私の邪悪な魔法使いの友人2

ロキ

文字の大きさ
上 下
156 / 188
シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子

第八章 3)アリューシアの章

しおりを挟む
 (パパやママがこの世界からいなくなるなんて・・・。もう二度と会えないんだ。いいえ、それだけじゃない、私には帰る家もなくなった。部屋に置いてきた人形でも遊べない。窓からあの庭を見ることだって出来ない)

 アリューシアは悲しくて堪らない。しかし彼女はどこか冷静でもある。悲しみに沈んでいる自分の姿を、冷静な自分が少し離れた位置から眺めるような感じ。
 もっと悲しいことを考えて、その悲しみの中にどこまでも深く耽溺しようと思った。そんな可哀想な自分を眺めるのだ。それが今、自分を慰める唯一の方法かもしれない。

 (ボーアホーブ家は、この世界からなくなってしまった。自分にはもう何の価値もないだろう。ラダやリーズだって、私を捨てるかもしれない。サンチーヌも・・・。だって私には彼らを養うことは出来ないのだから)

 アリューシアは顔をゆっくりと上げる。涙が頬を流れていく。その感覚が地良い。

 (ああ、それでも空はこんなに綺麗で、風は爽やかに流れていて、いつものように変わることなく、どこかで鳥は鳴いている)

 「世界って残酷ね」

 アリューシアは少し演技がかった口調で言う。

 「しかも私は、このままだとプラーヌス様に、この塔から追い出されてしまう。だって、あの課題をクリアー出来ないわけだし」

 「それなのに、帰る場所はない」

 「本当に最悪だわ。もう死んだほうがマシね。私はきっと、この世界で最も哀れな女の子」

 (あれ? そう言えば魔族は悲しみが大好きじゃなかったっけ?)

 ふと我に返って、アリューシアは水晶玉を見る。その水晶玉の奥に、課題として与えられた魔族が映っている。
 アリューシアは大いなる期待を込めて水晶玉を凝視する。もしかしたらあの魔族が自分に興味を示して初めてはいないかと。
 しかしそいつはこれまでと何も変わることなく、ただ緑色の光をぼんやりと発しているだけだった。

 (魔族たちは痛みや悲しみが好物で、痛みや悲しみを抱える魔法使いに近寄ってくる傾向がある。だから優秀な魔法使いになるために自らを傷つけ、痛みや悲しみを無理に引き寄せる。それが定説でしょ?)

 多くの魔法使いたちは、自らの身体を自ら傷つける。その痛みで魔族の共感を乞うのである。

 (私は本当に今、悲しんでいるのよ。心がこんなに痛いのよ? でもどうして魔族はそれに反応してくれないのよ!)

 アリューシアはこの魔族が憎くて仕方がなかった。ずっと私を冷淡に無視し続けてくるこの緑の色の光。
 この数日、ずっとこの光と向かい合ってきた。しかし一向に変化なし。本当に憂鬱な気分になる。水晶玉を叩きつけたい気分だ。
 これだけの悲しみと痛みの中にいても、魔族は反応しないなんて。それ程、自分には魔法使いとしての魅力がないのだろうか。

 (それとも、他の魔法使いたちは、もっと悲しくて、痛い思いをしながら生きているの?)

 「わかった、じゃあ、もっと悲しんでやればいいのだ」

 悲しみを数えるのはとても簡単だ。だって本当に悲しいのだから。
 しかもアリューシアは、本当に悲しくて、どうしようもないくらいに苦しいのに、どこか頭は冴えていて、冷静に自分の境遇を観察することが出来ている。彼女はいくらでも、自分を憐れむことが出来る。

 (両親は死んで、帰る場所もなくなって、どうやら長い間、夢を見ていて目標も潰え、たくさんあった財産だってなくなった。あとそれ以外に、私の運命に起こりそうな悲惨なことって、何があるかな? でも、これで充分でしょ?)

 心が痛い。立っているのが辛いくらい。胸が痛くて堪らない。
 それでも魔族はアリューシアを無視している。

 「どうでもいいわ、もう魔法のことなんてどうでも!」

 何かが空から落ちてきて、アリューシアの肩に落ちてきた。
 小さな粒。雨が降ってきたようだ。
 更に運命は、アリューシアをいたぶろうとしている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...