私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 15)死地へ

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 このときに決断をしていれば、まだ私たちは逃げ切ることが出来たのかもしれない。
 アリューシアを取り囲んでいる兵士たちを殺す。彼らさえ一掃してしまえば、私たちの近くに敵はいなくなる。
 もちろん多くのギャラックの兵が、私たちを探して城の中を駆け回っているだろう。しかし相互に連絡は取れていないようで、まだここに辿り着いていない。
 今ならば、また城壁にまで戻り、棺桶を持った兵士たちと合流して、彼らと共にすみやかに退却することが出来たのだ。
 すなわち、恐るべき仮面兵団と遭遇することはなかったはず。

 しかしアリューシアは私たちに一瞥もくれることなく、再びその回廊の奥へと歩き始めてしまう。
 敵に囲まれていた彼女をカルファルが救ったのにも関わらず、彼に礼もしない。

 「待つんだ、アリューシア!」

 私は歩き出すアリューシアに声を掛けようとする。

 「君の気持ちは痛いほど理解出来る。だけどここは耐えよう。一端、塔に帰るんだ。復讐はいつだって出来る。今がその時期じゃないことは、君だってわかっているはずだ。それに一度、我々で決めたことではないか。君だって同意した。その約束を君は破るつもりか!」

 もちろん声が出ない。いや、もし声が出て、彼女と話し合うことが出来たとしても、アリューシアを説得することは出来なかったのかもしれない。
 しかし言いたいことを言うことが出来ていれば、これほど遣る瀬無い思いで彼女の背中を見つめることはなかっただろう。

 何の躊躇いもなく、私たちを死地へと連れていこうとするアリューシアが腹立たしくてたまらない。出来ることならば力づくで、アリューシアの考えを翻させたかった。
 彼女の肩を捉まえ、胸倉をつかんで、その小さな身体を揺さぶって、考えを改めさせるのだ。しかし彼女に駆け寄ろうにも速度が出ない。カルファルの魔法の影響である。
 まるで夢の中で泳いでいるかのように、気分だけが急いて、身体がついて来ない。 カルファルの魔法の影響である。まるで夢の中で泳いでいるかのように、気分だけが急いて、身体がついて来ない。

 肉の焼ける匂いが鼻を包む。それは人の肉。髪の毛も焼けているのだろう。あらゆる内臓なども焼けているのだろう。
 その悪臭が目を刺す煙と共に、私たちを噎せ返らせる。
 その匂いからも逃げたかった。しかしアリューシアは更に人を焼こうと企んで、煙の奥に進んでいく。

 やがて私たちはその回廊を抜けた。その回廊の果てに扉がある。アリューシアがそこを開ける。光が差し込んできて、風が吹く。
 どうやら私たちは、その城の中庭に出たようであった。
 ようやく外の空気に触れ、人の焼ける匂いは少し弱まったが、再び戦いの匂いが立ち上がってくる。
 そこは一つの部隊が戦闘の訓練をしたり、馬を乗り回せたり出来るくらいの広さの中庭だった。

 その広場の中央に、ひときわ目を引く美麗な鎧を身に着けた男が立っていた。その男は不機嫌そうに、周りの兵たちに指示を出している。
 普通の兵士ではない。姿恰好からも、兵士たちに命令している様子からも、指揮官であることは間違いないことであろう。
 その男とアリューシアは一瞬、見つめ合う。その瞬間、時間が止まったかのようになった。

 そのひときわ派手で豪華な鎧を着ている男、彼がギャラックの次期当主、ブルーノであるという事実を私たちが知ったのはこの後のことであるが、その男を見てすぐ、彼がギャラック家の重要人物であることは理解出来た。それは当然、アリューシアも同じだろう。
 なぜ、見知らぬ少女がこの広場に紛れ込んできたのだ? 男のほうは、そんな表情を見せたが、私とカルファルを見て、その意味の全てを瞬時に悟ったようだ。

 「ああ、お前たちが侵入者とやらか? しかしこれだけの人数? それでこれだけの騒ぎを起こしたのか? しかも一人は子供だって!」

 その男は言う。アリューシアは彼が語り終わらぬうちに魔法を放った。その華麗な鎧に火がつき、男の身体を炎が包む。
 次期当主ブルーノは痛みに叫び、激しくのたうち回った。
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