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1廃墟

#4

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案内板を頼りに放棄されたシェルターにたどり着いた少女はとうの昔に破られた分厚いシャッターに目をやる。
「うわ……」
そこはすでにもぬけの殻だった。瓦礫が散乱するばかりで、人の気配など微塵もない。
少女は周囲を見回した。倒壊して横倒しになったコンテナや、ひっくり返ったまま放置されたトレーラーなどが無数に転がり常夜灯に照らされている。
まるで巨大な生物の死骸を見ているようだ。

少女は奥へと進んだ。かつて倉庫として使われていたらしい空間には、さまざまな資材とともに大小無数のスクラップが積み上げられている。だがその大半は既に錆びつき、朽ち果てていた。
この様子では食料はおろか水さえ期待できそうにない。
少女は肩を落とした。
せめて、ここで雨露は凌ぎたいのだが──
(ん?)
ふと何かの視線を感じて少女は後ろを振り返った
そして思わず息を呑む。先刻の異形がゆっくりとこちらへ近づいてくるところだった。
(……嘘)
全身から血の気が引く。足がすくんで動けなかった。
(どうしよう……!)
逃げようにもこの場所は不馴れだ。異形がここにたどり着くまでに、まだ数十秒はあるだろう。少女は意を決した。

中央公園の地下に広がるこのシェルターは元々、周辺商業施設の客向けの大型地下駐車場だった。県内外から付近の商業施設が合同で建設した大型地下駐車場だった。比較的、地震が少ない土地柄も幸いし(ごめんなさい何か最近地震多いね♪)件の動乱の際に市民を避難させるための大型シェルターに改装されたのだ。

一方その頃、突然シェルターの方へ転針した異形を追い、女もシェルターに向かった。
(これは…)
女は絶句した。入口付近の集積場、まず目に入っったの床に横たわり瀕死状態の異形だった。全身を何か「硬いもの」で抉られ背中の結晶体はあらかた粉砕されている。
それは女の知る限り、到底、人間わざとは思えなかった。
ならばあれは何だ?
強いて言うなら異形同士が 、いや、今はそんなことを考えている場合ではない。今のうちに一旦地上に戻ってバンの通信機で課に連絡し援軍を呼ばなければ、少女の捜索はその後だ、女は踵を返し引き返そうと振り向いた。瞬間、女の視界の端で何かが動いた。肩から下げたランチャーを投げ捨て咄嗟に銃を引き抜き構える。

そこには先ほどの少女がいた。彼女は震えながら両手を挙げその場にペタりと座り込んでいる。
「きみっ!」
女は駆け寄り声をかけた。
「ちょっ!大丈夫!?何でこんなとこに!!?」
近寄ってみると少女の右目は固く閉じられ両頬には血が滲んでいた。着ている服もほとんど破けて半裸に近い状態だっだ。おそらくあの異形に襲われたのだ。
よく見ると脚にもかなりの裂傷を負っており、出血の量から見てもかなり危険な状態なのは間違いない。
「え~っと、立て……るわけないか…」
「……」
少女は何も言わずこくりと頷いた。恐怖のあまり口がきけないのか、それとも──
「ちょっとごめんね」
スーツのポーチから取り出した止血剤で応急手当を済ませると女はそう言って少女を抱きかかえた。俗にいうお姫様抱っこというヤツである。思ったよりも軽かったことに少しだけ驚く。
「このままだと色々危ないし、とりあえず安全な場所まで移動しようか」
「……はい」
口を利いてくれたことに事に安堵しつつ女は歩きだした。
少女は身を硬くしてされるがままに運ばれていく。だが不思議と悪い気分ではなかった。
(この人すごくいい匂いする……)
どこか懐かしく心が落ち着くような優しい匂いに包まれ、少女はいつしか眠りに落ちていった 
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