私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
上 下
176 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第九章 13)終わりに向かう一本道

しおりを挟む
 殺戮は始まっていた。既に通路にはギャラックの兵士の死体が幾つか転がっている。アリューシアがすれ違いざまに殺していったのだろう。
 つまり、その死体を辿っていけば、アリューシアを見つけられるはずである。

 カルファルの魔法の効力の下、彼女は軽快に走れないはずだ。しかしその回廊には彼女の背中は既になかった。
 怒りで我を忘れたアリューシアは、魔法の重しを撥ね退け、恐るべき速度で走っているに違いない。少なくとも私よりは速いスピードで。
 彼女が目指すのはギャラックの首領の首であろう。あるいはただ単にギャラックの兵を一人でも多く殺すことが目的か。
 いずれにしろ、敵が最も多い場所に飛び込んでいこうとしているのは間違いなかった。

 城内は騒然とし始めていたのは、何となく肌感覚で察知出来た。眠っていた城が起き始めたのだ。向こうの通路に足音がこだましている。大きな警告を発する声もする。
 私は丸腰でアリューシアを追っていた。敵に遭遇してしまえば終わり。
 しかもカルファルの魔法で自由に身体が動かない。呆気なく殺されるための理由は嫌になるくらい揃っていた。

 このとき私は怒りでいっぱいだった。勝手な行動に出たアリューシアが腹立たしくて仕方がなかったのだ。
 あともう少しで、この困難な作戦が成功に終わり、私たちは無事塔に帰られるはずであったのに。
 それなのにアリューシアは私たちの身の安全など何ら考慮することなく、自分の怒りにだけ囚われて、破滅的な行動に出た。

 もちろん、理解は出来る。あの光景を見せられたら、理性的でなんていられない。
 それはよくわかる。いや、もしかしたらアリューシアだって戦いを始めたことを後悔していたのかもしれない。
 彼女だって理解しているはずだ。これは終わりに向かう一本道だって。

 しかしどれだけ彼女が後悔していたとしても、こちらは何ら慰められることではない。
 全ては失敗に終わろうとしているという事実に変わりはないのだ。それは私たちが殺されてしまうという結果。

 彼女の姿を見つけたのは、その次の角を曲がったところでだった。アリューシアが複数の敵に囲まれていた。
 小さなアリューシアが武装した大男たちに囲まれている光景は、私の心臓を鷲掴みにして、そのまま止めてしまうだけの衝撃がある。

 とはいえ、魔法使いのアリューシアは、ギャラックの大男など敵ではないようであった。
 彼女の剣や槍などを持つ敵の兵を、あっさりと焼き殺していく。しかもあのゆっくりと燻り殺していく魔法。
 回廊に悲鳴がこだましていた。ギャラックの兵士たちの断末魔だ。その痛みと絶望が響く中、アリューシアは次々と無表情に敵を焼き殺していく。

 アリューシアは強い。いや、普通の武器しか持たない兵士が、魔法使いに敵うわけがない。その定式は絶対。私はそれを改めて確信した。
 しかしどう考えても事態は絶望的な状況だった。更にその奥に、また別の武装した集団が彼女に迫っているのが見える。
 そして宝石には限りがある。いつか魔法が使えなくなるときは来る。
 それにまだ、本当に厄介な敵が現れてはいないはず。あの仮面兵団という傭兵部隊が。

 「アリューシア、逃げよう、戻ってくるんだ!」

 私は大声で叫ぶが声が出ない。カルファルの魔法の効果。だから仕方なく、彼女の許にまで走り寄らなければいけない。
 しかしそのとき、私は背後から近づく足音を聞いた。
 ヤバいと感じながら、後ろを振り向くと、武装した兵士が私に向かって突進してきていた。

 男は恐るべき形相で、私に向かって槍を突き出してくる。
 もちろん、その突進を避けられるような訓練を受けてはいない。槍は私の腹部を抉って、貫いて、短い人生は終わったものだと確信したのだけど、痛みも衝撃もやってはこなかった。
 魔法のシールドとやらが、私の身体を守ってくれたのだ。
 私を槍で突いた兵士は困惑していた。どうしてこいつは死なないんだ? そんな視線で見てくる。

 やがて、その困惑が恐怖に変わった。私を特別な生き物だと思ったのだろうか、いや、違う、魔法使いだと勘違いしたに違いない。
 それに気づいた私は、魔法を使う素振りを見せる。兵士は武器を放り出して逃げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...