131 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第七章 6)謎の中に取り残されて
しおりを挟む
謎の中に取り残されたまま、独りにされる。
私は首を傾げて、表情を歪めて、同じ文化を共有していない異国の者が見ても、「何だって?」という表情をしていることがわかるに違いない。
こんな私の姿を誰か絵をに描いてはくれないだろうか。それとも彫像でもいい。歴史に残る芸術作品になるはずだ。その作品に題名をつけるならば、「謎の中に取り残されし男」が打ってつけに違いない。
フローリア。
その名前に聞き覚えがないわけでもない。どこかで聞いたような気がする。アビュが私をからかおうとしているわけでないことは確かだと思う。
しかし思い出すことが出来ない。引っかかってはいるが、記憶の中から上手く取り出すことが出来ない。
「何なんだよ、いったい!」
この苛立ちを誰にぶつければいいのかわからない。アビュにぶつけても仕方がないことだ。それはわかっている。
いや、このような曖昧な記憶というものは、別に不思議なものではないかもしれない。
この場所、この瞬間、以前にも来たことがある。体験したことがある。そんな既視感を覚えることは誰にだってあるらしいではないか。
この記憶もそういうものではないだろうか。
それに間もなくして訓練室に到着したので、私はもうこのことについて思い悩むのをやめる。いつまでも謎の中の佇んではいられない。
当初の予定通り、まずアリューシアに会いに来たのである。シュショテのことを彼女に話して、もしかしたら心配しているかもしれないアリューシアを安心させてやるつもりなのだ。
アリューシアは、プラーヌスからの課題を何としてでもクリアーしようと頑張っているはずだ。今朝も訓練室にいるらしい。アリューシアの侍女のラダから、しっかりとその事実を確かめてきた。
そういうわけなので、シュショテのことは心配ないと言って、魔法の勉強に集中させてやりたい。
しかし訓練室には誰もいなかった。私は無人の部屋の中を呆然と見渡す。
扉は半分開いていて、窓も開け放たれている。机の上には数冊の書物が置かれている。水晶玉だってある。
ここにアリューシアがいたことは間違いのないだろうが、肝心のアリューシアの姿が見えない。
「おい、アリューシア?」
一応、声をかけてみるが、やはり返事はなかった。
気分転換のため、どこかを散歩しているのだろうか。それほど集中力のあるタイプにも思えないので、十分にあり得ることだ。
それならば、ここで待っていたら、いずれ戻ってくるかもしれない。しかしそんな悠長なことをしている時間的な余裕はない。
それともアリューシアの身に何かあったのだろうか。私は嫌な予感も感じた。カルファルのことを思い出したのである。
カルファルは私に宣言したではないか、アリューシアを俺の女にすると。
カルファルがアリューシアをさらって、どこかに消えたのではないか! そして、彼女を強引に自分の女にするつもりなのだ。
そう思うと、何やらこの部屋の光景は、その事件の名残りを漂わせているような気がしてくる。
机の上の辞書や書物は開かれたままだ。水晶玉も光が灯っている。椅子は倒れてこそいないが、斜めになっていて、急いで立ち上がった気配が見受けられる。
しかしまだ朝ではないか。一日は始まったばかりである。こんな時間からこのようなことをするのだろうか。
まあ、あの男ならば、やりかけないが。
私は部屋を出た。カルファルの部屋に向かって走った。
私は首を傾げて、表情を歪めて、同じ文化を共有していない異国の者が見ても、「何だって?」という表情をしていることがわかるに違いない。
こんな私の姿を誰か絵をに描いてはくれないだろうか。それとも彫像でもいい。歴史に残る芸術作品になるはずだ。その作品に題名をつけるならば、「謎の中に取り残されし男」が打ってつけに違いない。
フローリア。
その名前に聞き覚えがないわけでもない。どこかで聞いたような気がする。アビュが私をからかおうとしているわけでないことは確かだと思う。
しかし思い出すことが出来ない。引っかかってはいるが、記憶の中から上手く取り出すことが出来ない。
「何なんだよ、いったい!」
この苛立ちを誰にぶつければいいのかわからない。アビュにぶつけても仕方がないことだ。それはわかっている。
いや、このような曖昧な記憶というものは、別に不思議なものではないかもしれない。
この場所、この瞬間、以前にも来たことがある。体験したことがある。そんな既視感を覚えることは誰にだってあるらしいではないか。
この記憶もそういうものではないだろうか。
それに間もなくして訓練室に到着したので、私はもうこのことについて思い悩むのをやめる。いつまでも謎の中の佇んではいられない。
当初の予定通り、まずアリューシアに会いに来たのである。シュショテのことを彼女に話して、もしかしたら心配しているかもしれないアリューシアを安心させてやるつもりなのだ。
アリューシアは、プラーヌスからの課題を何としてでもクリアーしようと頑張っているはずだ。今朝も訓練室にいるらしい。アリューシアの侍女のラダから、しっかりとその事実を確かめてきた。
そういうわけなので、シュショテのことは心配ないと言って、魔法の勉強に集中させてやりたい。
しかし訓練室には誰もいなかった。私は無人の部屋の中を呆然と見渡す。
扉は半分開いていて、窓も開け放たれている。机の上には数冊の書物が置かれている。水晶玉だってある。
ここにアリューシアがいたことは間違いのないだろうが、肝心のアリューシアの姿が見えない。
「おい、アリューシア?」
一応、声をかけてみるが、やはり返事はなかった。
気分転換のため、どこかを散歩しているのだろうか。それほど集中力のあるタイプにも思えないので、十分にあり得ることだ。
それならば、ここで待っていたら、いずれ戻ってくるかもしれない。しかしそんな悠長なことをしている時間的な余裕はない。
それともアリューシアの身に何かあったのだろうか。私は嫌な予感も感じた。カルファルのことを思い出したのである。
カルファルは私に宣言したではないか、アリューシアを俺の女にすると。
カルファルがアリューシアをさらって、どこかに消えたのではないか! そして、彼女を強引に自分の女にするつもりなのだ。
そう思うと、何やらこの部屋の光景は、その事件の名残りを漂わせているような気がしてくる。
机の上の辞書や書物は開かれたままだ。水晶玉も光が灯っている。椅子は倒れてこそいないが、斜めになっていて、急いで立ち上がった気配が見受けられる。
しかしまだ朝ではないか。一日は始まったばかりである。こんな時間からこのようなことをするのだろうか。
まあ、あの男ならば、やりかけないが。
私は部屋を出た。カルファルの部屋に向かって走った。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる