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シーズン2 私の邪悪な魔法使いの友人の弟子
第八章 3)アリューシアの章
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(パパやママがこの世界からいなくなるなんて・・・。もう二度と会えないんだ。いいえ、それだけじゃない、私には帰る家もなくなった。部屋に置いてきた人形でも遊べない。窓からあの庭を見ることだって出来ない)
アリューシアは悲しくて堪らない。しかし彼女はどこか冷静でもある。悲しみに沈んでいる自分の姿を、冷静な自分が少し離れた位置から眺めるような感じ。
もっと悲しいことを考えて、その悲しみの中にどこまでも深く耽溺しようと思った。そんな可哀想な自分を眺めるのだ。それが今、自分を慰める唯一の方法かもしれない。
(ボーアホーブ家は、この世界からなくなってしまった。自分にはもう何の価値もないだろう。ラダやリーズだって、私を捨てるかもしれない。サンチーヌも・・・。だって私には彼らを養うことは出来ないのだから)
アリューシアは顔をゆっくりと上げる。涙が頬を流れていく。その感覚が地良い。
(ああ、それでも空はこんなに綺麗で、風は爽やかに流れていて、いつものように変わることなく、どこかで鳥は鳴いている)
「世界って残酷ね」
アリューシアは少し演技がかった口調で言う。
「しかも私は、このままだとプラーヌス様に、この塔から追い出されてしまう。だって、あの課題をクリアー出来ないわけだし」
「それなのに、帰る場所はない」
「本当に最悪だわ。もう死んだほうがマシね。私はきっと、この世界で最も哀れな女の子」
(あれ? そう言えば魔族は悲しみが大好きじゃなかったっけ?)
ふと我に返って、アリューシアは水晶玉を見る。その水晶玉の奥に、課題として与えられた魔族が映っている。
アリューシアは大いなる期待を込めて水晶玉を凝視する。もしかしたらあの魔族が自分に興味を示して初めてはいないかと。
しかしそいつはこれまでと何も変わることなく、ただ緑色の光をぼんやりと発しているだけだった。
(魔族たちは痛みや悲しみが好物で、痛みや悲しみを抱える魔法使いに近寄ってくる傾向がある。だから優秀な魔法使いになるために自らを傷つけ、痛みや悲しみを無理に引き寄せる。それが定説でしょ?)
多くの魔法使いたちは、自らの身体を自ら傷つける。その痛みで魔族の共感を乞うのである。
(私は本当に今、悲しんでいるのよ。心がこんなに痛いのよ? でもどうして魔族はそれに反応してくれないのよ!)
アリューシアはこの魔族が憎くて仕方がなかった。ずっと私を冷淡に無視し続けてくるこの緑の色の光。
この数日、ずっとこの光と向かい合ってきた。しかし一向に変化なし。本当に憂鬱な気分になる。水晶玉を叩きつけたい気分だ。
これだけの悲しみと痛みの中にいても、魔族は反応しないなんて。それ程、自分には魔法使いとしての魅力がないのだろうか。
(それとも、他の魔法使いたちは、もっと悲しくて、痛い思いをしながら生きているの?)
「わかった、じゃあ、もっと悲しんでやればいいのだ」
悲しみを数えるのはとても簡単だ。だって本当に悲しいのだから。
しかもアリューシアは、本当に悲しくて、どうしようもないくらいに苦しいのに、どこか頭は冴えていて、冷静に自分の境遇を観察することが出来ている。彼女はいくらでも、自分を憐れむことが出来る。
(両親は死んで、帰る場所もなくなって、どうやら長い間、夢を見ていて目標も潰え、たくさんあった財産だってなくなった。あとそれ以外に、私の運命に起こりそうな悲惨なことって、何があるかな? でも、これで充分でしょ?)
心が痛い。立っているのが辛いくらい。胸が痛くて堪らない。
それでも魔族はアリューシアを無視している。
「どうでもいいわ、もう魔法のことなんてどうでも!」
何かが空から落ちてきて、アリューシアの肩に落ちてきた。
小さな粒。雨が降ってきたようだ。
更に運命は、アリューシアをいたぶろうとしている。
アリューシアは悲しくて堪らない。しかし彼女はどこか冷静でもある。悲しみに沈んでいる自分の姿を、冷静な自分が少し離れた位置から眺めるような感じ。
もっと悲しいことを考えて、その悲しみの中にどこまでも深く耽溺しようと思った。そんな可哀想な自分を眺めるのだ。それが今、自分を慰める唯一の方法かもしれない。
(ボーアホーブ家は、この世界からなくなってしまった。自分にはもう何の価値もないだろう。ラダやリーズだって、私を捨てるかもしれない。サンチーヌも・・・。だって私には彼らを養うことは出来ないのだから)
アリューシアは顔をゆっくりと上げる。涙が頬を流れていく。その感覚が地良い。
(ああ、それでも空はこんなに綺麗で、風は爽やかに流れていて、いつものように変わることなく、どこかで鳥は鳴いている)
「世界って残酷ね」
アリューシアは少し演技がかった口調で言う。
「しかも私は、このままだとプラーヌス様に、この塔から追い出されてしまう。だって、あの課題をクリアー出来ないわけだし」
「それなのに、帰る場所はない」
「本当に最悪だわ。もう死んだほうがマシね。私はきっと、この世界で最も哀れな女の子」
(あれ? そう言えば魔族は悲しみが大好きじゃなかったっけ?)
ふと我に返って、アリューシアは水晶玉を見る。その水晶玉の奥に、課題として与えられた魔族が映っている。
アリューシアは大いなる期待を込めて水晶玉を凝視する。もしかしたらあの魔族が自分に興味を示して初めてはいないかと。
しかしそいつはこれまでと何も変わることなく、ただ緑色の光をぼんやりと発しているだけだった。
(魔族たちは痛みや悲しみが好物で、痛みや悲しみを抱える魔法使いに近寄ってくる傾向がある。だから優秀な魔法使いになるために自らを傷つけ、痛みや悲しみを無理に引き寄せる。それが定説でしょ?)
多くの魔法使いたちは、自らの身体を自ら傷つける。その痛みで魔族の共感を乞うのである。
(私は本当に今、悲しんでいるのよ。心がこんなに痛いのよ? でもどうして魔族はそれに反応してくれないのよ!)
アリューシアはこの魔族が憎くて仕方がなかった。ずっと私を冷淡に無視し続けてくるこの緑の色の光。
この数日、ずっとこの光と向かい合ってきた。しかし一向に変化なし。本当に憂鬱な気分になる。水晶玉を叩きつけたい気分だ。
これだけの悲しみと痛みの中にいても、魔族は反応しないなんて。それ程、自分には魔法使いとしての魅力がないのだろうか。
(それとも、他の魔法使いたちは、もっと悲しくて、痛い思いをしながら生きているの?)
「わかった、じゃあ、もっと悲しんでやればいいのだ」
悲しみを数えるのはとても簡単だ。だって本当に悲しいのだから。
しかもアリューシアは、本当に悲しくて、どうしようもないくらいに苦しいのに、どこか頭は冴えていて、冷静に自分の境遇を観察することが出来ている。彼女はいくらでも、自分を憐れむことが出来る。
(両親は死んで、帰る場所もなくなって、どうやら長い間、夢を見ていて目標も潰え、たくさんあった財産だってなくなった。あとそれ以外に、私の運命に起こりそうな悲惨なことって、何があるかな? でも、これで充分でしょ?)
心が痛い。立っているのが辛いくらい。胸が痛くて堪らない。
それでも魔族はアリューシアを無視している。
「どうでもいいわ、もう魔法のことなんてどうでも!」
何かが空から落ちてきて、アリューシアの肩に落ちてきた。
小さな粒。雨が降ってきたようだ。
更に運命は、アリューシアをいたぶろうとしている。
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