私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
上 下
98 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第五章 23)反抗の気配

しおりを挟む
 根元のほうから幹が折れて、ある方向に倒れ始めた大木は、隣の樹木に助けを求めるかのように枝を伸ばすが、見送られ、見限られ、まるで悲鳴のように擦れる葉の音をざわめかせ、地響きを立てながら、大地にひれ伏す。

 木が倒れるたびに、私は「おお」などと驚くだけで、別に手伝うわけでもなく、ただその作業を遠巻きに見るだけである。
 更に私の背後のほうで、ゲオルゲ族の召使いたちも、その作業を不安そうな眼差しで傍観している。
 おいおい、君たちがその仕事をするんだぞと私は思ったりもするが、私には彼らを叱る資格はないだろう。
 自分の身体よりもずっと重くて太い木が、空から降り落ちてくるようなのである。まるで戦場にいる気分だ。恐怖で足がすくんでしまう。

 ほとんどの作業は傭兵たちがやっていた。
 バルザ殿の部下で、実際に戦場にも立っている勇者たちだ。ゲオルゲ族の召使いたちより、一回り以上身体が大きい力自慢の男たち。
 しかしその人数は十数人というところで、彼らの力だけでは作業は遅々として進まない。やはり召使いたちの協力が必要だ。
 少し勇気のある召使いたちは、切り株を掘ったりして、その作業を手伝ってはいるが、今のところ斧を持っている者は皆無である。かなり絶望的な状況と言っていいだろう。

 まあしかし、まだ仕事は始まったばかりである。彼らもこの状況に馴れれば、積極的に働いてくれるかもしれない。
 何と言っても、我々の前にはあのバルザ殿が立っているのである。バルザ殿ならばきっと、この気弱な召使たちを奮い立たせる術を知っているはず。

 そんなことよりもずっと大きな問題があった。
 そもそもこの現場に出てきているゲオルゲ族の数があまりに少ないという問題。
 少な過ぎるのだ。半数、もしくは三分の一くらいではないだろうか。

 プラーヌスは召使いたち全員にこの仕事を命じたはずである。それなのに、どうやら多くの者がプラーヌスの命令を拒否しているよう。
 だからといって召使いたちが、塔の中でいつもの仕事に従事しているわけでもなかった。
 今朝の塔は妙に静かだった。普段ならば掃除夫たちが塔の至るところをウロウロしているはずなのに、その姿も見えなかった。
 彼らはこの森にも姿を見せず、いつもの仕事場にも顔を出していない。自分たちの住居スペース、北の塔に引き籠っているのだろう。
 いずれにしろ、これは新たな火種になりそうだ。プラーヌスがこの命令拒否を許すはずがないのだから。
 そして一方のゲオルゲ族たちからも、確か意志を感じられるのだ。このような突然の勝手な命令に服して堪るものか、そんな反抗の意志が。
 無口で、精気の欠片のない、怠惰で気弱なゲオルゲ族たちからの明確な反抗の意志。それは少しばかり不気味で、大木の倒れる音以上に私を脅かしてもいる。
 もしかしたら何か取り返しのつかないような事件が起きてしまうのではないか、そのような不安を感じさせる。

 「彼らと話し合う必要があるでしょうね」

 私と共に、その作業を見守っていたサンチーヌが言った。

 「そうですね。プラーヌスがこの事実を知る前に、彼らを説得しなければいけない。さもないと・・・」

 ああ、本当に恐ろしいことが起きるだろう。
 こればかりはバルザ殿を頼ることは出来ない。現場の指揮を執るのはバルザ殿の仕事だが、ゲオルゲ族の召使いたちをこの現場に連れてくることは私の仕事なのだ。
 出来ることならば今すぐ、彼らをどうすればこの現場に引きずり出すことが出来るのかアイデアを練るべきだろう。
 しかし今日は重要な仕事がある。これから私は街に行かなければいけないのだ。
 そしてそこで傭兵たちを雇わなければいけない。かなりのハードな仕事である。
 しかも、シュショテという少年と二人で。私は朝からかなりナーバスな精神状態だ。

 もちろん兵の補充は必至。いつ蛮族が襲来してくるのかわからないのであるから、一刻も早いほうがいい。
 まあ、このままならば、雇ったばかりの傭兵たちの仕事は森の木を伐採することになりそうであるが。

 「おい、シャグラン!」

 私がそのようなことを考えていると、後ろから聞き慣れた声がした。
 後ろを振り向く間もなく、カルファルが私の隣に来て、肩をぴったりと寄せてくる。

 「塔の中がやけに静かだと思ったら、何をしてるんだ、俺に内緒で、え?」

 爽やかな葉の風が舞う森のの中に、異質な生き物が闖入してきたかのように、カルファルは麗しい香水の香りを漂わせている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...