどぶたれてる方はとても痛いんだよ。
「ごめんなさい」って何度謝ってもアヤさんは許してくれない。でもそれは仕方のない事なんだ。わたしは「悪い子」だから……
―――ドン!ドン!ドン!アイツがキッチンに入ってきた……あぁ今日もまた始まるんだ……。
クロエは悪夢から目を覚ました。呼吸が荒くなっている。寝汗で湿ったパジャマが身体に張り付いて気持ちが悪い。
(またあの夢を見た)
もう見たくないと思っているのにどうしてこの夢を見るのだろうか?自分が弱い証拠なのか?
クロエは髪をかき上げベッドサイドに置いてある時計を見た。時刻は午前4時過ぎ
いつもならまだ眠っている時間なのだが、昨夜はは何故か目が冴えて眠れなかった。
昨晩フドウの急襲を受けた後、うどん屋を出たクロエとワカはK大の東に位置するクロエのマンションに帰宅した。
マンションの名は『シャノワール』フランス語で黒い猫という意味らしい。
地上8階、築10年のオートロック付きのありふれたマンションである。その4階にある角部屋が409号室がクロエの部屋だった。
「さぁワカちゃん、遠慮しないで入った入った」
「……う~ん、思ったより狭い……です、ね」
玄関に入った途端にワカは辺りを見回しながら言った。
「そうか?ものが多くて手狭に感じるだけで実際は広いと思うぜ」
クロエはパンプスを脱ぎながら答える。
「……いえ、そういう意味じゃなくてですね……まぁいいです。お邪魔……します」
「どうぞどうぞ、散らかっている気がする……けど楽にしてね♪」
リビングに入りまず目に飛び込んできたのはソファーの上に脱ぎ捨てられた衣類や下着類であった。
おそらく洗濯しないまま放り投げたのであろう。クロエの性格を考えれば容易に想像できる光景だ。
次に目に付いたのはダイニングテーブルの上に置かれたカップ麺や弁当の空容器、空になった空き缶が乱雑に置かれている様子だ。
「……わー、これはちょっと凄いかも……」
「……どう?驚いた?」
クロエは頭を掻きながら照れ笑いを浮かべている。
「いえ!別に褒めてませんよ!?ゴミ屋敷ですかここは!」
「そこまで言わなくても……あっそうだ。今お茶入れるから適当に座って待ってて」
クロエは食器棚からカップを二つ取り出し、お湯を沸かし始めた。
それをしばらく見守っていたワカは数分後ソファーの上に脱ぎ散らされたクロエの衣類を器用に避けて腰掛けた。
「そこら辺の山からクッション掘り出して使っていいよー」
「いえー、お気遣いなくー」
キッチンからかけられたクロエの声にワカは素っ気無く答えると部屋の中を観察し始めた。
「ん?」ワカはリビングの飾り棚の上に写真立てを見つけた。そこには二人の人物が写っている。
一人は高校生くらいの少女、もう一人は30代後半と思われる女性。恐らく親子の写真だろう。
女性の方は笑顔だが少女は少し不機嫌そうな顔をしている。
(へぇ……この人クロエさんのお母さんかな?でも……)
「おっ?ワカちゃんもこういうの興味ある?アタシのボトルシップよくできてるだろ?」
ワカが振り向くとお茶の入ったカップを持ったクロエが立っていた。
「……ボトル湿布?」
「ちげーよ!ボ ト ル シ ッ プ!瓶の中に船の模型が入ってる工芸作品の事!知らないの!?」
「……あぁそれなら知ってます。幼稚園時代に同じクラスの子が作ってました名前はオオタニ君って言います」
「……天才少年だな」
飾り棚には写真のポートレートのほかに沢山のボトルシップが飾られていた。
「これ全部アタシが作った物なんだよ。ほら……」
クロエは自慢気にボトルシップを一つ手に取るとワカの隣に腰を降ろして解説しはじめた。
「よく見て。これは分解・組立式って言って一回組立てた船の模型を分解してボトルの中でまた組立てる高度な技を使ってるんだ、この帆船◯ティサークはアタシが初めて作った作品でまだ14歳のときだった……」
「ク、クロエさん!?いきなり語り出してびびるんですけど!っていうか昼間とキャラ変わってません!?」
いつの間にかクロエは目を爛々と輝かせながら早口で喋っていた。
「あぁごめんごめん、つい熱くなってさ」
「…クロエさん」
「ん?」
「わたし今日は色々あってほんと~に疲れましたっ!早く眠りたいです。できれば一人で。……寝室はどこですか?案内してください」
クロエの自分語りを遮るようにピシャリとワカは言い放った。
「え?何で?一緒に寝ようよ」
負けじとワカに食い下がるクロエ
「……嫌です。お断りします」
「なんで!?せめて理由を教えてくれよ!」
「…嫌だからです!」
「!?」
結局、押し問答の末に今晩は特別にクロエがリビングのソファー、ワカがクロエの寝室のベッドを使うということで話がまとまった。
「……あっ、このお茶あったかくて美味しいです、それにいい香り」
「そりゃ良かった。これはねレモンバームだよ。美容にも健康にもいいんだ」
「へぇ~そうなんですか。私初めて飲みます」
お茶を飲み終え、クローゼットから適当に見繕ったパジャマをワカに手渡しクロエは自分の寝室へと彼女を案内した。部屋の中は整理整頓が行き届き、ボトルシップ製作用のブースのせいで知らない人が見たら何かの職人の工房にも見えただろう。
ワカを通したクロエが部屋の灯りをつける。そのときクロエは少しだけ
(やっぱ1人にしておくのはマズかったかな?)と後悔したが、すぐに思いなおした。
彼女は少し個性的だが根は優しい娘だ。もし何かあったとしてもすぐ部屋にすっ飛んでくればいい、と考えたのだ。
「おやすみなさいクロエさん」
「おやすみワカちゃん」
クロエはそっと部屋のドアを閉じた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる