私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
上 下
162 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第八章 9)アリューシアの章

しおりを挟む
 シャグランはプラーヌスの友人らしいが、なぜ二人が友人関係を結んでいるのか、アリューシアには理解出来ない。
 プラーヌスは生きながらにして伝説の存在。世界で最も優秀な魔法使いだ。一方のシャグランは普通の人。
 本当に普通。彼の名前が歴史書に刻まれることはないだろう。

 もちろん悪い人ではない。優しくて親切で義理堅くて正直で。良いところはたくさんある。でもそれだけだ。何かの役に立つってタイプではない。まして厳しい戦場では不必要。
 しかしそんなシャグランが自信満々な態度で、この戦いに参加すると言い出したのだ。しかも彼はカルファルも連れていくという。アリューシアは呆れるしかなかった。

 「ちょっと待ってよ!」

 アリューシアはようやく声を出して、シャグランを制する。「どういうつもりよ」

 「僕たちも君の戦いに参加する。しかし目的はギャラックへの復讐じゃなくて、君の家族を取り戻すこと。サンチーヌたちの家族の安否を確認すること。それが済めば、すぐに引き上げよう」

 「訳がわからない! どうして、あなたごときに指図されないといけないのよ!」

 「良い作戦だ、目的をそれだけに絞れば、どうにかなるかもしれない」

 しかしカルファルもシャグランの意見に同意し出した。

 「だから、あなたたちが勝手に決めないでよ!」

 「敵はかなり強力だと、君は予想しているんだろ?」

 シャグランがカルファルに尋ねた。

 「そうだな、むしろアリューシアが自惚れているほど、こいつの魔法は強くないというのが、俺の意見だが」

 「何ですって!」

 アリューシアは声を荒げる。

 「あんたにも見せたかったわ、さっき、私の魔法で狼たちを一瞬で殺し尽くしたのよ」

 「今度の相手は狼じゃない。兵士だ。魔法使いも混じっているかもしれない」

 「わかっているわ、それくらい!」

 「アリューシア、君が目的を遂げるためには、一人でも味方は多いほうが良い。それに、十分な数の宝石が必要だろ?」

 「宝石?」

 確かにそれは重要だ。魔法は宝石がなければ使えない。無限の力ではないのだ。あればあるだけ、心強い。
 さすがにシャグランはプラーヌス様の友人。魔法のことはそれなりに理解しているようだ。

 「今、どれくらいある?」

 カルファルも尋ねてきた。

 「え? そうね、常に持ち歩いている革袋の中に、ダイヤモンドが十粒くらい」

 「何だって! お、おい、話しにならない!」

 カルファルは本当に驚いたといった表情を見せてきた。「こんな程度で戦えるわけがない」

 「ど、どれだけあれば十分なのよ?」

 「あればあるだけ。これは戦争なんだ、百や二百は欲しい。おい、もう少しじっくりと作戦を練って、それなりの準備を整えてから、戦場に行ったほうがいいぞ」

 「百や二百? 嘘でしょ?」

 「宝石なら僕がいくらか用意出来る。いや、百も二百もないけれど」

 シャグランが待っていたとばかりに、前に出てくる。

 「この前、塔に侵入者が来た。プラーヌスに戦いを挑みにきたんだ。まあ、結果は言うまでもない。ほとんど勝負らしい勝負もないまま決着は着いた。その魔法使いはまだ今も、この塔の医務室に居ているんだけど」

 「何が言いたいのよ?」

 「彼はそれなりの宝石を携えていた。それはこっちで全部回収した」

 彼は執務デスクの引き出しを開けて鍵を取り出した。そしてその鍵を使って、別の引き出しを開ける。やがて革袋いっぱいの宝石をずしりと机に置いた。

 「はあ、なるほど。それをくれるわけね」

 「ああ、貸す、という形になるのかもしれないけれど」

 それは必要かもしれない。とはいえ、宝石だけ貰えれば十分で、シャグランがついてくる必要はないのだけど。
 しかしアリューシアはこのやり取りに面倒になってきた。一刻も早く、ボーアホーブ領に向かいたい。

 「わかった、来たければ、勝手について来ればいいわ」

 アリューシアは宝石の革袋を奪い取るように取った。

 「よし、決まった。皆でこのミッションをクリアーしよう!」

 シャグランが興奮したように声を上げる。

 「自分の身は自分で守ってね。私はあなたを助けるつもりはないから」

 どれくらいの宝石が入っているのか、アリューシアがその革袋を覗き込もうとしたときだった。

 「ねえ、大変よ!」

 アビュがそんなことを言いながら部屋に入ってきた。
 何よ、あんたまで着いてくるつもり! アリューシアは本当に苛々しながらアビュをにらみつける。アビュはアリューシアに見向きもせず、シャグランに向かって言う。

 「ねえ、ボス。ついに来たわ。到着したの!」

 「到着した? 何が?」

 「忘れたの? 王の遣いよ! 見張り台から報告があったの。とんでもなく豪華な馬車の行列が、こっちに向かっているって」

 「何だって!」

 「王の遣い?」

 それは何だと、アリューシアは尋ねる。

 「とてつもない賓客の到着だ・・・」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

処理中です...