私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第八章 6)アリューシアの章

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 誰かがアリューシアの名前を呼んでいるようだった。その声は右に左にと彷徨っていたが、いつからか方向を定めたようで、徐々にこちらに近づいてきている。
 契約を果たした高揚感が、ようやくアリューシアの中に少しずつ湧き上がってきていた。しばらく、それを独り噛み締めていたかったのに、現実が彼女の許にやって来たようだ。

 「私を呼んでいるわ」

――新たな夢の世界を生きるがいい。

 「じゃあ、またね」

 アリューシアは魔法の道具を耳から外して、サッと振り向く。

 「シャグランね」

 その通り、彼女を探していたシャグランが、ようやく居場所を見つけてくれたようだ。雨に濡れ、肩で息をしながらこっちに走ってくる。その背後、はるか遠くに塔が見える。更にその向こうには雲に切れ間に沈みつつある太陽と、登り始めた満月。

 「よ、よかった、本当に良かった。大丈夫かい、アリューシア?」

 シャグランはアリューシアの許にまで来て、とても心配そうな視線を向けてくる。アリューシアがひどい落ち込み方をしていると思い込んでいるようだった。
 実際、アリューシアは胸が潰れそうな悲しみに襲われ、部屋を飛び出て、塔を飛び出て、ここまで独りで走ってきたのだ。あの瞬間のアリューシアを見たのだから、シャグランが心配するのは当然。

 「大丈夫。プラーヌス様に言っておいて。課題を無事にクリアーしたって」

 「何だって?」

 「ちゃんと約束を守ってねって。そしてありったけの魔法の知識を私に伝授して。そしていつか、私はプラーヌス様を超える」

 「よし、わかった、アリューシア、僕からもプラーヌスに話してやる。君はここまでよくやった。これだけのことがあったんだ。もしかしたら彼も一定の理解は示してくれるかもしれない。少なくとも、今日中に出ていけなんて言わせないよ。悲しみが癒えるまで、この塔でゆっくりしていけばいいさ」

 「え? え? ちょっと待ってよ、シャグラン」

 シャグランは彼女の言葉を信じていない。彼女の理性が、あの悲しみのせいでどうにかなってしまったと、彼は思っている。

 「嘘じゃないわ。契約が成功したの。私はプラーヌス様の弟子よ。まあ、でもその前にやらなければいけないことがあるんだけどね」

 「契約した?」

 「そうそう、えーと」

 水晶玉を見せようと革袋を探す。しかし水晶玉は地面に投げ捨てたのだ。彼女は足元に転がっていた水晶玉を拾って、それを見せる。

 「ほらね、この通り。昨日まで、あの緑の光はもっと遠いところに居たでしょ? でも今はこの通り」

 しかしシャグランは険しい表情で首を傾げている。まだ信じていないようだ。というか、シャグランは魔法の知識に疎い。水晶玉の中の魔族を見ただけでは、その変化に気づくことは出来ないのだろう。

 「もう面倒臭いわね、とにかく私は契約出来たの。だけど、そんなことで喜んでいられない。これからすぐボーアホーブ領に帰って、パパとママを迎いに行く」

 「ああ、アリューシア・・・」

 シャグランが本当に痛々しそうにこっちを見てくる。しまった。また誤解をさせるようなことを言ってしまったようだ。

 「本当にとんでもないことが起きた。君はまだその現実を受け止めることは出来ないかもしれない。いや、しばらく受け止める必要はないさ。とにかく少しの間、塔でゆっくりとしておこう。さあ、早く部屋に戻ろう」

 彼は悲しみに満ちた表情で優しく語ってくる。

 「違うの、違うの、わかっている。パパとママは死んじゃった。私が言っているのはそういうことじゃなくて、二人をちゃんと埋葬したいってこと。遺体をギャラックから取り返すの!」

 ようやくシャグランの視線が変わった。憐れむように見つめていた視線は、今、完全に消えた。

 「君は本当に契約に成功したのか?」

 「そうよ」

 「プラーヌスが出した課題をクリアーした?」

 「さっきからそう言っているじゃない」

 「信じられない!」

 「でも本当に起きたの。ところで、私もさっきの意見に賛成よ」

 「さっきの意見だって?」

 「そう、さっさと部屋に戻ろうって意見。今朝、この辺りに狼が出るって話してなかったっけ?」

 「ああ、そうだ。君が狼の餌食になっていないか心配だった。部屋に戻ろう」

 「でも手遅れよ。ほら、狼が集まってきた。あなたの後ろ」

 「何だって!」

 彼は慌てて振り向く。その取り乱し方は無様だと言えば無様ではあるが、可愛らしさと言えば可愛らしさでもあり、シャグランのこういうところは嫌いじゃない。
 しかし頼りない男である。一瞬でも、この人について行こうとした自分は馬鹿だったとアリューシアは心の底から思う。やっぱり私のような女は、プラーヌス様くらいしか釣り合いが取れない。

 「さあ、シャグラン、私の後ろに隠れて」

 よだれを流し、目をギラギラと光らせた狼の群れが、ジリジリと距離を詰めて来る。それを見て、シャグランは憐れなくらいに狼狽えていた。彼女はそんなシャグランを押しのけて前に出る。

 「な、何を言っているんだ、君を餌にして、僕だけ逃げられるわけないだろ!」

 大人の男として、それはプライドが許せないようだった。彼は必死に勇気を振り絞って言ってくる。

 「当たり前よ。こいつらを殺すの。私の魔法が炸裂するわ!」

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