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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第九章 11)その魔法の欠陥
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私たちは棺桶を引き摺って進む。
別に生きることの比喩なんかではない。それが私たちの取った作戦。深夜、棺桶を引き摺り、地下道を遡り、城内に侵入する。
敵の兵士たちが寝静まる深夜、その静寂の中、城内に忍び込み、敵に見つかることなく城壁に登り、アリューシアの家族の遺体を棺桶に収容する。
私たちの作戦の骨子を簡単に説明すればこのようなもの。
この作戦が決行出来るのも、カルファルのあの特殊な魔法があるからだ。あらゆる音を消し去ることが出来る魔法。
彼がこの魔法を覚えたのは、娘のシルヴァの夜泣きに悩まされたことが原因らしい。何という身勝手な理由であろうか。しかしそれがこのような形で役に立とうとしている。
「こんな変な魔法、自分で編み出したの? だって、とても珍しい魔法でしょ?」
アリューシアが尋ねた。カルファルの魔法にかかれば、しばらくの間、一切の物音が消える。
足音や衣擦れの音だけではない。話し声も消えるのだ。私たちがこうやって会話出来るのも城内に進入する直前まで。
そのせいか、私たち幾分か多弁になった。
「いや。ある魔法使いに頼んだのさ。俺がそんな複雑なコードを書けるわけがないだろ?」
「まあ、そうよね」
前にも説明した通り、魔法言語を使い、魔族に命令することによって、炎が発生したり、瞬間移動したりすることが出来る。それが魔法の仕組み。
魔法言語で新しい命令を発すれば、新しい魔法が作成出来るわけである。すなわち魔法の種類は無限。
しかしその魔法言語のプログラムが正確でなければ、魔族は指令を受け取らない。そこには相当に複雑な理論や公式があるそうで、それなりに優秀な魔法使いでなければ、新しい魔法のコードを書いたりすることは出来ないらしい。
「世の中には実戦はからっきしでも、書斎でちまちま魔法のコードを練るのが好きな魔法使いというのがいる。そういう奴らでも、れっきとした魔法使いだ。魔法の発展に大きく寄与している」
「教師とか、研究者タイプの魔法使いね」
「そう、でも俺は違う。コードを書く勉強なんてしていない。実戦派さ。臨機応変に魔法を使いこなして、戦場で稼ぐ。アリューシア、お前もそっち側だな。初めての戦場で、あれだけ落ち着いて自分の力を発揮することが出来た。お前は生まれついての殺人者さ」
「褒めてくれているのね? ありがとう。で、あなたはそういう研究者タイプの魔法使いに頼んだわけね?」
「そうだ。音が消える魔法が欲しいってな。その種の魔法は、既に幾つも存在していたらしい。暗殺を生業にしている者たちならば必須の魔法なのさ。それに多くの魔法使いがその魔法を研究している。俺が買った魔法は、その中で最もチープな魔法だ」
「チープって?」
「俺は別に暗殺者じゃない。シルヴァの泣き声を消すことだけが目的で、この魔法を買ったからね。本物の暗殺者ならば採用しない欠陥魔法だ。ってわけで、この魔法の弱点をお前たちに説明しておかなければいけない」
「ちょっと待って、欠陥なんてあったの?」
「残念ながらな。結論から言うと、その魔法が実行されている間、俺たちの動作は、のろくなる」
「のろくなる、だって?」
私も二人の会話に加わる。カルファルがとても重要な話しをし始めたからだ。
「音というのは反響だ。雪が積もっていると妙に静かだろ? 音が反響せず、雪に吸収されているからだ。この魔法には、その自然の法則が採用されているらしい。魔族に音を吸収させているってわけだ。だから音は限りなくゼロに近づく。しかしその代わり、動作が鈍くなってしまう。平坦な道でも坂道を歩いている感じだ。動くとかなり疲れるぜ。走るのは無理だと思ったほうがいい」
「ちょっと待って、あんたは赤ちゃんにそんな魔法を使ってたの?」
「いや、寝ているだけのシルヴァには影響はない。それに別に頻繁に使っていたわけではない。俺は本当にシルヴァを愛しているんだ、彼女を苦しめるわけないだろ?」
「本当かしらね」
「とにかく、この魔法が効いている間、かなりの疲れを感じる。素早く動けないから、戦闘になれば苦労する。剣では戦えないはずだ。万が一のときは俺とアリューシアの魔法で仕留める。君たちは戦うな」
カルファルは振り向いて、棺桶を運んでいるボーアホーブの兵士たちや、エドガル、ドニに告げる。
「いずれにしろ見つかれば終わりだ。見つからないように行動する。そのための魔法なんだ。あとは運頼み」
私たちの作戦の成功率はこの程度だったのだ。つまり、運、それだけ。
「ああ、それともう一つ。当然、この魔法の持続時間は永遠ではない。この魔法の効果が持続するのは、この蝋燭が燃え尽きるくらいの時間。逆に一度使えば、効力が切れるまで持続する。勝手に終わらせることも出来ない。それも弱点だと言えば弱点かもしれない。ってことでシャグラン、お前は蝋燭係りだ。燃え尽きたら、俺に報告な」
「ああ、わかった」
まだ火が灯っていない燭台を私は受け取った。それに灯りをつけたとしても、希望なんて灯りそうにない燭台。
別に生きることの比喩なんかではない。それが私たちの取った作戦。深夜、棺桶を引き摺り、地下道を遡り、城内に侵入する。
敵の兵士たちが寝静まる深夜、その静寂の中、城内に忍び込み、敵に見つかることなく城壁に登り、アリューシアの家族の遺体を棺桶に収容する。
私たちの作戦の骨子を簡単に説明すればこのようなもの。
この作戦が決行出来るのも、カルファルのあの特殊な魔法があるからだ。あらゆる音を消し去ることが出来る魔法。
彼がこの魔法を覚えたのは、娘のシルヴァの夜泣きに悩まされたことが原因らしい。何という身勝手な理由であろうか。しかしそれがこのような形で役に立とうとしている。
「こんな変な魔法、自分で編み出したの? だって、とても珍しい魔法でしょ?」
アリューシアが尋ねた。カルファルの魔法にかかれば、しばらくの間、一切の物音が消える。
足音や衣擦れの音だけではない。話し声も消えるのだ。私たちがこうやって会話出来るのも城内に進入する直前まで。
そのせいか、私たち幾分か多弁になった。
「いや。ある魔法使いに頼んだのさ。俺がそんな複雑なコードを書けるわけがないだろ?」
「まあ、そうよね」
前にも説明した通り、魔法言語を使い、魔族に命令することによって、炎が発生したり、瞬間移動したりすることが出来る。それが魔法の仕組み。
魔法言語で新しい命令を発すれば、新しい魔法が作成出来るわけである。すなわち魔法の種類は無限。
しかしその魔法言語のプログラムが正確でなければ、魔族は指令を受け取らない。そこには相当に複雑な理論や公式があるそうで、それなりに優秀な魔法使いでなければ、新しい魔法のコードを書いたりすることは出来ないらしい。
「世の中には実戦はからっきしでも、書斎でちまちま魔法のコードを練るのが好きな魔法使いというのがいる。そういう奴らでも、れっきとした魔法使いだ。魔法の発展に大きく寄与している」
「教師とか、研究者タイプの魔法使いね」
「そう、でも俺は違う。コードを書く勉強なんてしていない。実戦派さ。臨機応変に魔法を使いこなして、戦場で稼ぐ。アリューシア、お前もそっち側だな。初めての戦場で、あれだけ落ち着いて自分の力を発揮することが出来た。お前は生まれついての殺人者さ」
「褒めてくれているのね? ありがとう。で、あなたはそういう研究者タイプの魔法使いに頼んだわけね?」
「そうだ。音が消える魔法が欲しいってな。その種の魔法は、既に幾つも存在していたらしい。暗殺を生業にしている者たちならば必須の魔法なのさ。それに多くの魔法使いがその魔法を研究している。俺が買った魔法は、その中で最もチープな魔法だ」
「チープって?」
「俺は別に暗殺者じゃない。シルヴァの泣き声を消すことだけが目的で、この魔法を買ったからね。本物の暗殺者ならば採用しない欠陥魔法だ。ってわけで、この魔法の弱点をお前たちに説明しておかなければいけない」
「ちょっと待って、欠陥なんてあったの?」
「残念ながらな。結論から言うと、その魔法が実行されている間、俺たちの動作は、のろくなる」
「のろくなる、だって?」
私も二人の会話に加わる。カルファルがとても重要な話しをし始めたからだ。
「音というのは反響だ。雪が積もっていると妙に静かだろ? 音が反響せず、雪に吸収されているからだ。この魔法には、その自然の法則が採用されているらしい。魔族に音を吸収させているってわけだ。だから音は限りなくゼロに近づく。しかしその代わり、動作が鈍くなってしまう。平坦な道でも坂道を歩いている感じだ。動くとかなり疲れるぜ。走るのは無理だと思ったほうがいい」
「ちょっと待って、あんたは赤ちゃんにそんな魔法を使ってたの?」
「いや、寝ているだけのシルヴァには影響はない。それに別に頻繁に使っていたわけではない。俺は本当にシルヴァを愛しているんだ、彼女を苦しめるわけないだろ?」
「本当かしらね」
「とにかく、この魔法が効いている間、かなりの疲れを感じる。素早く動けないから、戦闘になれば苦労する。剣では戦えないはずだ。万が一のときは俺とアリューシアの魔法で仕留める。君たちは戦うな」
カルファルは振り向いて、棺桶を運んでいるボーアホーブの兵士たちや、エドガル、ドニに告げる。
「いずれにしろ見つかれば終わりだ。見つからないように行動する。そのための魔法なんだ。あとは運頼み」
私たちの作戦の成功率はこの程度だったのだ。つまり、運、それだけ。
「ああ、それともう一つ。当然、この魔法の持続時間は永遠ではない。この魔法の効果が持続するのは、この蝋燭が燃え尽きるくらいの時間。逆に一度使えば、効力が切れるまで持続する。勝手に終わらせることも出来ない。それも弱点だと言えば弱点かもしれない。ってことでシャグラン、お前は蝋燭係りだ。燃え尽きたら、俺に報告な」
「ああ、わかった」
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