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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第九章 13)終わりに向かう一本道
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殺戮は始まっていた。既に通路にはギャラックの兵士の死体が幾つか転がっている。アリューシアがすれ違いざまに殺していったのだろう。
つまり、その死体を辿っていけば、アリューシアを見つけられるはずである。
カルファルの魔法の効力の下、彼女は軽快に走れないはずだ。しかしその回廊には彼女の背中は既になかった。
怒りで我を忘れたアリューシアは、魔法の重しを撥ね退け、恐るべき速度で走っているに違いない。少なくとも私よりは速いスピードで。
彼女が目指すのはギャラックの首領の首であろう。あるいはただ単にギャラックの兵を一人でも多く殺すことが目的か。
いずれにしろ、敵が最も多い場所に飛び込んでいこうとしているのは間違いなかった。
城内は騒然とし始めていたのは、何となく肌感覚で察知出来た。眠っていた城が起き始めたのだ。向こうの通路に足音がこだましている。大きな警告を発する声もする。
私は丸腰でアリューシアを追っていた。敵に遭遇してしまえば終わり。
しかもカルファルの魔法で自由に身体が動かない。呆気なく殺されるための理由は嫌になるくらい揃っていた。
このとき私は怒りでいっぱいだった。勝手な行動に出たアリューシアが腹立たしくて仕方がなかったのだ。
あともう少しで、この困難な作戦が成功に終わり、私たちは無事塔に帰られるはずであったのに。
それなのにアリューシアは私たちの身の安全など何ら考慮することなく、自分の怒りにだけ囚われて、破滅的な行動に出た。
もちろん、理解は出来る。あの光景を見せられたら、理性的でなんていられない。
それはよくわかる。いや、もしかしたらアリューシアだって戦いを始めたことを後悔していたのかもしれない。
彼女だって理解しているはずだ。これは終わりに向かう一本道だって。
しかしどれだけ彼女が後悔していたとしても、こちらは何ら慰められることではない。
全ては失敗に終わろうとしているという事実に変わりはないのだ。それは私たちが殺されてしまうという結果。
彼女の姿を見つけたのは、その次の角を曲がったところでだった。アリューシアが複数の敵に囲まれていた。
小さなアリューシアが武装した大男たちに囲まれている光景は、私の心臓を鷲掴みにして、そのまま止めてしまうだけの衝撃がある。
とはいえ、魔法使いのアリューシアは、ギャラックの大男など敵ではないようであった。
彼女の剣や槍などを持つ敵の兵を、あっさりと焼き殺していく。しかもあのゆっくりと燻り殺していく魔法。
回廊に悲鳴がこだましていた。ギャラックの兵士たちの断末魔だ。その痛みと絶望が響く中、アリューシアは次々と無表情に敵を焼き殺していく。
アリューシアは強い。いや、普通の武器しか持たない兵士が、魔法使いに敵うわけがない。その定式は絶対。私はそれを改めて確信した。
しかしどう考えても事態は絶望的な状況だった。更にその奥に、また別の武装した集団が彼女に迫っているのが見える。
そして宝石には限りがある。いつか魔法が使えなくなるときは来る。
それにまだ、本当に厄介な敵が現れてはいないはず。あの仮面兵団という傭兵部隊が。
「アリューシア、逃げよう、戻ってくるんだ!」
私は大声で叫ぶが声が出ない。カルファルの魔法の効果。だから仕方なく、彼女の許にまで走り寄らなければいけない。
しかしそのとき、私は背後から近づく足音を聞いた。
ヤバいと感じながら、後ろを振り向くと、武装した兵士が私に向かって突進してきていた。
男は恐るべき形相で、私に向かって槍を突き出してくる。
もちろん、その突進を避けられるような訓練を受けてはいない。槍は私の腹部を抉って、貫いて、短い人生は終わったものだと確信したのだけど、痛みも衝撃もやってはこなかった。
魔法のシールドとやらが、私の身体を守ってくれたのだ。
私を槍で突いた兵士は困惑していた。どうしてこいつは死なないんだ? そんな視線で見てくる。
やがて、その困惑が恐怖に変わった。私を特別な生き物だと思ったのだろうか、いや、違う、魔法使いだと勘違いしたに違いない。
それに気づいた私は、魔法を使う素振りを見せる。兵士は武器を放り出して逃げた。
つまり、その死体を辿っていけば、アリューシアを見つけられるはずである。
カルファルの魔法の効力の下、彼女は軽快に走れないはずだ。しかしその回廊には彼女の背中は既になかった。
怒りで我を忘れたアリューシアは、魔法の重しを撥ね退け、恐るべき速度で走っているに違いない。少なくとも私よりは速いスピードで。
彼女が目指すのはギャラックの首領の首であろう。あるいはただ単にギャラックの兵を一人でも多く殺すことが目的か。
いずれにしろ、敵が最も多い場所に飛び込んでいこうとしているのは間違いなかった。
城内は騒然とし始めていたのは、何となく肌感覚で察知出来た。眠っていた城が起き始めたのだ。向こうの通路に足音がこだましている。大きな警告を発する声もする。
私は丸腰でアリューシアを追っていた。敵に遭遇してしまえば終わり。
しかもカルファルの魔法で自由に身体が動かない。呆気なく殺されるための理由は嫌になるくらい揃っていた。
このとき私は怒りでいっぱいだった。勝手な行動に出たアリューシアが腹立たしくて仕方がなかったのだ。
あともう少しで、この困難な作戦が成功に終わり、私たちは無事塔に帰られるはずであったのに。
それなのにアリューシアは私たちの身の安全など何ら考慮することなく、自分の怒りにだけ囚われて、破滅的な行動に出た。
もちろん、理解は出来る。あの光景を見せられたら、理性的でなんていられない。
それはよくわかる。いや、もしかしたらアリューシアだって戦いを始めたことを後悔していたのかもしれない。
彼女だって理解しているはずだ。これは終わりに向かう一本道だって。
しかしどれだけ彼女が後悔していたとしても、こちらは何ら慰められることではない。
全ては失敗に終わろうとしているという事実に変わりはないのだ。それは私たちが殺されてしまうという結果。
彼女の姿を見つけたのは、その次の角を曲がったところでだった。アリューシアが複数の敵に囲まれていた。
小さなアリューシアが武装した大男たちに囲まれている光景は、私の心臓を鷲掴みにして、そのまま止めてしまうだけの衝撃がある。
とはいえ、魔法使いのアリューシアは、ギャラックの大男など敵ではないようであった。
彼女の剣や槍などを持つ敵の兵を、あっさりと焼き殺していく。しかもあのゆっくりと燻り殺していく魔法。
回廊に悲鳴がこだましていた。ギャラックの兵士たちの断末魔だ。その痛みと絶望が響く中、アリューシアは次々と無表情に敵を焼き殺していく。
アリューシアは強い。いや、普通の武器しか持たない兵士が、魔法使いに敵うわけがない。その定式は絶対。私はそれを改めて確信した。
しかしどう考えても事態は絶望的な状況だった。更にその奥に、また別の武装した集団が彼女に迫っているのが見える。
そして宝石には限りがある。いつか魔法が使えなくなるときは来る。
それにまだ、本当に厄介な敵が現れてはいないはず。あの仮面兵団という傭兵部隊が。
「アリューシア、逃げよう、戻ってくるんだ!」
私は大声で叫ぶが声が出ない。カルファルの魔法の効果。だから仕方なく、彼女の許にまで走り寄らなければいけない。
しかしそのとき、私は背後から近づく足音を聞いた。
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男は恐るべき形相で、私に向かって槍を突き出してくる。
もちろん、その突進を避けられるような訓練を受けてはいない。槍は私の腹部を抉って、貫いて、短い人生は終わったものだと確信したのだけど、痛みも衝撃もやってはこなかった。
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私を槍で突いた兵士は困惑していた。どうしてこいつは死なないんだ? そんな視線で見てくる。
やがて、その困惑が恐怖に変わった。私を特別な生き物だと思ったのだろうか、いや、違う、魔法使いだと勘違いしたに違いない。
それに気づいた私は、魔法を使う素振りを見せる。兵士は武器を放り出して逃げた。
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