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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第八章 9)アリューシアの章
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シャグランはプラーヌスの友人らしいが、なぜ二人が友人関係を結んでいるのか、アリューシアには理解出来ない。
プラーヌスは生きながらにして伝説の存在。世界で最も優秀な魔法使いだ。一方のシャグランは普通の人。
本当に普通。彼の名前が歴史書に刻まれることはないだろう。
もちろん悪い人ではない。優しくて親切で義理堅くて正直で。良いところはたくさんある。でもそれだけだ。何かの役に立つってタイプではない。まして厳しい戦場では不必要。
しかしそんなシャグランが自信満々な態度で、この戦いに参加すると言い出したのだ。しかも彼はカルファルも連れていくという。アリューシアは呆れるしかなかった。
「ちょっと待ってよ!」
アリューシアはようやく声を出して、シャグランを制する。「どういうつもりよ」
「僕たちも君の戦いに参加する。しかし目的はギャラックへの復讐じゃなくて、君の家族を取り戻すこと。サンチーヌたちの家族の安否を確認すること。それが済めば、すぐに引き上げよう」
「訳がわからない! どうして、あなたごときに指図されないといけないのよ!」
「良い作戦だ、目的をそれだけに絞れば、どうにかなるかもしれない」
しかしカルファルもシャグランの意見に同意し出した。
「だから、あなたたちが勝手に決めないでよ!」
「敵はかなり強力だと、君は予想しているんだろ?」
シャグランがカルファルに尋ねた。
「そうだな、むしろアリューシアが自惚れているほど、こいつの魔法は強くないというのが、俺の意見だが」
「何ですって!」
アリューシアは声を荒げる。
「あんたにも見せたかったわ、さっき、私の魔法で狼たちを一瞬で殺し尽くしたのよ」
「今度の相手は狼じゃない。兵士だ。魔法使いも混じっているかもしれない」
「わかっているわ、それくらい!」
「アリューシア、君が目的を遂げるためには、一人でも味方は多いほうが良い。それに、十分な数の宝石が必要だろ?」
「宝石?」
確かにそれは重要だ。魔法は宝石がなければ使えない。無限の力ではないのだ。あればあるだけ、心強い。
さすがにシャグランはプラーヌス様の友人。魔法のことはそれなりに理解しているようだ。
「今、どれくらいある?」
カルファルも尋ねてきた。
「え? そうね、常に持ち歩いている革袋の中に、ダイヤモンドが十粒くらい」
「何だって! お、おい、話しにならない!」
カルファルは本当に驚いたといった表情を見せてきた。「こんな程度で戦えるわけがない」
「ど、どれだけあれば十分なのよ?」
「あればあるだけ。これは戦争なんだ、百や二百は欲しい。おい、もう少しじっくりと作戦を練って、それなりの準備を整えてから、戦場に行ったほうがいいぞ」
「百や二百? 嘘でしょ?」
「宝石なら僕がいくらか用意出来る。いや、百も二百もないけれど」
シャグランが待っていたとばかりに、前に出てくる。
「この前、塔に侵入者が来た。プラーヌスに戦いを挑みにきたんだ。まあ、結果は言うまでもない。ほとんど勝負らしい勝負もないまま決着は着いた。その魔法使いはまだ今も、この塔の医務室に居ているんだけど」
「何が言いたいのよ?」
「彼はそれなりの宝石を携えていた。それはこっちで全部回収した」
彼は執務デスクの引き出しを開けて鍵を取り出した。そしてその鍵を使って、別の引き出しを開ける。やがて革袋いっぱいの宝石をずしりと机に置いた。
「はあ、なるほど。それをくれるわけね」
「ああ、貸す、という形になるのかもしれないけれど」
それは必要かもしれない。とはいえ、宝石だけ貰えれば十分で、シャグランがついてくる必要はないのだけど。
しかしアリューシアはこのやり取りに面倒になってきた。一刻も早く、ボーアホーブ領に向かいたい。
「わかった、来たければ、勝手について来ればいいわ」
アリューシアは宝石の革袋を奪い取るように取った。
「よし、決まった。皆でこのミッションをクリアーしよう!」
シャグランが興奮したように声を上げる。
「自分の身は自分で守ってね。私はあなたを助けるつもりはないから」
どれくらいの宝石が入っているのか、アリューシアがその革袋を覗き込もうとしたときだった。
「ねえ、大変よ!」
アビュがそんなことを言いながら部屋に入ってきた。
何よ、あんたまで着いてくるつもり! アリューシアは本当に苛々しながらアビュをにらみつける。アビュはアリューシアに見向きもせず、シャグランに向かって言う。
「ねえ、ボス。ついに来たわ。到着したの!」
「到着した? 何が?」
「忘れたの? 王の遣いよ! 見張り台から報告があったの。とんでもなく豪華な馬車の行列が、こっちに向かっているって」
「何だって!」
「王の遣い?」
それは何だと、アリューシアは尋ねる。
「とてつもない賓客の到着だ・・・」
プラーヌスは生きながらにして伝説の存在。世界で最も優秀な魔法使いだ。一方のシャグランは普通の人。
本当に普通。彼の名前が歴史書に刻まれることはないだろう。
もちろん悪い人ではない。優しくて親切で義理堅くて正直で。良いところはたくさんある。でもそれだけだ。何かの役に立つってタイプではない。まして厳しい戦場では不必要。
しかしそんなシャグランが自信満々な態度で、この戦いに参加すると言い出したのだ。しかも彼はカルファルも連れていくという。アリューシアは呆れるしかなかった。
「ちょっと待ってよ!」
アリューシアはようやく声を出して、シャグランを制する。「どういうつもりよ」
「僕たちも君の戦いに参加する。しかし目的はギャラックへの復讐じゃなくて、君の家族を取り戻すこと。サンチーヌたちの家族の安否を確認すること。それが済めば、すぐに引き上げよう」
「訳がわからない! どうして、あなたごときに指図されないといけないのよ!」
「良い作戦だ、目的をそれだけに絞れば、どうにかなるかもしれない」
しかしカルファルもシャグランの意見に同意し出した。
「だから、あなたたちが勝手に決めないでよ!」
「敵はかなり強力だと、君は予想しているんだろ?」
シャグランがカルファルに尋ねた。
「そうだな、むしろアリューシアが自惚れているほど、こいつの魔法は強くないというのが、俺の意見だが」
「何ですって!」
アリューシアは声を荒げる。
「あんたにも見せたかったわ、さっき、私の魔法で狼たちを一瞬で殺し尽くしたのよ」
「今度の相手は狼じゃない。兵士だ。魔法使いも混じっているかもしれない」
「わかっているわ、それくらい!」
「アリューシア、君が目的を遂げるためには、一人でも味方は多いほうが良い。それに、十分な数の宝石が必要だろ?」
「宝石?」
確かにそれは重要だ。魔法は宝石がなければ使えない。無限の力ではないのだ。あればあるだけ、心強い。
さすがにシャグランはプラーヌス様の友人。魔法のことはそれなりに理解しているようだ。
「今、どれくらいある?」
カルファルも尋ねてきた。
「え? そうね、常に持ち歩いている革袋の中に、ダイヤモンドが十粒くらい」
「何だって! お、おい、話しにならない!」
カルファルは本当に驚いたといった表情を見せてきた。「こんな程度で戦えるわけがない」
「ど、どれだけあれば十分なのよ?」
「あればあるだけ。これは戦争なんだ、百や二百は欲しい。おい、もう少しじっくりと作戦を練って、それなりの準備を整えてから、戦場に行ったほうがいいぞ」
「百や二百? 嘘でしょ?」
「宝石なら僕がいくらか用意出来る。いや、百も二百もないけれど」
シャグランが待っていたとばかりに、前に出てくる。
「この前、塔に侵入者が来た。プラーヌスに戦いを挑みにきたんだ。まあ、結果は言うまでもない。ほとんど勝負らしい勝負もないまま決着は着いた。その魔法使いはまだ今も、この塔の医務室に居ているんだけど」
「何が言いたいのよ?」
「彼はそれなりの宝石を携えていた。それはこっちで全部回収した」
彼は執務デスクの引き出しを開けて鍵を取り出した。そしてその鍵を使って、別の引き出しを開ける。やがて革袋いっぱいの宝石をずしりと机に置いた。
「はあ、なるほど。それをくれるわけね」
「ああ、貸す、という形になるのかもしれないけれど」
それは必要かもしれない。とはいえ、宝石だけ貰えれば十分で、シャグランがついてくる必要はないのだけど。
しかしアリューシアはこのやり取りに面倒になってきた。一刻も早く、ボーアホーブ領に向かいたい。
「わかった、来たければ、勝手について来ればいいわ」
アリューシアは宝石の革袋を奪い取るように取った。
「よし、決まった。皆でこのミッションをクリアーしよう!」
シャグランが興奮したように声を上げる。
「自分の身は自分で守ってね。私はあなたを助けるつもりはないから」
どれくらいの宝石が入っているのか、アリューシアがその革袋を覗き込もうとしたときだった。
「ねえ、大変よ!」
アビュがそんなことを言いながら部屋に入ってきた。
何よ、あんたまで着いてくるつもり! アリューシアは本当に苛々しながらアビュをにらみつける。アビュはアリューシアに見向きもせず、シャグランに向かって言う。
「ねえ、ボス。ついに来たわ。到着したの!」
「到着した? 何が?」
「忘れたの? 王の遣いよ! 見張り台から報告があったの。とんでもなく豪華な馬車の行列が、こっちに向かっているって」
「何だって!」
「王の遣い?」
それは何だと、アリューシアは尋ねる。
「とてつもない賓客の到着だ・・・」
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