私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 20)大いなる希望

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 アリューシアの身体も浮き始めた。右手首の縄と、左手首の縄の絡まったタイミングの違いで、彼女の身体は斜めに浮き上がっていく。
 バーレットが彼女に近づいていく。これ以上浮かんでいかないように、彼女の肩を押さえ、もう一方の手でアリューシアの身体を撫でるように触った。
 アリューシアは足をバタバタとさせて抵抗するが、バーレットは物ともしない。彼はアリューシアの懐をあさり、腰の革袋を取り上げた。
 そして最後に、彼女の指から指輪を抜き取った。

 「宝石はこれだけか。武装解除終了だな」

 バーレットはアリューシアの肩を掴んでいた手を放す。
 アリューシアの身体は再び浮かび上がっていくが、彼は彼女の足にも縄を絡めた。その縄は離すことなく掴んだまま。浮いたアリューシアを、鳥のように捕獲したような形。

 「俺のここでの仕事も完了だ。ギャラック家の兵士たちも全て吊るせ」

 「ギャラックの兵も?」

 部下が返事を返す。

 「奴らからの報酬など必要ない。俺はボーアホーブ家に婿入りするんだからな。全ての財産が俺たちのものだ」

 バーレットの指示のもと、配下の傭兵たちが動く。ギャラックの兵士たちに縄を投げて首を絞め上げ、吊るしていく。
 もちろん小競り合いは起きた。しかし仮面兵団の力が圧倒している。バーレットも自ら縄を投げ、部下と共に死刑の執行に加わる。

 「しかし解せないことがあるんだ」

 バーレットは縄を回しながら、アリューシアに向かってそんなことを言っている。

 「お前は何の躊躇もなく、あの男に向かって炎の魔法を放ち続けようとした。縄が焼けるよりも前に、この男も焼けるんだ。なぜ、お前はそれを恐れないんだ? どうせ死ぬならば、焼いて殺すつもりだったのか? そんなはずがない」

 彼はそう言いながら、部下の一人を呼び寄せた。「おい、誰かあいつに炎の魔法を放て。焼き殺してもいい」

 バーレットに、「あいつ」と呼ばれた私。
 私はまだ何とか生きている。意識だって辛うじてある。眼下の様子だって、把握することが出来ているし、会話も何とか聞き取ることが出来ている。
 私に向かって、炎の魔法が放れた瞬間のことも覚えている。視界が橙色に染まり、少し熱を感じたが、痛みやも衝撃はない。シールドに弾かれたからだ。
 そしてそのあと、眼下で起きた動揺。どよめき。
 仮面をかぶっているバーレットの表情など、読み取れるわけはなかった。
 しかし彼の仕草や動作、その口調に、不安が漂い出したのは、意識が朦朧としつつある私でも気づくことは出来た。それは、何か大いなる希望でもあったからだ。

 「何者だ、こいつ? かなり強烈なシールドだ。こいつ自身が魔法使いではないことはわかっている。誰が貼った?」

 バーレットがアリューシアに尋ねた。「お前ではないな。お前のシールドは簡単に壊せる。あのもう一人の男でもない」

 バーレットはカルファルのほうを見る。カルファルが生きているのかどうかわからなかった。
 彼は私の背後で浮いている。その姿は見えない。しかしまだ私だって、何とか息をしているのだ。カルファルも死んではいないはず。

 「あいつの魔法は見た。大した力ではない。誰だ? まだ仲間がいるのか?」

 バーレットはアリューシアの足を縛った縄を乱暴に引っ張る。アリューシアの身体が大きく傾き、彼女は悲鳴を上げた。

 「な、仲間ですって?」

 アリューシアは混乱の中にいるのか、その言葉の意味をよく理解していないようだった。しかし言ってやればよかったのだ、我々にはとても強力な仲間がいるということを。

 「い、いるぞ。仲間が。僕の友人だ」

 その代わり、私が声を出す。
 それは本当に小さな声で、苦悶の吐息と変わらない。しかしそれなのに不思議と、バーレットたちの耳にまで届いたようだった。

 「何だと」

 「だ、だから、諦めるなよ、カルファル。どんなに苦しくても、息をし続けろ。助けは来る」

 「お、愚かな夢想だぜ」

 カルファルの声も聞こえた気がする。「もうあきらめろ、潔く死んでいこうぜ・・・」

 「む、夢想なんかじゃないさ。だから足手まといを覚悟で、僕は君たちについてきたんだ。こういうときのために。プラーヌスは助けに来てくれる」

 「あ、ありえないだろ? あんな冷酷な男が」

 いや、彼は僕を見捨てはしないはずなんだ。
 私は上空を見上げる。その空には誰の死体も身体も浮いていない。ただ青い空だけが広がっている。果てしない無限の広がりだ。
 そしてそれは何も起きりそうにない空でもあった。雲もなくて、雨すら降りそうになくて、いつもの、見飽きた、有り触れた空。その空が、私の懇願に返事などを返してくれるのだろうか。
 いや、返してくれたのだ。

 「ああ、来たよ」

 そんな声がして、私は声のほうを見下ろす。眼下で炎が立ち上がった。炎の中に黒い影がいた。プラーヌスだ。
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